村上和雄

2025年05月01日



2009年頃、親戚が妙な本を送りつけてきました。 
とっても感動的なので読んでほしい、ということだったのですが…
この人は急にカトリックへの信仰に目覚めたちょっとイタイ人なのですが、送られてきた本は… 


『約束―般若心経は「愛の詩」』 



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なぜに仏教…。 
帯には

『心の目と心の耳で読んでみると
……あっ、そうなのか!
DNAとデジタルから「空」がわかった!
「空」とは、いつかのいい日のための「約束」!』

との惹句が。

…うわぁ……。 
いろいろ絶句。 

著者は山元加津子、通称「かっこちゃん」という養護学校教員(当時)。 
結構な数の著作があり、講演や映画製作も行っている一部では有名な人っぽい。

パラパラめくると風景写真と寝言ポエムをゆったり配した、スカスカな作り。 
ゆる~いスピリチュアル本によくあるアレですね。
脳に負担がかからない、ユーザーフレンドリーな仕様。


で、斜め読みしたところ…もの凄い本でしたー! 

ちなみに「斜め読み」つってもざっくり袈裟懸けに視線を走らせただけで内容は把握できるレベルなので、結果的にはちゃんと読んでます。


この人はつねづね「すべてのことは、いつかのいい日のためにある」というのをキーワードにしていて、この風邪を引きそうな生ぬる~い考えに首まで浸かっている模様。【註1】 

そこまでは別に良いです。 
そういう人は佃煮にするほどいますし。 
彼女が凄まじいのはここから。 

かっこちゃんは般若心経のことはほとんど知らない、と自分で書いてます。
般若心経といえば「色即是空」くらいしか知らないのだとか。
ちなみに「色」はこの世にある全ての認識できるもの、という意味なので、色即是空とは「この世界は全て空なのだ」という意味。

で、かっこちゃんは↓こんな感じのことを考えます。
 

デジタル機器のメモリースティックってすごくちっちゃいし、DNAなんか目に見えない。 
そこに詰まっている膨大な量の情報それ自体には重さがないんだなぁ…。 
おお、これぞ色即是空。 



…「デジタルもDNAも、般若心経でわかる」というのはただそれだけの意味だった模様。
この後、デジタルだのDNAだのは一切出てきませんええー…驚愕。

これで色即是空とかデジタルとかDNAについて何事かを「理解した」などと言えるんですかね…?【註2】 
まぁこれを一人で思いついたこと自体は「良かったね」と誉めてあげたいです。 
でもちょっと気の効いた人なら誰でも考え付くレベルの話だし、わざわざ出版してまで他者に吹聴するというのは尋常ではないよーな。
そうするだけの価値があると何故思っちゃったのか。

ちなみに私がかっこちゃんの主張を要約しすぎたり、ごく一部を取り出した結果おかしなことになっているのではないかと思われるかもしれませんが、彼女の言っていることは本当にこのレベルなのです。


かっこちゃんの暴走はまだ続きます。
彼女は 

「般若心経はとってもありがたいお経なのだから、私が一番大事だと思う『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』というメッセージもどこかに出てくるに違いない」 

と考えた模様。
そして般若心経を読んでみたところ、それらしき部分をあちこちに発見。 

ちょっと待ってー! 
それって要するに、般若心経から何かを学ぶのではなく、「自分の主張にあてはまる部分を探してるだけ」ってこと…?

しかもかっこちゃんが「般若心経と合致する」と主張する部分が、私にはあまりそうは見えなかったり

で、かっこちゃんは般若心経全文を引用するのですが…
彼女が「うわぁ、私の考えと同じだー」と勝手に認定した部分だけを濃く、それ以外の部分を薄く印刷。
で、大半を占める薄い部分は最後まで完全スルーで「なかった」ことに。
うわぁ、こんな斬新な般若心経の本、見たことないよ! 

自分の主張と関係ない部分には一切興味なし…! 
かっこちゃんは割り切りっぷりが凄いのです。 


さらにかっこちゃんは 

「般若心経には意味が深すぎて偉いお坊さんにも理解できない箇所【註3】があるんだって。それこそが一番大事なことのはず…
ということは、そこにはきっと…
『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』
って書いてあるに違いない!」(意訳) 

といきなり断定(根拠ゼロ)。 

もう何ていうか、「言った者勝ち」とはこのことだなー、と痛感。 
どうせ誰にも解らないんだから、何を言っても証明の必要はない、というわけですね。【註4】 

私はお釈迦さんを崇めたりはしませんが、それでも「自分の主義主張が仏様の最重要メッセージと一致する」などという妄想は尊大にも程があるだろ、と思うです。 
相当自分に自信がないと出来ない芸当よな。
自分は釈尊と同レベルだと思ってるのかかっこちゃん…シンクロ率400%。

『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』を唯一にして至高の言葉と思い込む…
その安易で軽薄な態度には驚かされっぱなし。
少なくともゴータマ・シッダールタさんはもっともっと考え抜き、誠実に悩んだよね。

…いや、ブッダも「悟ったどー!」と自ら吹聴する厚顔無恥っぷりを発揮していたんだっけ。 
そういう意味ではかっこちゃんこそが大日如来の衣鉢を継ぐに値する人物なのかも。

この本に内容がないのも「色即是空」の実践だったりして。



そんなかっこちゃんですが、2年前にたまたま街で見かけたポスターで久しぶりに名前を拝見。


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…村上和雄と接近してる〜!?

この村上和雄という人はトンデモ界隈の有名人でですね。
当ブログでも以前にちょろりと取り上げたことがあります。


『チコちゃんに叱られろ:前編』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835660.html



↑ココで私は↓こう書いてます。

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ちなみに村上和雄というトンデモさんがいるのですが、この人も同様の発言をしてました。 
たしか『ナイトサイエンス教室〈1〉生命の意味』という著作だったと思うのですが、「僕は利他的な遺伝子というのもあると思う。それについてドーキンスとやりあってもいい」みたいなコト言って「この人、分かってNEEEEE!」感を醸し出してましたな。 

なお、この人は著者紹介で「ノーベル賞に一番近いとされる科学者」と書かれてたりするのですが…
それってソースは何ですか? 

村上和雄は遺伝子にオンオフのスイッチがあるという事実から『君のやる気スイッチをオンにする遺伝子の話』とか『スイッチ・オンの生き方』などという、タイトルの時点で乱暴かつ安易な本を書いてみたりもしています。 

が、村上和雄を語る上で最も重要なキーワードは「サムシンググレート」 でしょう。 
これは「生命は進化論では説明できない。なんかもっとこう、偉大な何か(サムシンググレート)があると思うんだよね~」的な、超絶ぼんやりした考え方です。 
それって神やん。 

そして「神とは言わないけど、偉大な何かが…」的な言い逃れを繰り出すのって、どっかで見たことあるよね? 
これってアメリカで
「いやいや、神とは言ってないですよ?
神とは言ってないけど、『知性あるデザイナー』が生命を作ったという科学的な仮説も成り立つので、生徒には公平に進化論と知性あるデザイナー説の両方を教えましょう!」
とか言って科学教育に宗教を持ち込もうとしてる『ID理論』と同じやんけ!

しかも村上和雄は天理教の信者で、著書でサムシング・グレートを「あれは親神様のことです」と認めちゃってるんだよな~… 

まぁこの人は自著のタイトルが 『どうせ生きるなら「バカ」がいい』とか『アホは神の望み』とかなので、親神様の望み通りに生きたら良いと思います。 
でもそれを科学や教育の世界に持ち込むのは勘弁な!

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そんな村上和雄ですが、何故かサムシング・グレート云々の宗教ポエムが中学社会の検定済み教科書に堂々と載ってたり。


【ブルーバックス】
『子どもたちの教育に「ニセ科学」が忍び込んでいる事実をご存知か』
https://gendai.media/articles/-/57203


教科書の発行元は育鵬社。
フジサンケイグループの扶桑社の子会社で、「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂した「教科書改善の会」の版元として作られたネトウヨ出版社ですね。

Wikipedia「育鵬社」の項にはこの教科書について↓こうあります。

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モンタナ州立大学文化人類学フェミニズム学者の山口智美は、育鵬社版の中学公民教科書『中学社会新しいみんなの公民』は、東日本大震災の被災地で黙祷する天皇皇后の写真を掲載し「日本の歴史には、天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して、国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました」と記述したり、「自分を犠牲に住民守った公務員」について掲載するなど国家への自己犠牲やナショナリズムを煽る内容で、また、改憲を推進する内容や、領土問題については日本の立場のみが詳細に示されていると批判した[11]。山口は、この教科書は、安倍晋三内閣総理大臣の写真を多用し、「安倍晋三ファンブック」であると述べている[11]。他にも、反進化論(インテリジェント・デザイン)の立場に近いサムシング・グレート [注 1]や江戸しぐさ[注 2]を紹介していると指摘されている[11]。
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…江戸しぐさ!
なんでこういうことになってるかというと、高橋史朗という「つくる会」副会長やら日本会議役員やらを歴任してきたオッサンが、「親学」なるトンデモ物件を立ち上げて、疑似科学的主張を行ってるからです。
その「親学」の根拠として江戸しぐさやサムシング・グレートやトンデモ脳科学を持ち出してるのですね。



ちなみに高橋史郎や日本会議事務総長の椛島有三らは新宗教「生長の家」出身です。
生長の家はかつて政治運動をやっていた時期があり、現在では撤退しているのですが、その残滓が彼らと言えるでしょう。
右翼について調べていくとこれら「生長の家」人脈に何度も行き当たります。


ちなみに「親学 サムシンググレート」でぐぐると、最初にヒットするのが↓コレ。


【第三文明】
『「江戸しぐさ」と『親学』ーーオカルト化する日本の教育』
https://www.d3b.jp/media/8422


「江戸しぐさ」批判の第一人者、原田実が親学をばっさり批判。

掲載がなぜか『第三文明』という創価学会系雑誌という謎。
カルト宗教同士、生長の家系とは仲が悪いんですかね?


生長の家系である日本会議は自民の支持母体。

創価学会を支持母体とする公明党は自民の連立相手。
どっちも自民党を支える団体なのに。呉越同舟。
あと「生長の家系」と書くとラーメン感が出ること判明。

ついでに言えば原田実も、今でこそと学会・ASIOS所属のしごできですが…
元はムーのライターだったり、トンデモ学者の助手だったり、元「作る会」会員だったりと闇が深い。
それなのにちゃんと親学批判できてえらい!


原田実については↓ココを参照。


『原田実の微妙なポジション』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835457.html



そしてかっこちゃんと村上和雄には共著もある模様。


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内容は、

『かっこちゃんがファンタジーで伝える「サムシング・グレート」の世界。』

なのだそう。
わざわざファンタジーで伝えなくても、サムシング・グレート、つまりは神サマの話というだけで充分にファンタジー

おまけに帯に
『新型コロナウィルスの流行は「サムシング・グレート」からの大切なメッセージ』
って大書してあるやん。

あーそうですか。
志村けんはサムシング・グレートからのメッセージを伝えるために死を与えられたんですか。
そりゃおめでたいですね(かっこちゃんの頭が)。

災厄の度に誰かがこの手のコト言って炎上してるのに。
東日本大震災の時に「天罰」言うてた石原慎太郎とか。
なお、石原慎太郎は後にこの件を振り返ってますが無反省。


【日経ビジネス】
『追悼 石原慎太郎氏、震災から7年後に明かした「天罰発言」の真意』

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/020100334/



さらにかっこちゃん、Instagramで↓こんな発言も。



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うわぁ、村上和雄から衣鉢を託されてるー!


カトリックなのに般若心経の本(でもないけど)を送り付けてくる親戚。
般若心経の本書いてたのに天理教の村上和雄に接近するかっこちゃん。
そして村上和雄を利用する親学・日本会議は生長の家系。
なんかいろいろ超党派。

そういやうちの職場にもカトリックなのに
でも一番大事なのはミキプルーン』と公言してるおばちゃんいたなぁ…。マルチ商法。
健康食品より下に置かれるとはイエスさんも草葉の陰でブチ切れ案件。


般若心経については↓この本が読みやすくお薦め。

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妹君に貸したらめちゃ気に入られ、枕頭の一冊に。
そのままプレゼントしときました。



…と思ってたら、笑い飯哲夫がネトウヨ化。


【posfie】
『笑い飯・哲夫「国民のみなさん、日本はもう二度と謝らないことを覚えておいてください」』
https://togetter.com/li/918658


【5ちゃんねる ニュー速(嫌儲)】
【悲報】笑い飯・哲夫「死んだ安倍さんを批判する人は日本人とは思えない。外国人かな?」
https://itest.5ch.net/greta/test/read.cgi/poverty/1664690139/


【5ちゃんねる ニュー速(嫌儲)】
『笑い飯哲夫「宗教2世の辛さだと?甘えるな!宗教2世でもしっかり生きてる人山ほどいる」』https://itest.5ch.net/greta/test/read.cgi/poverty/1660218103/153


 【笑い飯 哲夫のあちこち恢々】『アメリカ人もびっくり憲法「ヨミニクイヨ」』
https://www.sankei.com/article/20160724-FOUATYAG6JPJNCBTIEPCJLQN24/2/


…仏教を学べばネトウヨさんにはならない、というものでもないみたいですね。
論理と平等の人だったお釈迦さんが知ったらどう思うのやら。









【おまけ】 

『宇宙(そら)の約束』
(「般若心経」山元加津子心訳) 

http://itijikurin.web.fc2.com/kyoku/hannya.html 

これがかっこちゃん流の俺般若心経…「かっこちゃん心経」だ! 
一読すれば解る様に、般若心経の原型を全くとどめてません。

「心訳」というのは「超訳」もびっくりの勝手な解釈をしてみたよ、という意味なんですかね…?




【おことわり】 

今回のエントリを書くにあたってかっこちゃんの本を参照しようとしましたが、すでにおかんの手によって廃棄されていたため、できませんでしたー。
記憶のみに頼って書いたので、不正確な部分があればお詫びします。
でもホントに大体こなかじ。




【註1:生ぬる〜い考え】 

そりゃ生きていれば良いこともあるでしょ。
目の前に自殺志願者がいれば私だってそれくらいは言います、
でも、「いいこと」があるのはあくまで結果に過ぎないですよね。

あらかじめ良いことが用意されていて、現在がその「ために」ある、などというのは欺瞞もいいところでは…

↑これは私の深読みで、かっこちゃんはそこまでの主張はしておらず、単に「きっと良い日もあるよ、だから大丈夫」程度のことしか言っていないという可能性もあります。
でももしそうだとしたら、ますますぬるくなったこの言葉を特別視する理由はなおさらないんじゃ…。



【註2:色即是空とかデジタルとかDNAとか】 

情報そのものには質量がない、なんて当たり前と言えばあまりにも当たり前。 
「色即是空」はもっと奥が深い言葉です。

我々が認識する世界は全て感覚器官から入ってきて脳内で処理された「情報」に過ぎません。
つまり我々にとっての世界は、全て実体のないもの。

人間が認識する世界、つまりインナーワールドだけではなくて、実際の世界・アウターワールドだって「色即是空」に近いものが。

原子論(現代科学で言うところの素粒子論)なんかモロにそう。 
全ての物資は分割不可能な基本的粒子の組み合わせだけで出来ていて、しかも粒子はお互いに遠く離れ、その間の広大な空間には何もなくてスカスカ。

素粒子(基本粒子)は大きさを持たない点であるという説もあるし、超弦理論では全ての素粒子は有限な大きさを持つ超弦の振動状態であるとされ、ますます「世界はからっぽですぞ~」という感じ。 

ただし、この手の後付けのアナロジーにあまり翻弄されるべきではないでしょう。
仏教はこれらの科学的事実を踏まえて教義を作ったわけではないし。
「でたらめに言ったことがたまたま当たっていた」とか、「後世の人間が都合よく解釈してくれた」という方が近い気が。

ちなみに↓この仏教学者の言葉が素晴らしいです。

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【註3:偉いお坊さんにも理解できない箇所】 

2箇所ある、サンスクリット語をそのまま漢字で音写した部分のことと思われ。
簡単には訳せないので音写した模様。

「ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー」のあたりとか。



【註4:証明の必要はない】 

科学のルールではそういう反証不能(否定する方法がない)な主張は議論の俎上には乗せられないので棄却するしかありません。









(00:14)

2022年03月19日


コロナ禍に乗じて福岡伸一がトンデモ発言をしていたので取り上げておきます。 

福岡伸一については少し前に、下記のエントリでこう評しました。



【科学的にも正しく尊い「男系男子」?】 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/9846059.html


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ちなみにこの福岡伸一は…なんていうか全体論者的な人物で、「還元論だけでは説明できないんじゃよー」みたいなことを言う割に、じゃあ全体論で何が説明できるのかというとその辺は曖昧という、「スティーヴン・ジェイ・グールド日本版」みたいな人という印象。 
まぁ「ホリスティック医学」とかの全体論めいた主張とか、現代ダーウィニズムを批判して「構造主義生物学ガ―!」と吠えてる池田清彦とか、あの辺って「掘っても結局何も出てこない」気がするよね…個人的にはそれと同じフォルダにしまってます。 
…が、この人、発言はソツがないというか、間違ってはいないんですよ。 
見事に正統的な説明をしてくる。 
ただ「全体論者の筈のあなたがその還元的説明を持ち出す…?」とは思いますが… 
竹内久美子なんかよりははるかに正確。 

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…と、あまり褒めも否定もしなかったのですが…。 
朝日DIGITALに↓こんな記事が。 


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テーマ特集新型コロナウイルス 
アピタル 
「ウイルスは撲滅できない」福岡伸一さんが語る動的平衡 
2020/4/6 5:00 有料会員限定記事 
青山学院大学教授・生物学者の福岡伸一さん 

 ウイルスとは電子顕微鏡でしか見ることのできない極小の粒子であり、生物と無生物のあいだに漂う奇妙な存在だ。生命を「自己複製を唯一無二の目的とするシステムである」と利己的遺伝子論的に定義すれば、自らのコピーを増やし続けるウイルスは、とりもなおさず生命体と呼べるだろう。しかし生命をもうひとつ別の視点から定義すれば、そう簡単な話にはならない。それは生命を、絶えず自らを壊しつつ、常に作り替えて、あやうい一回性のバランスの上にたつ動的なシステムである、と定義する見方――つまり、動的平衡の生命観に立てば――、代謝も呼吸も自己破壊もないウイルスは生物とは呼べないことになる。しかしウイルスは単なる無生物でもない。ウイルスの振る舞いをよく見ると、ウイルスは自己複製だけしている利己的な存在ではない。むしろウイルスは利他的な存在である。 
福岡伸一さんの連載「動的平衡」はこちら 
 今、世界中を混乱に陥れている新型コロナウイルスは、目に見えないテロリストのように恐れられているが、一方的に襲撃してくるのではない。まず、ウイルス表面のたんぱく質が、細胞側にある血圧の調整に関わるたんぱく質と強力に結合する。これは偶然にも思えるが、ウイルスたんぱく質と宿主たんぱく質とにはもともと友だち関係があったとも解釈できる。それだけではない。さらに細胞膜に存在する宿主のたんぱく質分解酵素が、ウイルスたんぱく質に近づいてきて、これを特別な位置で切断する。するとその断端が指先のようにするすると伸びて、ウイルスの殻と宿主の細胞膜とを巧みにたぐりよせて融合させ、ウイルスの内部の遺伝物質を細胞内に注入する。かくしてウイルスは宿主の細胞内に感染するわけだが、それは宿主側が極めて積極的に、ウイルスを招き入れているとさえいえる挙動をした結果である。 
ここから続き 
 これはいったいどういうことだろうか。問いはウイルスの起源について思いをはせると自(おの)ずと解けてくる。ウイルスは構造の単純さゆえ、生命発生の初源から存在したかといえばそうではなく、進化の結果、高等生物が登場したあと、はじめてウイルスは現れた。高等生物の遺伝子の一部が、外部に飛び出したものとして。つまり、ウイルスはもともと私たちのものだった。それが家出し、また、どこかから流れてきた家出人を宿主は優しく迎え入れているのだ。なぜそんなことをするのか。それはおそらくウイルスこそが進化を加速してくれるからだ。親から子に遺伝する情報は垂直方向にしか伝わらない。しかしウイルスのような存在があれば、情報は水平方向に、場合によっては種を超えてさえ伝達しうる。 
 それゆえにウイルスという存在が進化のプロセスで温存されたのだ。おそらく宿主に全く気づかれることなく、行き来を繰り返し、さまようウイルスは数多く存在していることだろう。
 その運動はときに宿主に病気をもたらし、死をもたらすこともありうる。しかし、それにもまして遺伝情報の水平移動は生命系全体の利他的なツールとして、情報の交換と包摂に役立っていった。 
 いや、ときにウイルスが病気や死をもたらすことですら利他的な行為といえるかもしれない。病気は免疫システムの動的平衡を揺らし、新しい平衡状態を求めることに役立つ。そして個体の死は、その個体が専有していた生態学的な地位、つまりニッチを、新しい生命に手渡すという、生態系全体の動的平衡を促進する行為である。 
 かくしてウイルスは私たち生命の不可避的な一部であるがゆえに、それを根絶したり撲滅したりすることはできない。私たちはこれまでも、これからもウイルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない。

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…ちなみに当初はこの記事、後半は有料だったのですが、「コロナ禍だし今だけ無料!」という扱いだったので無料で読めました。 
なおその後、朝日新書『コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線』 に収録された模様。 

さて、早速 気になる部分を再度引用してツッコんでいきたいと思います。 

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生命を「自己複製を唯一無二の目的とするシステムである」と利己的遺伝子論的に定義すれば、自らのコピーを増やし続けるウイルスは、とりもなおさず生命体と呼べるだろう。しかし生命をもうひとつ別の視点から定義すれば、そう簡単な話にはならない。それは生命を、絶えず自らを壊しつつ、常に作り替えて、あやうい一回性のバランスの上にたつ動的なシステムである、と定義する見方――つまり、動的平衡の生命観に立てば――、代謝も呼吸も自己破壊もないウイルスは生物とは呼べないことになる。しかしウイルスは単なる無生物でもない。
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…利己的遺伝子論はウイルスを生命体と捉える…? 
ドーキンスそんなこと言ってない。 
そもそもドーキンスは「自己複製するのは生物だけとちゃうで。例えば文化もそうやで」という立場で、文化の自己複製子を「ミーム」と名付けてます。 

福岡伸一は「動的平衡」をキーワードにしてて、コレをやたらゴリ押ししてきます。 
そしてすぐに自分が間違いだと見做すものと「動的平衡」を並べて「この単純で素朴な考えに比べて動的平衡はしなやかで深遠」みたいな顔をするのですが… 
コレ、ちょいちょい相手が言ってもいないことを批判する「藁人形論法」なんよね…。 


例えば福岡伸一は『ツチハンミョウのギャンブル』という本を出しているのですが、コレは週刊文春連載時は『パンタレイ パングロス』という、韻を踏んだタイトルでした。 
福岡伸一自身の言葉によれば、パンタレイ主義とは『あらゆることは偶然で、すべては移ろっていく』、パングロス主義は『すべては宇宙の偉大なる設計者によってあらかじめ計画・配剤されている』ということらしいです。 
もちろん福岡伸一は前者を肯定し、後者を否定しているのですが… 

え、パンタレイとかパングロスってそんな意味ですっけ…? 

「パンタレイ」(panta rhei)の意味はヘラクレイトスの「万物は流転する」ですね。 
こちらは「大体合ってる」感じですが、「偶然」の要素までこの言葉に入れちゃうのは強引な気が。 

そして「パングロス主義」はヴォルテールの『カンディード、あるいは楽天主義説』に登場するパングロス博士に由来します。 
パングロス博士は「鼻は眼鏡をかけるためにある」とか言っちゃう人物。 
ダーウィニズムは大変切れ味が良いのですが、それ故に時にやり過ぎます。 
証拠もなしに何でもかんでも「この形質は○○という目的のために進化したのだ。全ては適応の結果なのだ」とする行き過ぎた適応論をこのパングロス博士になぞらえて「パングロス主義だ」と批判したりするのですね。 

…つまりコレ、ゴリゴリのウルトラダーウィニストを指す言葉で、『すべては宇宙の偉大なる設計者によってあらかじめ計画・配剤されている』という創造論的な考え方とは真逆じゃねーか! 



で次。 

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ウイルスの振る舞いをよく見ると、ウイルスは自己複製だけしている利己的な存在ではない。むしろウイルスは利他的な存在である。 
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…う~ん、コレは利他とか利己という言葉の定義が混乱してるなぁ…。 

まず利己行動とは「自分の自己複製を有利にする行動」、利他行動とは「自分の自己複製を犠牲にして他者の自己複製を助ける行動」のことな訳ですよ。 
利他行動をする生物は自分の自己複製を犠牲にしている訳ですから、仮に現れても増えることなく消えていきます。 
つまり真に利他的な生物は定義により、長く存続することはできません。 

でも一見すると利他的に見える行動はしばしばあります。 
これを利己的遺伝子説は「一見すると利他的に見える行動も、よく見ると遺伝子レベルでは利己的なのだ」と説明します。 
この「一見するとそう見える」というゆるい意味では、「利他行動は実は利己行動の一形態である」という訳ですね。 
その意味では利己的遺伝子説は「生物は利己的であり、利他的ではありえない」とは言ってません。 
むしろ「どうして生物はしばしば利他的に見えるのか」を説明するために利己的遺伝子説が生まれたのです。 


つまり「○○は利己的ではなく利他的」という言説は 

・【厳密には…】 → 「定義により」ありえない 

・【ゆるい意味でなら…】 → そもそも利己と利他は対立するものではなく、利他は利己に内包される 


…ということですから、どっちに転んでも間違いです。 



ちなみに村上和雄というトンデモさんがいるのですが、この人も同様の発言をしてました。 
たしか『ナイトサイエンス教室〈1〉生命の意味』という著作だったと思うのですが、「僕は利他的な遺伝子というのもあると思う。それについてドーキンスとやりあってもいい」みたいなコト言って「この人、分かってNEEEEE!」感を醸し出してましたな。 

なお、この人は著者紹介で「ノーベル賞に一番近いとされる科学者」と書かれてたりするのですが【註1】…
それってソースは何ですか? 

村上和雄は遺伝子にオンオフのスイッチがあるという事実から『君のやる気スイッチをオンにする遺伝子の話』とか『スイッチ・オンの生き方』などという、タイトルの時点で乱暴かつ安易な本を書いてみたりもしています。 

が、村上和雄を語る上で最も重要なキーワードは「サムシンググレート」 でしょう。 
これは「生命は進化論では説明できない。なんかもっとこう、偉大な何か(サムシンググレート)があると思うんだよね~」的な、超絶ぼんやりした考え方です。 
それって神やん。 

そして「神とは言わないけど、偉大な何かが…」的な言い逃れを繰り出すのって、どっかで見たことあるよね? 
これってアメリカで
「いやいや、神とは言ってないですよ?
神とは言ってないけど、『知性あるデザイナー』が生命を作ったという科学的な仮説も成り立つので、生徒には公平に進化論と知性あるデザイナー説の両方を教えましょう!」
とか言って科学教育に宗教を持ち込もうとしてる『ID理論』と同じやんけ!【註2】 
しかも村上和雄は天理教の信者で、著書でサムシング・グレートを「あれは親神様のことです」と認めちゃってるんだよな~… 

まぁこの人は自著のタイトルが 『どうせ生きるなら「バカ」がいい』とか『アホは神の望み』とかなので、親神様の望み通りに生きたら良いと思います。 
でもそれを科学や教育の世界に持ち込むのは勘弁な! 



話が福岡伸一から村上和雄にズレたので戻します。 


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それは宿主側が極めて積極的に、ウイルスを招き入れているとさえいえる挙動をした結果である。 
(中略) 
つまり、ウイルスはもともと私たちのものだった。それが家出し、また、どこかから流れてきた家出人を宿主は優しく迎え入れているのだ。なぜそんなことをするのか。それはおそらくウイルスこそが進化を加速してくれるからだ。親から子に遺伝する情報は垂直方向にしか伝わらない。しかしウイルスのような存在があれば、情報は水平方向に、場合によっては種を超えてさえ伝達しうる。 
 それゆえにウイルスという存在が進化のプロセスで温存されたのだ。 

(中略) 
その運動はときに宿主に病気をもたらし、死をもたらすこともありうる。しかし、それにもまして遺伝情報の水平移動は生命系全体の利他的なツールとして、情報の交換と包摂に役立っていった。
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ほほ~… 
つまりウィルスは宿主にとって短期的には死をもたらす厄介者だけど、長期的には進化をもたらすから、そちらの利益を選んで受け入れることにした、と…? 
「う~ん、今は死んじゃいそうだけど何万年か先にええことありそうやし耐えとこ!」 
という道を歩んだ生物は全滅しますよね? 
進化は盲目的な過程であり、その様な長期的展望は持ちえません。 

遺伝情報の水平移動がしばしば起きるのは事実ですが、それが「宿主側の適応の結果として生じ、維持されている仕組みである」と考える理由って何かあります…? 
一方、利己的遺伝子論なら「それは寄生者側の適応として、より効率的に自己複製するために生じ、維持されているのだ」という形でわりと簡単に説明がつきます。 

そもそもヒトは何にでも理由を求める生き物。 
それ自体は良いことなのですが、しかしその性質は「全ては神が作った」という宗教や「全てはフリーメーソンの計画通り…!」という陰謀論をも生み出してきました。 

進化論にも「生存のための戦略」といった擬人的な表現が頻発します。 
しかしそれらはあくまでも比喩的なもので、
「動物は神によって人間の『ために』作られた」
といった、テレオロジー(目的論:「何の役に立つのか?」)ではなく、
「ライオンの牙は狩りをする『ために』ある」
というテレオノミー(適応の科学:「何が有利性となって進化したのか?」)として厳に区別されている…はずなのですが…【註3】 
どうやらヒトは「○○は××の役に立つ」という例を見ると「○○は××のために作られた」という考えに飛びついてしまう様です。 


例えば有名な『ガイア仮説』がそうです。 
地球全体が生命体の様に自己調節をしている、という仮説ですが、どの様な仕組みを通じてそんな能力が獲得されたのかについてのちゃんとした説明はありません。 
ここには
「地球の○○という特徴は環境の維持に役立つ」
   ↓
「○○は環境維持のための仕組みに違いない」
という発想が見て取れます。 
しかしそのような仕組みがどうやって生まれたのかの説明はありません。 

ガイア仮説と言えば、超名作漫画『寄生獣』もガイア丸出しでしたね(そういやこっちもシンイチだなぁ…)。 
この作品はこんなナレーションで始まります。 


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───地球上の誰かがふと思った 
『人類の数が半分になったら いくつの森が焼かれずにすむだろうか……』 

───地球上の誰かがふと思った 
『人間の数が100分の1になったら たれ流される毒も100分の1になるだろうか……』 

───誰かが ふと思った 
『生物(みんな)の未来を守らねば……………』 

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…そしてパラサイト爆誕。 
つまり

「パラサイトは人工調整の役に立つ」
から存在する、と。 
コレ
「地球の○○という特徴は環境の維持の役に立つ」
から存在する、というガイア仮説と同じやん… 
もうその
「○○は××の役に立つから説明抜きに即・存在できる」
というナイーブな考え方、やめましょうよ… 
私に3本目の腕があったら便利かもしれませんが、それだけの理由で突然腕が生えたりしないっつーの。 

福岡伸一は先述のように妙なパングロス主義批判をしていますが、その割に自分自身が「鼻は眼鏡をかけるためにある」とか言っちゃう超楽観主義のパングロス博士とほぼ同じことをしてるんじゃないですかね…? 

あと進化モノSFって大体は神だのオーバーロードだの超越的な存在が出てきて、そいつらの起源は説明しないのな…。 
知性抜きの盲目的な進化を扱った作品は貴重です。 


ちなみに『寄生獣』には利己的遺伝子論の話も出てくるのですが…ガイア仮説を提唱したラヴロックはドーキンスの論敵。【註4】 
ドーキンスは
「惑星間で淘汰が起きる、とかじゃない訳よね? じゃあどうやってこんな仕組みが進化すんの?」
的な批判をしてます。 
ラヴロックもラヴロックで、ドーキンスが
「星は子供を作らないから生物じゃねぇよ」
的な批判したのを受けて
「だったら閉経したお婆ちゃんは生物じゃねぇのかよ」
的に反論してます。
子供の言い争いかよ…。 



さらに「百匹目の猿」の話を捏造したことで知られるトンデモさん、ライアル・ワトソンは『シークレット・ライフ ─物たちの秘められた生活』において
「かつて地球には炭素生物だけでなく珪素生物もいたが、消えた…だが彼らは炭素生物、つまり我々にシリコンチップを大量生産させることで復活を遂げたのだ」
的な主張をしています。 
コレも珪素生物が炭素生物にどの様な影響を与えてシリコンチップを作らせたのかの説明はありません。 


これではガイアも珪素生物云々もただの思い付きに過ぎないでしょ…。 

ほなアレか? 
アミノ酸の旨味たっぷりなラーメンスープは、生命発生以前のアミノ酸が溶け込んだ「生命のスープ」が我々ヒトを操って自分達を再現させとるんか? 

こんなユルいアナロジーなんていくらでも考え出せます。 
ラーメンスープと「生命のスープ」の類似性はあさりよしとおが漫画『HAL―はいぱああかでみっくらぼ』で指摘してるので、オリジナルのやつを紹介しましょう。 


ウチの近所にあったタコ焼き屋のタコ焼きはふわトロ系。 
あまりに柔らかいので、容器の中でたこ焼きが丸型を保てず、自重で押しつぶされ、押し合いへし合いしてひとかたまりになってました。 
よく見ると四角くそれぞれのタコ焼きの境目が見える感じ。 
柔らかい皮にドロドロの生地がくるまれてて、中にらせん状に巻いたタコの足(紅ショウガによって染色されがち)や、エネルギーたっぷりで高カロリーな、だけど別の料理(天プラ)に由来する天カスや、もろもろの具材が入ってる… 
コレ、細胞じゃね? 
柔軟な細胞膜にドロドロの原形質基質がくるまれてて、中にらせん状に巻いた染色体(塩基性の色素によく染色されがち)や、エネルギーを司る、だけど別の生物(αプロテオバクテリア)に由来するミトコンドリアや、もろもろの細胞内小器官(オルガネラ)が入ってる…その同じユニットがいくつも集まり、押し合いへし合いしてひとつの組織を作る。 
そう、タコ焼きは細胞による細胞の拡大再生産であり、細胞はタコ焼きを作るために生まれてきたのです! ΩΩΩ<な、なんだってー!? 


…ユルいアナロジーから「○○は××のために作られた」といった類の話を持ち出す言説は↑これレベルの妄言じゃないですかね…。 




※字数制限のため2回分け。
 続きは以下で。

【チコちゃんに叱られろ:後編】 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835675.html







【註1:著者紹介で「ノーベル賞に一番近いとされる科学者」と書かれてたりする】 

例えば村上和雄の著作『奇跡を呼ぶ100万回の祈り』のAmazon商品紹介にはこうあります。 

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世界のダライ・ラマ14世推薦! 
遺伝子工学の世界的権威であり、 
ノーベル賞に一番近いとされる科学者・村上和雄氏による、 
国難にあえぐ日本への愛と希望のメッセージ。
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【註2:科学教育に宗教を持ち込もうとしてる】 

なお、日本では教育に宗教を持ち込んだりしないよね…と思いきや、この「サムシンググレート」はいくつかの教科書や教材に紛れ込んでいます。 
教育学者の高橋史朗がこのサムシンググレートに肩入れしてるんですよね~…。 
高橋史郎は「親学」というトンデモな教育メソッドを唱え、「江戸しぐさ」も信じてたり、持論の権威付けに『ゲーム脳の恐怖』の森昭雄を利用したりと節操がない人なんですが…。 

ちなみに高橋史郎は「新しい歴史教科書をつくる会」元副会長・「日本会議」役員で、新宗教『生長の家』くずれなんですよね… 
『生長の家』はかつては反共路線で政治の世界にも熱心に手を出していました。 
まぁ今で言うと『幸福の科学』みたいなもん。 
その後、教団は路線変更して政治からは距離を置く様になったのですが、一部は教団と袂を分かち、政治の世界に残り続けたのですね。 
その中にこの高橋史郎や日本会議事務総長の椛島有三らがいます。 

私は一部の左翼の様に、日本会議を右翼の背後で糸を引く団体とは見做してません。 
特定の組織を諸悪の根源とするのは「フリーメーソンガー!」「イルミナティ―ガ―!」とかの陰謀論と変わらないし。 
あんなん右翼爺ちゃんの草の根運動やろ…。 
しかし、右翼の動きについていろいろ調べていくと「日本会議」の名や『生長の家』くずれの人士に何度も行き当たるのもまた事実。 
別にそれらが統一的な意思の元で何かの策略を張り巡らしているとは思いませんが、それらが同じ志向の人間を引き寄せ、助け合ったりしてるうちに右翼への人材供給源になったんだろうな、程度には注目しています。 



【註3:テレオノミー(適応の科学)】 

ドーキンスはテレオロジー(目的論:「何の役に立つか?」)とテレオノミー(適応の科学:「何が有利性となって進化したのか?」)の区別に厳格です。 

彼は「ワニの歯を虫歯にしやすくする遺伝子」を仮定し、それのせいでワニが餌を食べにくくなって、その分、周囲の個体により多くの餌が渡るなら、これを「利他行動のための遺伝子」と呼んでも良い、的なことまで言ってます。 
何とも自由~! 
つまり我々が感じる「目的」ではなく、結果が全て、という訳ですね。 
ただし、ここでは適応について語っているのであり、進化(遺伝子頻度の変化)には様々な理由があるけれど、適応をもたらせるのは自然選択だけなので、適応はあくまで自然選択の枠組みで説明されなければならない訳です。 
虫歯遺伝子の話は突拍子もない様に見えますが、ちゃんと自然選択のフレームに組み込まれてます(利他的な遺伝子は自然選択によって支持されないであろう、という方向ではありますが)。 
これだけ「『○○のための遺伝子』の意味はガバガバでもいいよ~」というドーキンスですが、話がテレオノミーから外れてテレオロジーに堕することは許しません。 

ちなみに最近は
「科学者による『ぼくのかんがえたうちゅうじん』の類は《どういう仕組みで生きてるか》は考えてあっても《どうやって進化したか》は考えてなさそう」
みたいな批判をしてたり。 



【註4:ラヴロックはドーキンスの論敵】 

ちなみにラヴロックは『利己的な遺伝子』を好意的に読んでたり、ガイア仮説が環境保護系の人たちによって宗教の様に祭り上げられていることからは距離を置いたりと、意外にナイスガイでもあるので念のため。 

あと『寄生獣』がガイア理論と利己的遺伝子という相反する説の両方に触れてる件は、今調べてみたらすでに言及している人がいました↓ 


【『寄生獣』と利己的遺伝子とガイア理論の衰退の話】 
https://togetter.com/li/787273 









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