新型コロナ

2022年08月26日



コロナで「新しい生活様式」が取り沙汰され、だいぶ経ったが…。



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怠惰の象徴であるのび太のライフスタイルがいまや最も倫理的とは…
なかなかに奇妙ですな。


この「感染症対策のために社会モラルを変える」という問題について、MERSが問題になっていた2015年6月にこんなmixi日記を書いていたので加筆の上で再掲。



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MERSに関して「韓国への渡航及び入国禁止措置を取るべき」という意見が多いが、これは防疫上、選択肢に入れるべきだし、やるならやるで後手後手に回らない様に早目に対応するべきではある。 
韓国政府の対応の遅れに批判が出るのも理解はできる。 

だが対応に必要なリソースがそもそも不足している国もあるので、何でも批判できる訳ではないとも思う。 
その点、普段は「韓国はまだまだ後進国」と主張しがちな保守派が今回の件についてはいきなりトップレベルの対応を求めたりするのはやや無理がある。 

そもそも疫病というのは発生国こそ被害者な訳で、それを加害者扱いするのは間違っていまいか? 


疫病への恐怖はヒトが道徳律を踏み外すきっかけになりやすい。 

HIV感染が男性同性愛者に多いことから「ホモがエイズになるのは自業自得」「ホモはHIVをばらまくから害悪」といった主張は繰り返し行われてきた。 

「どうである」という事実命題から「どうであるべき」という価値命題は導出できないので、これはヒュームの法則に反する誤った主張である(自然主義的誤謬)。


今回のMERSに関するmixiニュースでもこんなことをつぶやいている人がいた。 
しかも100近くのイイネを獲得している。 

【mixiニュース】
『韓国で広がるMERS感染 外務省が注意呼びかけ』

http://mixi.at/a9INk15
(現在はリンク切れ)
へのつぶやきより

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朝鮮半島全土をナパーム弾で焦土にする以外、人類の繁栄はない、そう考えましょう。変な宗教野郎も焼き討ちだな。 
う~ちゃん イイネ!97人 コメント2件 

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…疫病の感染拡大防止を理由に大量虐殺を行うことは正当化できるのか? 


20年前にすでにエボラウィルスの感染爆発を驚くほどリアルに描いていた名作映画『アウトブレイク』(95年)にこんなシーンがある。 
小さな街からエボラそっくりのウィルスが広がりそうになり、大統領補佐官会議が開かれる。 
そこで街を焼き払う提案が行われ、主席補佐官はこう言う。 

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「君の提案とは 人口2,600のシーダー・クリークの街に非核兵器として最も強力な気化爆弾を投下 
爆発と同時に周囲の酸素を吸い込み 周囲1.6キロ以内の全てを 人間からウィルスまで気化する 
全て消滅 危機は消える 

(本を取り出す) 
これは合衆国の憲法だ 
2,600人の市民を消すなんて話は書いてない 
こういう記載はある 
“国民の命と自由と財産は不当に奪ってはならない” 

“一掃作戦”を検討する前に確認しておきたい 
この場の全員が一致して 大統領の決定を公に支持すること 
死なばもろともだ! 
次に権威ある専門学者に完備した実験資料を提示させ “一掃作戦以外に道はなかった”と証言させること 
閣僚が新聞社に駆け込み “私は反対した”などと言う事は許さん 
反対する者は今この場で発言しろ 

(写真の山をデスクにぶちまける) 
シーダー・クリークの住民だ 
彼らは統計数字じゃない 血の通った人間だぞ 
彼らの顔を心に焼きつけろ 死ぬ日まで我々にとりついて離れない顔だ」 
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もしこれをやれば非難轟々になることは安易に予想できる。 
だが彼はやるのだ。 
大統領や誰かに責任転嫁することなく。 
それが全く問題のない行為だ、と強弁したり正当化することもなく。 
望んだ結果ではないが他に選択肢がないからやる、だが責任は取る、と。 

57億人(95年当時の世界人口)を救うために2600人を犠牲にする──これは一種のトロッコ問題だ。
トロッコ問題ではどちらを選んでも倫理的問題が発生する。だが逆に言えばそれは、どっちを選んでも非難しようがないということでもある。
しかもこちらは1人と5人のどちらを犠牲にするかではない。2600:57億──およそ1:220万だ。

彼の選択が許される行為なのかどうか、私には判らない。 
彼の主張の全てに諸手を挙げて賛同できる訳でもない。

だがどうしてもやらざるを得ないのならば、これくらいの覚悟を持ってやってほしい。 
「朝鮮半島全土をナパーム弾で焦土にする以外、人類の繁栄はない、そう考えましょう。変な宗教野郎も焼き討ちだな」 
と妙に嬉々としてやるのではなく。 





この様に防疫とモラルは相容れないことがある。 
そこでモラルの方を防疫に沿わして改変する、という方法もある。 
だがそんなことしちゃって大丈夫なのか? 

それを実際に行っている事例を見つけた。 

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『セックスにノーと言おう ヴァージンパワー、ヴァージンプライド!』
と書かれた看板。 
アフリカ諸国でHIV対策のために純潔教育を行う社会運動の様だ。 
防疫のために特定の価値観を普及させている模様。 

まぁこれだけなら無害にも思える。 
だが「HIV感染防止のために婚前交渉は避けましょう」というのと同様に「HIV感染防止のために男性同性愛は避けましょう」という社会運動が起きた時、我々はそれを許容すべきなのだろうか? 
婚前交渉も男性同性愛もコンドームの使用を推奨すればこと足りるのではないのか? 



SFの役割の一つは、現実世界のある面を途方もなく拡大して思考実験を行い、そこで起きる問題や矛盾を提示してみせることにある。 
現代最高のSF作家と称されるグレッグ・イーガンは『道徳的ウィルス学者』という短編を書いている。 
こんな話だ。



主人公のウィルス学者はあまりにも「道徳的」であるあまり、「複数の相手とセックスした者」「同性とセックスしたもの」だけが発病する致死的なウィルスを作成し、ばらまく。 
つまり処女と童貞が結ばれ、生涯その相手とのみセックスすれば大丈夫だが、それ以外のあらゆるセックスは死に至る。 
ちなみにこのウィルスはゴムを溶かすのでコンドームも役に立たない。 

ところがこのウィルスには致命的な欠陥があった。 
新生児は生後1ヶ月までは母乳を飲んでも問題ないが、それ以降はウィルスの影響で死んでしまうことが判明したのだ。 
主人公大ピーンチ! 

だが彼はちょっとしたトンチを利かせてこのピンチを脱出する。 
彼はこう考えることにしたのだ。 
「浮気する子はいねーが!? 同性愛にはしる子はいねーが!? そして一ヶ月を超えて乳児に母乳を与える子はいねーが~!?」 


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…これが7年前の日記だ。

サル痘が問題になっている今、読み返してみると現在の状況にも則していると思う。


ただひとつ、この頃のネトウヨさんは『朝鮮半島』にいる『変な宗教野郎』を敵視してたんだなぁ…今とは違って。







(00:38)

2022年08月22日



最近、私のアンテナに引っかかった陰謀論を3つご紹介。



◉【フェイクプレーン】


UFOはしばしば航空機に擬態してるんだそうです。
ソースは↓ここら辺。

【note】
『人類をあざむくフェイクプレーンの脅威』

https://note.com/hakodatelife/n/nd106ad8ee57d

【note】
『フェイクプレーンとの遭遇』

https://note.com/hakodatelife/n/nf3b097123f49



そしてこの人の航空機に対する知識はどれくらいのものかというと… 
『両翼の前方に四つの細長い筒のようなものが取り付けられています。そして両翼には八つほど何かが取り付けられています』 
というコメントに表れてますね。 


別の動画に対しては 

『この航空機は両翼の先端に緑の球体と赤い球体をつけており、機体下側の中央には派手に点滅する赤い球体が取り付けられています。一般的な航空機にはこのような球体はありません』 

とのコメントが。 
ほえ~ん…巧みに擬態する割に致命傷のミスがあるんですねエイリアン。 
あと記事書いた人はとりあえずこの辺↓でも読むべきでは… 

【Wikipedia】 
『航行灯』

 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/航行灯
↑ここの『航空灯』を参照。


あとこの記事にはこんな文章があります。

『特にSNSなどのリアルタイムでやり取りするメディアでは、それらは見た瞬間の「フィーリング」(感覚)だけで本物か偽物かを安易に判断される傾向があります。そしてそれらが仮に本物のフェイクプレーンであったとしても、評価が低ければ偽物であるかのように判断してしまいます。』

…普通の航空機のことを「偽物のフェイクプレーン」という二重否定的なややこしい呼び方をするのはいかがなものかと思いますが、それはさておき。

『それらは見た瞬間の「フィーリング」(感覚)だけで本物か偽物かを安易に判断される傾向があります』

…これが自分自身にこそ当て嵌まらないか、よくよく考えてみるべきなのではないでしょうか。
私なら、航空機に妙なモンが付いててもまずは
「航空機にはこういうのが付いてるものなのかも」
「そういう特殊装備をつけた航空機かも」

と考えて調べてみますけどね。
そうである蓋然性と、「エイリアンによる擬態UFO」である蓋然性、どっちが高いかよく考えれば分かりそうなものです。

SETI(地球外知的生命体探査)への貢献で知られるカール・セーガンも「ものすごい主張にはものすごい証拠が必要だ」と言ってますが、フェイクプレーンにはそれがありません。
ちなみに私は真上でホバリングするトンボの腰に何か異常なシルエットが見えて「何アレ? 新種の寄生虫でも付いてんのか!?」と興奮したことがありますが、よく考えたら後翅にある紋でした。枯れ尾花。

それにしてもこういう人たちって、普通に空にある物体に無理くりな解釈を施してオカルト物件にするの、やたら好きだな~…
・星や飛行機などを見ては「宇宙人の乗物だ!」
・飛行機雲を見ては「ケムトレイルだ!」
・羽虫の画像を見ては「スカイフィッシュだ!」
芸風一緒やん…。




◉【北京原人に保険は下りない】


以前に当ブログで紹介した優れた懐疑主義者・雨宮純のTwitterで知ったのですが… 

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…うわぁ…
早速ご本人のブログを見てみると…


【Ameba】
漢方医 toshichan-man のブログ。吃音を打倒するブログ。令和の神風特攻隊(2)

https://ameblo.jp/toshichan-man/

「漢方医」なのか、「精神科、脳神経外科、一般内科、一般外科」なのかどっちだよ。
ちなみにこの自称「医師」の遺伝学への理解がどの程度のものかというと…


【Ameba】
5Gの周波数と(DNA)の振動が完全に一致。ワクチンは不要。 (病気の発症)=(素因..

https://ameblo.jp/toshichan-man/entry-12757817723.html

↑を読むと
『5Gの周波数と(DNA)の振動が完全に一致』
と根拠不明かつ意味不明なことが書いてあるレベル。
あと「HARRPガ―! DSガ―!」というおなじみのやつ。
この方のトンデモっぷりは凄まじく、


【Ameba】
『大谷という野球選手は実在しません。あれバーチャルです。ほとんどの日本人が騙されていますね。』

https://ameblo.jp/toshichan-man/entry-12756657073.html

という記事だけ見ても、
・大谷選手は存在しない。根拠は「日本人がメジャーで活躍できる訳がない」&「アメリカ在住の日本人医師は誰も大谷を知らない」から。
・大谷は死んでて今いるのはゴム人間
・コロナは映画
・ウクライナ侵攻は幻
・アポロは月へ行ってない
・プーチンは死んでいる
・夜空は点々を打った紙、月は紙。
・分子も原子もない。水爆・原爆もない。
・5Gガ―!
・スペースシャトル・火星探査機・金星探査機は幻


…などなど、トンデモな主張がてんこもり。

…「大谷はゴム人間」というどうでもいい記事でさらっと科学の根本を覆してるのが素敵。

「夜空は点々を打った紙、月は紙」のソースは「世界的宇宙物理学者」なんだそうですが…

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科学の権威はちゃっかり利用するのね…。
そしてその割にどこの誰かは明かさない、と。
随分都合の良い話ですね。

なお、記事には責任回避のためなのか、こんな但し書きが。


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…ほな何で言うねん!?
コレが「反語的表現」とか「犬笛」ってやつなんでしょーか。


ともあれ、ご本人がそうおっしゃってるので信じなくていいみたいですよ~?知らんけど(関西風責任回避)。



◉【マッドフラッド-タルタリア陰謀論】


またしても雨宮純が詳しく調べた記事を書いています。
ホント良い仕事するな~この人。

【note】
『マッドフラッド-タルタリア陰謀論と代替現実ゲーム』

https://note.com/caffelover/n/nf74bd4d21582



はしょって説明すると、

・かつてタルタリアという巨大帝国があった
・しかしディープステート(!)が19世紀に核攻撃(!)を加えたため消滅
・泥の洪水(マッドフラッド)により人類文明はリセット
・偽の歴史教育により真実は忘れられた

…何ですかその「江戸っ子狩りという大虐殺があったので江戸しぐさは途絶えた」みたいな話は。

あと
『地階に窓がある建物や、入り口が階段になっている建物はこの時泥で埋まった痕跡である。また、聖書の大洪水はマッドフラッドを指している』
という無理くりな説明があるのですが、コレもどっかで見た感じ。
創造論者の
「化石はノアの洪水で溺れた生物のもの。化石が年代順に堆積してる様に見えるのは、泳げないものから先に沈殿しただけ」
という無理くりな説明と同じくらい、当て嵌まる例が少なく反例が多いですよね…。

トンデモさんは別方向であっても似た主張を行うという『トンデモさん収斂の法則』を提唱していきたい。
この記事、後半は有料なので私も未読なのですが、タイトルから察するに「代替現実ゲーム」としての陰謀論について論じているっぽい。
代替現実ゲームとは実際に届く手紙をヒントに謎解きしたりとかの「現実と交差するゲーム」のことです。
リアル脱出ゲームをさらにリアルにして現実との境目を曖昧にした感じでしょうか。
なので「代替現実ゲーム」は割と誤訳。

で、例えばQアノンさんが信奉してる『Q』はですね、ネットへの書き込みであんまりはっきりしたこと言わずに「◯◯とは何か?」とか短くぼんやりした疑問を投げかけてくるだけなんですよね。
ところがそれをヒントに検索していくと様々な「証拠」が見つかり、段々と「陰謀」の全貌が浮かび上がってくるのです。
そんなんパズル感覚で絶対楽しいやないですか。
しかもそうやって得た情報は「人から与えられたもの」ではなく「自分で掘り当てたもの」という感覚が強いのでガチ信じしちゃう。
「俺は情報強者」というプライドもくすぐってくれるし。


もうお分かりですね?
陰謀論には一種の「代替現実ゲーム」という側面があるのです。
雨宮純がその辺の話を熱く語ってくれてるのではないかと。
知らんけど(2回目)。







(00:02)

2022年08月16日



先日、DHMO陰謀論をお伝えしました。
反ワクチンの人たちが「DHMOネタはただの科学ジョーク」だと気づかずに陰謀論に取り込んでる、という話でしたが…


『反ワクさん「ワクチンには危険物質DHMOが!」←え、今ごろ引っかかる奴いる?』
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/16188016.html


今回は続報。
その後「アレはネタですよ」と指摘されてもまだ頑張ってる人がいて驚愕。
まずは画像でお楽しみください。


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この『TOYO@toyoy1126』というアカウントは2022年8月に開設されたばかり。
ちょっと覗くと反ワクさんで、他にも「トランプ」「メドベッド」「ゲサラ」などの香ばしいキーワードだらけ…
あとこの人によれば、日本政府も中国共産党も終了したそうですよ?


ゲサラというのは「ネサラ/ゲサラ」という、ドグラ・マグラかモグラネグラみたいな名前のよくわかんないやつ。
簡単に言うとアレな人の間で流行ってる、「トランプ大統領が日本人全員に6億円くれる」みたいなお花畑の一種かと。
詳しくは↓この辺で。


【BEST TIMES  馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。】
『日本のネット界に蔓延る「ユートピア志向権力者共同謀議説」に御用心』

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/932468/2


メドベッドというのは置いとくだけで万事OKという謎の万能治療器です。
別名テスラチャンバー、通称テスラ缶。
お値段は250万円とかしますが、開けてみたら中身はコンクリ塊の様なものだったとか。

しかし開けた人は検証のために開けた訳ではなく、事故的に開いちゃっただけで、その後も効果を信じてるあたりが闇が深い…。
詳しくは↓この辺で。


【五本木クリニック】
『話題の夢の治療機器「テスラ缶」を反ワクチン派の医師が取り扱いだしたらヤバい、ヤバい!!』

https://www.gohongi-clinic.com/k_blog/44748/


普通、中身を知ったらガッカリするところですが、神真都Q界隈の皆さまは「じゃあ自作できるじゃん」とDIY。
こちらは「やまと缶」と呼ばれてる様です。
件の方もやけに神真都Q界隈と親和性が高いですね…



(00:01)

2022年05月05日


新型コロナの流行に伴い、もうひとつ蔓延したものがあります。 
そう、アマビエです。 

その人気は厚労省までがキャラクターに起用するほど。 
ちなみに厚労省のマーク自体も「正面から見たアマビエ」もしくは「使徒トトロ」って感じ。 
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アマビエの様な、「異界から変な奴がやってきて予言をする」系の怪異を「予言獣」と呼びます。 
ちなみに「異界から変な奴がやってきて家に居座る」系の怪異は「藤子・F・不二雄作品」です。 

予言獣には件(クダン)とか神社姫とかアマビコとかヨゲンノトリとかいろいろいるのですが、全般的に漂うマイナー感。 

そんなくすぶり妖怪の中でも特に日陰の身だったのがアマビエ。 
なにしろ記録が1件しかない上、デザインにツッコみどころしかありません。 

しかーし! 
そのゆるキャラ然とした微笑ましいたたずまいと、「疫病を予言した」という実績を買われ、今や予言獣界一の出世頭に。 
まぁ冷静に考えたら「アマビエの疫病予言が当たった」という記録はなかった気がしますが。 


予言獣界隈は調べていくといろいろオモチロイ(水木しげる調)。 
わりとトンデモさん(私も何度か取り上げました)の湯本豪一が意外にええ仕事をしてたり。 
ていうか「予言獣」という言葉自体、豪一メイドだし。 
あと『病と妖怪 ―予言獣アマビエの正体』という本を書いてるのが名作『定吉七番』シリーズの東郷隆だったり。 


しかしこの予言獣たち、実はちょっと危険な存在かもしれません。 

そもそも予言獣ブームの背景となった新型コロナを含むウィルスとは、どの辺が脅威なのでしょうか? 
生物は代謝を行い、そのために必要ないろんな物質を外部から取り込んだり、細胞内にある自前の化学工場で生産しています。 
しかしウィルスは違います。普段は代謝すらしてません。これでは「生きている」とは言えない感じ。 
細胞が化学工場を含む巨大都市の様に複雑であるのに対し、ウィルスは一通の手紙の様なもの。 
エンベロープ(封筒)の中に設計図が入ってるだけ。超シンプル。 
しかしコレが細胞内に感染し、化学工場に設計図を押し込むと、工場側は「あれ? こんな部品あったけ? まぁいいや、図面通りに作って納品しとこ」となるのです。 
しかも、そうやって細胞を乗っ取って作られるのが「人類を喰い殺す禍々しい姿のエイリアン」とかならまだ分かるのですが… 
実際に作られるのは、大量のウィルスのコピー。つまり設計図に「この設計図を100枚コピーせよ」とか書いてある状態。超シンプル。 
つまりこれ、「不幸の手紙」とか「幸福の手紙」とかのチェーンレターとかと同じ仕組みです。 

ただ「『このメッセージをコピーせよ』というメッセージ」が広がるだけ。 
誰も得しない。メッセージを信じて送った人も得しない。 
ただこのメッセージ自体が世に広まっていく、それだけ。 

擬人化して言えば、「得をするのはメッセージそれ自体」と言うことも出来ます。 
しかし実際には、メッセージ自体はただの情報体で、広がろうといった意思すら持っていません。 
それと同様に、ウィルスも別に「広がったろ!」とか「ヒトを苦しめたろ!」といった思考能力はない、ただの物質です。 
しかし、増殖のためにウィルスや細菌が勝手なことをした結果、人体側が機能不全を起こすことがあります。 
これが感染症です(ちなみに細菌もウィルスと同じく寄生者ですが、自前の細胞を持っています)。 

あるいは…症状の一部は、より多くのコピーをばらまくためにウィルスや細菌が起こしているのかもしれません。 
例えば咳やくしゃみは基本的には体が異物を排除するための仕組みですが、寄生者がより効率的に次の宿主に感染するために咳やくしゃみを誘発しているのかも…。 
そうなるとあなたの咳やくしゃみは「あなたの行動」なのか「ウィルスの行動」なのかもはや分かりませんね。 
勿論、ウィルスが意図を持っている訳ではなく、「たまたまそういう結果をもたらすウィルスは広まりやすい」というのを擬人的に表現しただけですが。 


ともあれ、ウィルスはチェーンレターに似ています。 

◉ウィルス:「この設計図をコピーしてばらまきなさい」 
◉チェーンレター:「この手紙を写して知り合いに送りなさい」 

…同じですね。 
そして予言獣は… 

◉アマビエ:「私の姿を写して人々に見せよ」 

…新型コロナと同じ仕組みやん。 
「敵と同じ力で対抗する」とか使徒 vs エヴァみたいでカッコイイですね。 
しかもアマビエ、「私の姿を写して人々に見せよ」とは言ったけど、「そしたら病気を免れるよ!」とか「病気が平癒するよ!」とか1㎜も言ってない。ヤバい。 

さらにアマビエは別の面でもチェーンレターに似てます。 
昔、「不幸の手紙」の「不幸」の部分が筆記による書き写しを重ねるうちに二文字が合体して「棒」になり、「棒の手紙」になってしまった、という珍事がありました。 
まぁ昔、紅茶キノコが人から人へと株分けされていくうちに本来の紅茶キノコは消え失せて雑菌の塊だけが伝達されていった、みたいなものでしょうか(よー分からんモンを余計に分からんモンで例える)。 
アマビエも「アマビコ」の筆写ミスでは、と言われてます(コレを指摘したのが湯本豪一)。 
ちなみに山の妖怪アマビコから海の妖怪アマビエへ変化する、中間種というか移行化石みたいな図も発見されてます。生物進化みたいで興味深い。  
この「コピーミスや中間型が見つかる」というあたりもチェーンレターやウィルスそっくりですね。 

変化と言えば…原図ではお世辞にも可愛いと言い難いアマビエが、流行るに伴い可愛くアレンジされていく様子は興味深かったです。 
一般流通商品は開発に時間もかかるし、失敗できないのであまり思い切ったデザインにはなりにくいのですが、メルカリとかで売ってるハンドメイドのアマビエグッズはかなりフリーダム。 
あっと言う間にベビーシェマ(幼児図形:可愛く感じやすい顔のパターン)に沿って可愛く変化を遂げていく様は圧巻でした。 

進化生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドは進化論エッセイ「ミッキーマウスに生物学的敬意を」(『パンダの親指』所収)に於いて、ミッキーマウスのデザインが急速に可愛く変化していく様子を論じています(テディ・ベアでも同様の話をしてたり)。 
アマビエも、民俗学あたりの研究者がメルカリの商品画像とか保存して論文化してくれたら面白いのに。 
なお、私はいずれ博物館は「コロナ禍の時代にしきりに売買されていたアマビエグッズ」を収蔵するべきだと思っているので、それに備えてハンドメイドアマビエグッズをかなり蒐集しています。 


話が逸れましたが、こういったチェーンメール式の「自己複製だけに特化した」情報体を『コピー・ミー・コード』と呼びます。 
どういったものが含まれるかというと…ミーム学で合意の取れているものとしては、こんなところでしょうか。 

◉ウィルス 
◉コンピュータウィルス 
◉宗教 
◉チェーンレター 
◉ネズミ講・マルチ商法 
◉自己啓発セミナー 

といったところでしょうか。 
ちなみに自己啓発セミナーというのはあまりピンと来ないかもしれませんが、カリキュラムの中に『エンロール』という「セミナーへの勧誘」が組み込まれているのが常です。 

いずれも「その情報を受け入れること」がそのまま「その情報自体の複製・再生産」に直結してますね。 
そしてどれも社会害悪をもたらすものばかり…そりゃそうだ、コイツら「社会のため」ではなく「自己の複製と最大化のため」だけに存在してるんだもん。 



ジョン・ホーガンはその著作『科学の終焉』において進化生物学者のリチャード・ドーキンスにインタビューを行い、こう描写しています。 

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ドーキンスは、こんな内容の本を想像するように我々に言った。〈この本を信じなさい。そしてあなたの子供たちにも信じさせなさい。さもないと、あなたが死んだ時、きっと地獄と呼ばれるとても不快な所へ行くことになりましょうぞ…〉。「こういうのが、非常に有効な自己複製暗号(copy-me code)の一例だ。もちろん、指令をすぐ受け入れるほど馬鹿な奴はどこにもいない。『これを信じて、あなたの子供たちに信じるように言いなさい』なんて。もう少しさりげなく、もっとうまい方法で装いを凝らす必要がある。もちろん、私が何について話しているかお解かりでしょう」。もちろん。すべての宗教のように、キリスト教も、特に成功した連鎖手紙の例なのだ。他に何と言えるのか? 
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あとこれらはチェーンレターの中に含まれるでしょうが、以下の3つも『コピー・ミー・コード』であると指摘しておきましょう。 

◉SNSで行われるバトン 
◉Twitterのリツイート機能 
◉予言獣 

…宗教批判で知られるドーキンスがTwitterに無批判どころか活用してるというのは、なかなかに不思議。 



という訳で、アマビエは「疫病を鎮めるため」ではなく、「アマビエそれ自体の繁栄のため」に存在し、ウィルスと同じ仕組みで人々の脳から脳へと感染していく、恐るべき存在━━文化のウィルスなのです。 

実際スペイン風邪が流行した当時、予言獣の絵を売り歩く人々に対して当時の政府は「人々を科学的治療の足を引っ張る迷信だ」的な扱いという塩対応。 

◉大正時代の政府「クダンを写した絵で不幸を免れられる? 誰やそんなアコギな商売してんのは!」 
◉令和の政府「アマビエ? いいじゃんいいじゃん、厚労省のサイトから図像をダウンロードできる様にしといたからどんどんコピってや!」 

 な ぜ な の か 

今や日本はアマビエ天国。 















【付記】 

まぁ私も予言獣大好きだけどさ。 
コロナ禍なのに「クダンのミイラ」と「アマビエの刷り物」の現物を見に姫路で行われた特別展『驚異と怪異-モンスターたちは告げる-』にも駆け付けたし。 
それ以外の展示は大阪の国立民族学博物館で開催された『驚異と怪異――想像界の生きものたち』とほぼ変わらないのに。 
我ながらご苦労なこっちゃ…しかし大満足。 
ちなみにクダンのミイラは主催者サイドの「伝承通り、似姿を写真に撮って拡散してね!」的な方針により撮影可。 
もちろん撮りまくった。 



【オマケ】 

アランジアロンゾのアマビエが西原理恵子が描いた様にしか見えないのは私だけでしょうか? 



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【関連するエントリ】

《ウィルス》

ウィルスの存在理由
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835555.html

「ウィルスは悪者ではない」という言説
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835597.html


《アマビエ》


「アマビエのミイラ」の正体http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13905891.html


《湯本豪一》

戦慄の猫鬼研究会
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13906195.html猫鬼研究会 アペンディックス
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13907119.html






(00:01)

2022年03月21日


以前にも取り上げたNHK『ヒューマニエンス 40億年のたくらみ』。 
誰しも気になる新型コロナと絡めてか、「ウィルスは悪魔か天使か?」という回があった。 
主なゲストは武村政春。 

番組ではまず「ウィルスが赤潮のプランクトンを殺して生態系を調整している」という話が紹介された。 
…それって赤潮の様に過密な状況だと感染症が広がりやすいだけでは…? 
そしてプランクトンを殺しまくってるのに「調整してる」… 
まぁ生態学ってそういうトコあるよね。 
「捕食者が被食者の個体数調整をする」とかさ。 
その論理だと新型コロナがヒトを殺しまくっても「人口調整」で済む気がする。 


「~の役に立つ」といった説明は胡散臭い。 
例えば「戦争は人口調整の役に立つ」といったものがそうだ。

淘汰によって生じたものなら、例えば「翼は空を飛ぶ役に立つ」といった形で存在理由の説明にはなっているが、 
「戦争は人口調整の役に立つ」は結果であって原因や理由ではない。 
人口過剰のストレスから戦争になることはあるかもしれないが、それは戦争の主な理由ではない。 

また、「役に立つ」というのは「誰にとって」役に立つのか?

男性は女性に向かってしばしば「君を守る」と誓う。 
だが、女性側は「え、誰のために誰から守るの?」と違和感を感じる場合もあるだろう。 
(これは例えば『こっち向いてよ向井くん』という漫画の冒頭で描かれている) 
現代の生活において敵部族や野獣に襲われることはまずない。
これが「僕が君を他の男から守るよ」という意味なら、それは女性のためというよりは、単に男性にとって「役立つ」配偶者防衛に過ぎないのではないか? 


樹木は生態系に対して多様な環境を提供する。 
樹冠部から根に至るまであらゆるレベルに空間があり、幹・枝・葉・花・実・根などの構造物がある。 
それを様々な生物が利用する。 
だが樹木は生態系全体に資するために生えている訳ではない。

それは他の樹木との光を求めた競争の産物だ。 
植物(プラント)の葉とは、光合成を行う工場(プラント)だ(プラントをプラントで説明するって…)。 
そこには効率よく日光が当たらねばならない。 
他の植物の陰になると成長できないため、樹木は幹によって樹冠部を高く持ち上げ、他の植物より有利になろうとする。 
勿論、他の樹木も同じことをする。 
結果、森には同じくらいの高さの樹木が林立することになる(森を林に例えるって…)。 
どんぐりの背比べだ(植物を植物に例えるって…)。 

太くて長い幹を成長させるには莫大なコストがかかるが、熾烈な樹冠持ち上げ競争の結果はせいぜいのところトントンで、特に有利性は生まれない。 
だが競争から脱落する訳にもいかない。 
こんなことなら樹木が「全員一律、幹を10m低くしようぜ!」という協定でも結べば全員が安上がりでしかも結果は同じ筈だが、その様な協定を結ぶ方法もなければ守らせる方法もない。 
仮にその様な協定が結ばれたとして、1本の樹木だけが抜け駆けして協定を破れば、その樹木は光を独占でき、一気に有利になる。 
だから不毛な競争は止むことがない。 
そして誰もが競争が始まる前とほぼ変わらない位置にいるだけでとりたてて有利にはならない。 
これは「赤の女王仮説」と呼ばれ、その名は『鏡の国のアリス』における「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という赤の女王の台詞に由来する。 


これに似た例は人間界でも見られる。 
女性のメイクがそうだ。 
メイクすることで美人になれるが、誰もが同じ理由でメイクするので、結局はそれほど有利になることはない。 
だが自分だけノーメイクにすると不利なのでメイクをやめることもできない。 
だがこの不毛な競争のためには怖ろしいほどのコスト―費用と手間暇、さらにたゆまぬ技術の習得など―がかかる。 
しかし女性が一斉にメイクをやめる協定を結ぶ気配はない。 
↑アナロジーを別のアナロジーで説明するって…) 

話が脱線したが、ウィルスも樹木と同じで、他の生物のためではなく、自身の(より正確には遺伝子の)自己複製のためにだけ存在する。 



番組では「胎盤はウィルス由来」という話もあった。 
これは発表された時、衝撃的すぎて学会が静まりかえったという。 
このウィルス由来の遺伝子をゲノムが活用する、というのを番組では将棋に例え、「敵の駒を自分の駒として使う」様なものだ、としていた。 
このウィルスに感染しなかったのが単孔類、感染したのが有袋類で、2回感染したのが真獣類なのだという。 
さらに「ウィルスは宿主の遺伝子を盗み出して別の目的に使ったりもしてる」といった説明が入る。 
スタジオは「すごい! ウィルスどんどんいいやつになってるね」と盛り上がる。 
ヒトとチンパンジーのゲノムは98.5%同じとされるが、番組によれば 
『相同性という概念は似てるもの同士を比べるという方法なんですね。ですので計算する時に似てない部分を切り落とすんですよ』
…ということで、ゲノムの1/4は比べられないらしい。 
そこがウィルス由来の遺伝子の宝庫なのだという。 

…まぁびっくりな話ではある。 

だが胎盤は以前から「雄の遺伝子由来」とも言われてきた。 
雌から見れば、妊娠中の子は自分の子の一匹に過ぎない。 
限りある資源はその子だけでなく、将来の子に振り向けたり自分用に取っておきたい。 
だが胎児から見れば、遺伝子共有率が半分しかない弟妹や母親より自分の方が大事なので、全ての資源を自分に振り向けてほしい。 
こうして母子の利益は衝突する。 
ちなみに妊娠糖尿病はより多くの栄養を求めて胎児が信号物質を放出し、母体がそれに対抗するために信号の感受性を低めるという軍拡競争の結果、起きる。 
雄から見ると自分の遺伝子を受け継ぐ子供が何より大事なので、父親である雄と胎児の利益は一致する。 
そこで雄は雌の体内に自分の遺伝子で胎盤を作り、母体の栄養を胎児に振り向けさせる。 

この様に、体の中では本人以外の遺伝子が、本人以外の利益のために働くことは普通にある。 
遺伝子の影響は個体の体を飛び出し、様々な場所に影響を及ぼす。 
例えば巣の色や形に(ビーバーの巣は数平方kmの地形に影響を与える)。 
あるいは寄生された宿主の体や行動に(最近の寄生虫本は児童書でさえ行動操作の話をするのが流行だ)。 
そして雄は美しい色や歌声を介して雌を誘い、行動を操作する。 
ドーキンスはこの様に遺伝子がその影響を体外の離れた場所にも及ぼせることに気付き、それを『延長された表現型』と名付けた。 
そして個体とは自身のゲノムが作り上げる産物というより、『延長された表現型』のネットワークの結節点として理解できる、とブチあげたのだ。 

遺伝子は自己複製のためなら何でもする。 
その場その場の都合で敵にもなるし味方にもなる。 
進化は盲目的で場当たり的なものなのだ。 

番組でも 
「ウィルスは宿主の遺伝子を盗み出して別の目的に使ったりもしてる」 
「ウィルスが宿主のDNAを盗ったり挿入したりするのはウィルスにとってメリットがあるから」 

という話をちゃんとしている。 

そりゃウィルス等によって挿入された配列だってそのうち何かに転用されるだろう。 
素材の一つがたまたまウィルス由来だっただけで、その機能のためにわざわざ送り込まれた訳でもないし。 
細胞はゲノム由来かウィルス由来かなど気にしない。 
水平伝達してもその後は垂直伝達に変わる(生殖細胞に感染すれば、だが)。 
「自然選択の素材となるのは突然変異」という常識にちょっとした例外が付け加わるだけのことだ。 
変異の供給源は突然変異以外にいろいろあって良い。 
もともと放射線とか化学物質とか突然変異の原因はいろいろあるし。 
よく考えれば当たり前やろ… 

こういう「一見すると意外だが、よく考えたら当たり前」なことはままある。 
例えば… 


●エピジェネティクス 

「遺伝するのは遺伝子だけやで」 
   ↓ 
「よう調べたら遺伝子以外でも遺伝が起きるで! 
 それって獲得形質の遺伝やん… 
 ラマルキズムは正しかったんや!」 


…結局 遺伝子をオン/オフするだけで、全く新しい形質をもたらす訳でもないし、エピジェネティックな機構自体が遺伝子の制御下にあるねんからソレはないやろ… 


●レトロウィルスの発見 

「情報は『DNA→RNA→蛋白質』と伝わるんやで。 
 これが分子生物学のセントラルドグマ(中心教義)や」 
   ↓ 
「よう調べたらレトロウィルスは『RNA→DNA』と逆転写するで! 
 セントラルドグマの崩壊や! 
 ラマルキズムにワンチャンあるでコレ!」 


…いや結局 蛋白質からDNAに情報が伝わらない以上、獲得形質は遺伝しないからラマルキズムは復活せぇへんやろ… 


●プリオン病の発見 

「自己複製する分子なんてDNAとかRNAくらいやろ」 
   ↓ 
「プリオンって蛋白質なのに自己複製するやん!?」 


…折り畳まれ方が異常な蛋白質に触れることで正常な蛋白質も異常になってしまうだけで、蛋白質そのものが自己複製してる訳ちゃうし。 


この『ヒューマニエンス 40億年のたくらみ』でもそういう例があった。 
「“自由な意志” それは幻想なのか?」の回だ。 
そこでは有名なリベット実験を取り上げていた。 

これは何か行動をしようとするよりコンマ数秒前に脳内の準備電位が上がる、ということを解き明かしたベンジャミン・リベットによる実験だ(番組内では何故かリベットとは少し違う手順で再現)。 
意志が発生するよりも前に脳内の物理的状態が変化している、ということは「意思が体を動かしている」のではなく、「体が意思を作り出している」訳で、この実験は「原因と結果が逆やん…思てたんと違う!」と世界から衝撃をもって受け止められた。 

だが唯物論は「心が物理的実体を生むのではなく、物理的実体が心を生む」としている訳で、よく考えたら当たり前ですよな。 
そもそも何もないところから勝手に意思だの心だのが出てきたらそれは霊とかと同じオカルトな訳で、そら物理的基盤はあるに決まってるやん…。 

…これらは、 
「確かにびっくりではあるけど、これまでの概念に付け加えがあるだけで、根底からひっくり返す訳ではない」 
程度の話に過ぎない。 


ウィルスをやたらと危険視するのは一面的な見方でしかない。
それを正すことは意義のあることだ。 
だが同時に、「すごい! ウィルスどんどんいいやつになってるね」というのもまた一面的な見方でしかない。 
「ウィルスの大半は無害」「有益なウィルスもいる」 
と言われても、自己複製子ってそういうもんやろ、としか… 



しかし、こういった言説を持ち出すのは『ヒューマニエンス』だけではない。 

例えば、福岡伸一の↓この言葉。 

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 いや、ときにウイルスが病気や死をもたらすことですら利他的な行為といえるかもしれない。病気は免疫システムの動的平衡を揺らし、新しい平衡状態を求めることに役立つ。そして個体の死は、その個体が専有していた生態学的な地位、つまりニッチを、新しい生命に手渡すという、生態系全体の動的平衡を促進する行為である。 
 かくしてウイルスは私たち生命の不可避的な一部であるがゆえに、それを根絶したり撲滅したりすることはできない。私たちはこれまでも、これからもウイルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない。

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福岡伸一のこれらの発言のどこがトンデモなのかについては以下のエントリで扱っている。 


【チコちゃんに叱られろ:前編】 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835660.html

【チコちゃんに叱られろ:後編】 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835675.html


…そちらでは主に進化論の観点から批判するにとどめたが… 
コレ価値観的にもかなりヤバくないですか? 

ウィルスを『根絶したり撲滅したりすることはできない。私たちはこれまでも、これからもウイルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない』、そして『病気は免疫システムの動的平衡を揺らし、新しい平衡状態を求めることに役立つ。そして個体の死は、その個体が専有していた生態学的な地位、つまりニッチを、新しい生命に手渡すという、生態系全体の動的平衡を促進する行為である』 

つまり「ウィルスの根絶・撲滅を目指すのはムダ、むしろ病気も死も動的平衡の役に立つ」という訳。 
「動的平衡」ってそんなに大事なん…? 
「自然のバランス」とかと同じ、口当たりの良いふわっとした概念だから気付きにくいけど… 
それって例えば「病気や死は淘汰を促進させ、人類の改良に役立つ」という、優生主義的な言説とどこが違うの? 
この「集団全体の役に立つから個人の犠牲はやむを得ない」的な考え方は、「個人より集団の利益を優先する」という全体主義や保守主義と親和性が高い考え方やろ…。 
こんなんよくリベラル寄りの朝日が載せたな…! 


繰り返しになるが、「誰にとって」役立つのかを考えることは重要である。 
「ウィルスは進化の役に立つ」という場合、その過程で起きるのは淘汰、つまりは死による置き換えだ。 
それは進化する集団レベルでは福音かもしれないが、個人レベルで言えば死体の山なのだ。 

「集団全体の役に立つから個人の犠牲は仕方ない」というのは、肝心の自分が死んでも意味があるのか? 
私なら御免だ。 
「国のためなら死ねる!」とか言う人はご立派かもしれないが、私にそれを押し付けるのはやめてほしい。 

ついでに言えばそういった自己犠牲を行う「利他的な個体の集団」は、自己犠牲を行わない「利己的な個体の集団」よりも結束力が高くて強そうに思える。 
だがそういう「利他的な個体の集団」に「利己的な個体」が現れると、自己犠牲を行う者より行わない者の方がより多くの子孫を残すため、その集団は「利己的な個体の集団」に置き換わってしまう。 


…やや脱線したので話を戻して。 
福岡伸一は人類が天然痘ウィルスを根絶したり、ポリオウィルスをその一歩手前まで追いつめてることは評価しないんですかね? 
福岡伸一とか池田清彦とかスティーヴン・ジェイ・グールドとか、還元主義嫌いで全体論寄りの人たちは色々言う割に結局ふわっとした話だけで何も出てこない。 
ちなみにドーキンスはこういった言説に対して 
「自動車の仕組みを説明する時はエンジンとかブレーキとかに分けてそれぞれが何をしているか説明するやろ。 
そこで『全体は部分の総和以上のもので云々』とか言うて何の役に立つねん」
 
的なことを言っている。 


こういうふわっとめな説明には既視感を覚える。 
『ジュラシック・パーク』の原作版だ。 

映画版にはごく僅かな要素しか残っていないが、原作小説はカオス理論の説明にかなりの紙幅を割いており、非常に勉強になる。 
当時、原作者のマイクル・クライトンはカオス理論に夢中だったのだろう。 
登場人物の一人・数学者でカオス理論が専門のイアン・マルコム(演じるのは『ザ・フライ』のジェフ・ゴールドブラム)は「生物は必ず道を見つける」から、パークの運営は上手くいく筈がない、と予言する。 
これは 
『ウイルスは私たち生命の不可避的な一部であるがゆえに、それを根絶したり撲滅したりすることはできない』 
とする福岡伸一の態度にあまりにも似通っていないだろうか?

そしてジュラシック・パークは予言通りに崩壊を迎える。 
だが映画評論家の町山智浩は、パーク崩壊は産業スパイのネドリーがセキュリティーを解除したからで、カオス理論とは無関係だと指摘する。 
…うん、確かにそうですな。 

福岡伸一の発言もコレと同じで、「自分のキーワードを適用範囲を超えて振りかざす痛い人」にしか見えず、あまり真剣に捉える必要を感じない。 
勿論、ウィルスの根絶が極めて困難であることや、ウィルスが必ずしも悪者でないことには合意する。 
だがそれは生物に少し詳しい人なら誰でも知っていることに過ぎないのに、福岡伸一はそれを逆に強調しすぎている様に感じる。 


そういった強調をやりすぎて「新型コロナは安全」とか言い出しているのが(ネトウヨさんの生みの親として有名な)小林よしのりだ。 
『ゴーマニズム宣言SPECIAL コロナ論2』では先述の「胎盤はウィルス由来」や「ウィルスは必ずしも悪者ではない」が何の根拠もなく「新型コロナは安全」に結びつけられている。 

その手の言説は、例えばこういう話に似ている。 

サメを過度に危険視すべきではない。 
人を襲うサメは数種に過ぎず、多くのサメは無害だ。 
サメに襲われて死ぬ人より交通事故で死ぬ人の方が圧倒的に多い。 
サメは生態系のバランスを取るのに貢献している。 


まぁどれも正しい。 
「生態系に貢献」というのはあくまで結果であり、サメはサメ自身の(正確には遺伝子の)自己複製のために存在するのだが、貢献しているのは事実だ。 

だがだからといって「危険な種のサメがウヨウヨいる海域で無防備に泳いでも大丈夫」ということにはならない。 


そしてこういった主張が社会に与える危険性は福岡伸一の比ではない。 
最近は↓こんなのまで描いている。 


IMG_4495

(『ゴーマニズム宣言 2nd Season』週刊SPA! 2021年 1/12・19 合併号より) 

(コロナは)『基礎疾患のある老人を、死に導いてくれる。』
『それは寿命なんだよ! 人は必ず100%死ぬんだからね!』


…じゃあ小林よしのりはオウムにVXガスで殺されても
「VXガスは速やかな死に導いてくれる」 
「何歳で死んでも、それは寿命なんだよ! 人は必ず100%死ぬんだからね!」 

で済ますんでしょうな。 







【追記】 

ちなみに帯に「ヒトの死亡率=100%」なるコピーを踊らせて売っていたのが、還元主義嫌いな人々の話にちらっと名前が出た池田清彦が書いた『やがて消えゆく我が身なら』である。 
これまた
「ヒトは誰しもいずれ死ぬ、なんて誰でも知ってることだよね…これを『ほほう、こりゃ気付かなかったがその通り!』と喜ぶ様な層をターゲットにしてんのか?」
と思っただけだった。 
なお、この本は2005年3月1日発売だが、その直後の2005年7月1日に根立順子という人が『人間の死亡率100%』という本を出している様だ。 

あと小林よしのりの漫画(引用した画像)について、町山智浩は 

『小林よしのり「(コロナは)基礎疾患のある老人を死に導いてくれる」 

 なんで「くれる」なの? 
 感謝してるの?』 


とつぶやいている。 



【参照】 

以下のエントリでウィルスの存在理由(あまり比喩的でない、真の理由)をできるだけ平易な言葉で説明している。 


『ウィルスの存在理由』 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835555.html







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