フェイク

2022年03月24日


今回は、 前回のエントリ


『戦慄の猫鬼研究会』 
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13906195.html


のオマケです。 


ネタは本編同様、湯本豪一『日本の幻獣図譜 大江戸不思議生物出現録』より。 
画像も特記してない限り同書から。
懐疑主義的なツッコミは本編でもう散々やったので、オマケ編ではそっちで扱わなかった幻獣資料の正体について考えたり、純粋に雑談したり、普通にツッコんだりしていきます。 
本編同様、特記のないものは湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)所蔵。 

なお、資料自体の真実性が疑わしく、「最近のものでは…?」というものもありますが、この辺はビミョーなラインのものが多いのでその辺は一旦、棚上げです(と言いつつ、一部ツッコんでしまいましたが)。 

ではどうぞ~。 



P.26 
『土州奇獣之図ならびに説』江戸時代 
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異形ながら妙なリアリティー… 
尻尾が嘘っぽいけどその傍にちゃんと陰嚢があってやけにリアル。 

どっかで見たコトあるな~コイツ… 

『アフターマン』に出てくるウサギが進化した「ラバック類」の一種『ストランク』? 
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『マンアフターマン』の表紙? 
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ちなみに乗ってるのも載られてるのもニンゲンシンカ。 

あとトビハナアルキに似てないですかコレ。 
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ついでに『鼻行類』のコイツ、手塚治虫キャラっぽい… 
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オムカエデゴンスとか、『火の鳥 望郷編』のズダーバンとか。 

あと『アフターマン』のコイツが完全にハダカデバネズミ。 
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(以上6枚は拾い物)


P.27 
『市谷田町の奇獣頭骨図』江戸時代 
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『天狗髑髏鑑定縁起』1776年刊 神戸市立博物館蔵 
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この2点はイルカの頭骨を上下逆にしたもの。 


P.38・77 
『神社姫』江戸時代 
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コレ、リュウグウノツカイじゃないですかね… 
目撃者が 
「龍の様な長い体で、鰭がいろんなとこに付いてた。背中一面に竜の棘みたいに生えててなぁ…頭からは角というか、女の長い髪の様なものが伸び、尾の先は三叉の剣状、胸にも同じようなものが生えてたな。ああ、胸の鰭には玉の様なものが付いてたよ」 
と語ったのを、愚直に絵にしたらこうなるんちゃうんか、と。 
まぁ「玉を持ってる」とかは文化的な意味もありそうだけど。 



P.44~50 
河童の図はどれもお互いに似てて、コピーの嵐。 

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原図から連綿と写しが作り続けられたことが見て取れます。 
昔の恐竜本も有名な元ネタ絵からのコピーばかりになりがちでしたね。 

コレは不気味… 
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河童の一種「ひょうすべ」に口が似てますね。 
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(上の画像は拾い物) 



P.52~53 
『河童考』 昭和50年 
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個人製作の肉筆本っぽい。 
著者が祖父(昭和18年没)の遺した資料を参考に執筆したのだとか。 
「河童の巣の断面図」や「卵の断面図」「冬眠の仕方」など、生態について妙に詳しい。 
…なんか『怪獣解剖図鑑』とか、少年マガジンとかでやってた妖怪などの特集記事とか、大伴昌司イズムを感じます。 
「河童の雌雄の性器」図もあって、このタブーなき探究心は学術っぽいのか、それとも性へのこだわりがおっさんぽいのか…

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ちなみに93年に恐竜本で有名なヒサクニヒコが「カッパの生活図鑑」という似たコンセプトの本を出版してます。 


P.78 
『龍魚』 明治時代 
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完全にチョウザメ。 
絵うまっ! 

チョウザメの実物はこんな。 
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ついでにチョウザメの骨格というかミイラというか… 
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UMA感あるよね。 
(上2点の画像は拾い物) 


P.80~81 
『電光の図説 豊年魚』江戸時代 
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湯本豪一は「二色刷りの瓦版(下)が売れたのでグレードアップして錦絵(上)にしたのでは?」的な推理を披露しているのですが… 
逆では? 
錦絵(上)の電光はたなびく尾のうねりが優美ですが、二色擦りの方(下)はぎこちなく、技術的劣化が見られます。 
コレは逆では起こらないでしょ…。 
上手い絵はコピーで簡単に劣化するけど、稚拙な絵を構図はそのままに細部に手を入れるだけで立て直すのはほぼ不可能ですからね…。 


P.83 『大阪城堀の奇獣』江戸時代 
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後頭部の高まり、太い顎、前方ほど長い背部の棘、顎下にも棘…グリーンイグアナでは? 
図にある耳の様なものは「鼓膜下大型鱗」という巨大な鱗でしょう。 

グリーンイグアナはこんな。
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(上の画像は拾い物)

何故かP.68の人魚図(江戸時代)↓とタッチが似てます。 
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どっちもやけに保存状態が綺麗。 

↓大阪城堀の奇獣その2。 
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こちらは背中や腹部に並ぶ鱗や手足の形がワニに似てますね。 
これホンマに同じ奇獣の図か…? 


P.107 
『天狗のミイラ図』 江戸時代 
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ムササビでしょう。 
手の付け根から皮膜を支える針状軟骨が生えてますね。 
絵、上手すぎ&保存状態がやけに綺麗。 

ムササビ骨格はこんな。
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(上の画像は拾い物) 


P.108 
『龍の骨』 江戸時代 
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サメの顎ですね。 
内側と外側が逆になっています。 
内側に次に生える歯が準備されてるのが見えますね。 


サメの顎はこんな。 
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(上の画像は拾い物) 


P.121 『怪奇伝承図誌』 本山桂川著 昭和19年 
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FullSizeRender可愛いな! これもやけに綺麗。 



P.123『 雷獣』江戸時代 
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手足がカメノテに激似すぎるやろ…。 
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(上の画像は拾い物) 


あとこの爪はちょい上にある『怪奇伝承図誌』の図にも似てる気が。 


P.114~115 

『雷龍』江戸時代 
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『若州の幻獣』江戸時代 
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『竹生島 雷獣』江戸時代 
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『赤穂 雷獣』江戸時代 
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『雷龍』は1791年鳥取、 
『若州の幻獣』は1791年福井県、 
『竹生島 雷獣』は1802年滋賀県、 
『赤穂 雷獣』は1806年兵庫県に落ちてきたそうな。 
その割にこれらの図はいずれも綺麗で、絵のタッチや筆跡に共通性が… 

特に『雷龍』と『竹生島 雷獣』は明らかにP.136『怪奇談絵詞』(江戸時代以降 福岡市博物館蔵)の図が元ネタ。 
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鳥取と滋賀の、11年差のある事件なのに、同じ絵から振り分けてるやん…。 









(02:05)

2022年03月23日


こんな素晴らしい本を手に入れました。 
『日本の幻獣図譜 大江戸不思議生物出現録』
(湯本豪一 東京美術 2016年) 

幻獣の図やみんな大好きミイラ画像などが満載です。 
解説も面白く、特に私の大好きな予言獣が異常に充実。 
空前のアマビエブーム到来前に出た本なのに、その辺りの話もバッチリ。 

著者の湯本豪一は妖怪研究家。 
Wikipediaによれば、 
『川崎市市民ミュージアム学芸員、学芸室長を経て、妖怪研究、収集を行うかたわら、大学で妖怪などについて教える。2019年4月、広島県三次市に「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」がオープンした』 
だそうです。『湯本豪一記念日本妖怪博物館』は愛称が『三次もののけミュージアム』で、湯本豪一のコレクションを管理している模様。 
最近 放送されたNHK『ダークサイドミステリー』「超常実録!本当にあった!?日本史怪事件ファイル」の回では出ずっぱりで語ってました。 


本書の中に非常に可愛いものがありました。 
P.14~17に『鶏鬼の頭のミイラ』『狐鬼の頭骸骨』『熊鬼の頭骸骨』『猫鬼の頭蓋骨』なるものが載っているのですが… 

P.14にはこうあります。 

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 福島県いわき市好間町の一部地域には、古くから鶏鬼、猫鬼(16から17頁)、狐鬼、熊鬼の4種の角を持つ幻獣の言い伝えがあり、その頭蓋骨やミイラなども残されている。 
数十年前には猫鬼伝説などを調べる猫鬼研究会というグループも地元にあったが(90頁参照)、現在ではこうした“ 鬼„伝説はほとんど忘れ去られている。 

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さらにP.16『猫鬼の頭蓋骨』の解説はこう。 
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同じくいわき市好間町の一部に伝わる幻獣で、言い伝えによると、猫鬼界にはヒエラルキーがあり、上から天鬼、空鬼、幽鬼、野鬼の4階層に分類できる。野鬼には角が1本あるほかは他の猫と変わらず、特別な能力は持っていない。その頭領は「アメノカツブシノミコト」を代々襲名する。幽鬼は2本の角を有し、人語を解して化けることができ、頭領は「アメノマタタビノミコト」を代々襲名する。空鬼は3本の角を持ち、人語を含めたあらゆる動植物語を解し、化けるに加えて地水火風を自由に操ることができる。頭領は「アメノシャミセンノミコト」を代々世襲する。天鬼は神のような存在で、通常は姿を現すことなく、人に害を加えず、角がないので普通の猫と区別ができない。頭領は「ネコテラスオオミカミ」を代々襲名する。野鬼、幽鬼、空鬼の身分は死ぬまで変わらないが、修行を積むとどの階層からも天鬼になることが可能で、天鬼に変ずると自然に角が落ちる。猫鬼たちは、天鬼になるために日夜修行に励んでいる。 
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…名前カワ(・∀・)イイ!! 
猫鬼の最高位『天鬼』は神の如き存在でありながら見た目は完全に普通のネコ! 
(η* '∀')ηカワイイ!! 

さらにP.14~19には『猫鬼の詫び証文』なるものが。 
幻獣さんからの「さっせんした~、もう悪いことはしません」的な書状は『河童の詫び証文』とか『天狗の詫び証文』等いろいろあり、中には人間の文字とは異なる謎の文字(調べると外国の文字だったり)で書かれたものとかあるのですが、この『猫鬼の詫び証文』はどんなものかというと… 

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Σ(○´д`○)メチャカワァー 


…ただ、ちょっといろいろ気になるのですよね… 
この頭蓋骨、やけに綺麗。そこに上手に細工された角が唐突に生えてます。 
22体と大量にあるのも珍しいですよね。 
詫び証文も発色が良すぎるし、汚れや経年劣化が殆ど見られません。 


『鶏鬼の頭のミイラ』 
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こちらも14体と大量。 
やはり唐突な角が。 

『狐鬼の頭骸骨』 
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3体。 
こちらもやけに綺麗な頭骨に唐突な角。 
イヌ科の頭骨はお互いによく似ているので、コレがキツネのものかどうかは私には判りませんが…。 


『熊鬼の頭骸骨』 
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4体、やはり綺麗な頭骨に唐突な角。 
クマの頭骨ではない様に思えますが…。 

これらは猫鬼との力関係について言及されているので、猫鬼研究会ゆかりのものでしょう。 


P.90には『大河童博ポスター』なるものが載っており、主催に『猫鬼研究会』の名が… 
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後援は平市教育委員会ですが、平市は昭和44年に合併によりいわき市になったため、それ以前のものであろう、とのこと。 
うん、話がリアルですね。 
ですがこのポスター、またしても妙に綺麗…印刷もシャープでフォントの滲みひとつありません。 
そして開催期間も場所も空欄になっています…が、その割に場所は何故か公民館であることだけは決まっていた様子。 


P.91にはその大河童博に出品された『河童の腕』が。 
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…やけに綺麗ですね。 
大河童博開催にあたって見やすいように付けられた、という台はデコパージュ用のものに見えます。 
今なら東急ハンズや手芸店で簡単に入手できますが、昭和44年以前にはどうですかね…? 


猫鬼研究会の名があるのはこれだけです。 
しかし、P.87には『大妖怪展チラシ』なるものが載っており、そこに『猫人魚』が出品されていることになっています。 
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猫系の幻獣、そしてやはりこのチラシも印刷がシャープで開催年は不明…。 
やけに「猫鬼研究会」系資料と似てますね。 

その『大妖怪展』に出品されていたという幻獣標本も3点、掲載されています。 


P.65 
『人魚の骸骨』 
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サルの骨に唐突に小さすぎる張りぼての胴体をつないだ一品。 
やはり綺麗です。 
頭に「鬼と魚を組み合わせた漢字が書かれた紙が貼られてますが… 
なんかオカルト板とかで流通する都市伝説っぽいというか、中二病的な噓松感がすごいですね… 


P.86 
『三頭竜のミイラ』  
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・・・やはり標本としてはやけに綺麗。 
ミイラっていうか剥製ですね。 
あと、つなぎが乱暴~! 


P.115 
『雷獣頭部のミイラ』  
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普通にイヌやん… 
こちらも綺麗。 

そしてこれらの資料の年代表記は… 

●『鶏鬼の頭のミイラ』『狐鬼の頭骸骨』『熊鬼の頭骸骨』『猫鬼の頭蓋骨』 江戸時代以降 
●『猫鬼の詫び証文』 昭和時代(『伝説をもとに昭和時代に製作したと思われる』とのこと) 
●『大妖怪展チラシ』 昭和時代 
●『人魚の骸骨』 江戸時代以降 
●『三頭竜のミイラ』 昭和時代 
●『雷獣頭部のミイラ』 江戸時代以降 


いずれも時代の表記があまり古くなく、かつ曖昧です。 

さらに本書には、これらとテイストの似た資料が数多く掲載されています。 
それらの特徴や傾向をまとめると… 

【全般的な傾向】 
●やけに綺麗で古びていない 
●時代の表記は昭和か江戸であまり古くなく、かつ「江戸時代以降」などと曖昧 
●由来が不明か、あってもぼんやりしていて確認が取りにくい 
●神道っぽい名前が多く見られる 
●資料を所蔵しているのは本書の著者・湯本豪一のコレクションを管理する『湯本豪一記念日本妖怪博物館』(愛称『三次もののけミュージアム』)で、他の研究者の資料には殆ど登場しない(今回ご紹介するのは全てここのコレクション) 


【標本系】 
●動物、それも外産の珍獣の遺骸を利用したものが多い 
●似たものが何点もまとまっていて、角の形やポーズ等でバリエーションが付けてある 
●加工が少ない(制作に手間のかかる全身のミイラ等ではなく、「唐突に角が生えただけの頭蓋骨」や「剥製の一部」など、贋造が容易) 

【書類系】 
●印刷がシャープで滲みが見られない 
●イベントの開催年が不明で確認が取りにくい 


…といったところでしょうか。 
やけに都合が良いですね…。 

具体的にはどんなものがあるかというと… 


P.20~21 
『五大魔王尊』 江戸時代以降 
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5体の綺麗め頭蓋骨(造形品)に唐突な角が生えており、角の形でバリエーションが付けられてます。 
廃寺で祀られてた、というふわっとめのエピソードつき。 
頭蓋骨の造形がリアルすぎて、近代のものにしか見えません。 
一緒にあった狐の頭蓋骨製の燭台も載ってますが、骨も使いさしの蝋燭もやけに白くて、溢れる作りたて感…。 
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P.54~55 
『水虎のミイラ』 昭和時代 
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綺麗で4体のバリエーション付き。 
『赤水虎』『青水虎』『白水虎』『黒水虎』(早口言葉か?)がありますが…言うほど色に違いありますかね…? 
ていうか普通にスローロリスだろコレ。 
由来も「見世物小屋興行師の家にあった」という、確認の取りようのないもの。 


P.85 
『海馬の頭蓋骨』 江戸時代以降 
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『フランス人船員から好事家が入手し代々伝えたもの。入手を喜び宴を催したとのエピソードも残っている』だそうです。 
「海馬」という名ですが、馬の額に一本角…普通、ユニコーン扱いするよね? 
角だけでも薬として高値で売れたユニコーンの頭蓋骨なんていくらになるのやら。 
それをわざわざ船に丸ごと積んでた船員も凄いですね。 
やはり綺麗な頭骨に唐突な角。 


P.93 
『富山湾の海主大怪物展チラシ』 明治時代以降 
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やはり開催年は不明でシャープな印刷。 


P.98~99 
『烏天狗ミイラ』 江戸時代以降 
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3ポーズ6体のバリエーションあり。 
『痛むたびに漆喰で補修が繰り返されて現状の姿となっている』とのことですが、何故か手足だけ綺麗…というか鳥の脚そのまんま。 
「修験道行者の家に伝えられ、敷地内の祈祷所に祀られてた」というゆるふわエピソード付き。 


P.101 
『アマツオオキミキツネ』 江戸時代以降 
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ヒヒか何かの頭蓋骨やろコレ。 
ロリスの毛皮といい、何故か外産の珍獣が簡単に紛れ込みますね。 
いつも通り綺麗で、唐突な角付き…というか、角が無ければただのヒヒ。 
そして神道っぽい名前…という三次らしい物件。 


P.110~111 
『龍の頭蓋骨と尾』 江戸時代以降 
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シカか何かの頭骨ですよね…? 
牙は細工でしょうが、シカにはちょいちょい長い牙の生えた種がいます。 
この頭骨もよく見ると先端近くに牙の抜けた跡が見えますね。 
キョンあたりかな。 

尾はエイのもの。 
ノコギリ状になった尾棘が付いています。 
『鬼はフジツボが固着している』とありますが、コレはエイの鱗でしょ… 


P.112 
『雷龍のミイラと古文書』 江戸時代 
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やけに綺麗な21体ものミイラそれぞれに神道っぽい名前… 
古文書が字も絵もヘタクソでなごみます。 
…コレ、トッケイヤモリの干物でしょ。 
よく見ると特徴的な色と模様が残ってます。 
蛤蚧(ゴウカイ)という漢方薬ですね。 
ぐぐるとほぼ同じ状態の画像がいくつも出てきます。 

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(この画像2点は拾い物) 


…キリがないのでこれくらいにとどめますが、怪しい物件はまだまだあったり。 


前回取り上げたアマビエのミイラは「ネタ」っぽいのですが、今回のはどうなんでしょうか。 

オカルト関係の人にはありがちなことですが、どうも湯本豪一は人が好いというか、騙されやすいトコがある気がします。 

本書のP.95では、「鬼のミイラの鑑定を帝国大学に依頼したが、作りものにしては精巧すぎて鑑定不能とされた」という明治44年の新聞記事を鵜呑みにし、
『それほどに高度な技術で幻獣ミイラは作られていたのだ』
としています。 
所蔵者は神田の質屋なので、帝国大学というのは東京帝大としても、どこの研究室の誰に依頼したのか全くの不明… 
ヨタ記事(当時は普通にありました)や所蔵者の駄法螺という可能性は考えないんですかね…? 

さらにP.94~96には『人の体を使ったおぞましい改造事件』なる小見出しの下、こうあります。 

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しかしこうしたミイラだけでは飽きたらず人を人魚にしたり、半獣にしたりという聞くもおぞましい出来事も報じられている。昭和8年8月11日の「東奥日報」(10日夕刊)には、上海の秘密の人形製造所で泣きわめく女性の両脚を貼り付ける施術を行って人魚に変身させて売り払うという、人権など微塵もない悪行を目の当たりにした帰国者からの目撃談を掲載している。こんな信じられない実態もあったのだ。 
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…いや、そんな実態は信じられないんで。 
あとこの話、「アジアのどこかで女性が肉体を改造されて見世物に」という点で、有名な都市伝説「だるま女」の系譜に連なるのでは…? 
本当にこういった怪奇に取り組み研究するなら、こんな与太話を鵜呑みにするのではなく、そういった視点が大事なのでは…。 

湯本豪一はここで指摘した数々の問題点に、知ってか知らずか、言及しません。 
見抜いてないのか…? 
知らずにやってるなら研究者としての適性が疑われますし、知っててやってるなら大問題です。 
ましてや、これらを所蔵する『三次もののけミュージアム』は三次市によって設置・管理・運営されている、公立の博物館ですよ? 
誰がこれらの「疑惑の物件」を作り、持ち込んだのか調べる必要があるでしょう。 


ちなみにネットではどんな扱いなのか、調べてみました。 
本書の発行当時、一部では話題になった様です。 
例えばこんなんとか。 


【Togetter】 
『猫鬼研究会』 
突如、21世紀に再発見された 
謎の組織 猫鬼研究会とは。 
その真相に迫る人々のまとめ 

https://togetter.com/li/1073398 


【Twitter】 
チラシ裏の三月(いずい)@sanga2paperさんのツイート
 
https://twitter.com/sanga2paper/status/823125091193999360 

(スレッドの続きも参照)



【妖怪図鑑 新版TYZ】
『猫鬼』

http://tyz-yokai.blog.jp/archives/1069861391.html


…ネタ扱いですね。

前回のエントリでも触れましたが、妖怪・幻獣クラスタはよく訓練されてるので、虚偽を暴こうとするデバンキング系懐疑主義者の様には騒ぎ立てません。 
まぁこういうのは…プロレスは「ガチか八百長かを超えたところ」に楽しみがある、みたいなものなのでしょう。 


でも権威ある学問の場に「こーゆーの」が紛れ込むのはマズいでしょ… 

これらのコレクションのうち、『猫鬼の頭蓋骨』と『人魚の骸骨』は、 
●国立民族学博物館 特別展『驚異と怪異―想像界の生きものたち』(2019年) 
●兵庫県立歴史博物館 特別展『驚異と怪異―モンスターたちは告げる』(2020年) 

で展示されています。 
まぁ他の展示物もその多くがフェイクではある訳ですが、それらは民俗学的に貴重な資料として、少なくとも来歴や年代についてはちゃんとしてますよね? 


…という訳で、湯本豪一はちょっとヤベー気がするのですが… 
ガチ科学やデバンキング系懐疑主義ではなく、妖怪や幻獣に興味を持つ人というのは、どこか知性や判断基準がゆるめというか、スポイルされがちなのかもしれません。 
まぁ私もついついUMA系にはロマンを感じて、他ジャンルのオカルトに比べるとちょっと批判よりラブが勝りがち… 
「スクリュー尾のガ―助」とかロマンしかありません。 

有名なアマビエの図と「件」(くだん)の剥製が姫路の特別展に来た時は、コロナ禍なのに駆けつけたしね! 
生アマビエ図(本物)を直接目にした時は、無神論者の私が思わず手を合わせて拝んでしまいました。 
なんという神々しいラブリーさ…ありがたやありがたや。 
幻獣パワー、おそるべし! 





(※画像は特記していない限り、同書の該当ページより引用)





(02:13)

2022年03月22日


2年前、Twitterにこんなつぶやきが。 


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牛乳雑巾ヽ(`ι _´;)ノ@kz1300kawasaki·2020年6月4日 
オランダの博物館から問い合わせ。これはアマビエのミイラなんじゃないかって様な事を言ってんだけども(;´・ω・) 

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牛乳雑巾ヽ(`ι _´;)ノ@kz1300kawasaki·2020年6月4日 
倉庫を片付けていたら奇妙な物を見つけた。鳥に似た姿だが、脚が3本ある。恐らく古い日本で作られた。 
「COVID-19」を鎮めるために日本にはアマビエと言う妖怪がいると聞いているが、その容姿を再現した物ではないかと思う。あなたの意見を聞かせて欲しい。 

だとさ(;゚Д゚) 

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牛乳雑巾ヽ(`ι _´;)ノ@kz1300kawasaki·2020年6月4日 
オランダの博物館には江戸時代に日本から持ち帰った人魚や河童のミイラがたくさん収蔵されている。ウロコは恐らく鮭、毛髪は麻だろう。言うまでもなく、コイツはフェイクだ。 

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これが本当なら、凄い発見ですね! 

…でもアマビエって資料はあの有名な刷り物1点のみの超マイナーな存在やで…? 
そもそもアマビエはアマビコの誤記と思われる訳ですが… 

アマビコの方は近年 資料も増えて、めちゃめちゃバリエーションがあることが判明しています。 
様々な漢字表記があったり、姿かたちが多様であったり、毛むくじゃらの山モノから鱗まみれの海モノに移行中のアマビコ図まであったり… 
それだけ広く知られていた存在でした。 
しかしアマビエはそうではありません。 

また、怪物のミイラはわりと個性的な顔をしてがち… 
「え、コレがカッパなの…?」みたいなやつとか。 
なのにこのアマビエミイラはあまりにもあの図に似すぎ。 

あと造形の上手さも気になります。 
通常、昔の人が作った怪物のミイラはデッサン狂いまくりで、骨格や生物感を押さえない、ハリボテ丸出しの稚拙なものです。 
特に頭部は造形家が一目見ればフェイクと判ります。 
ところがこのアマビエは、ツイート主自身が(昔の)フェイクだと認めているにも関わらず、頭部形状、特に正面から見た時の破綻があまりありません。 
明らかに近代的な作りです。 
その一方で色は妙に白く、古びた感じがあまりしません。 
例外もあるものの、通常は黒ずむものですが… 


そして謎なのは、仮にこんなモンが倉庫(収蔵庫?)から出てきたとして、何故オランダの博物館がこの人に聞くのか? ということです。 
普通、大学の研究者とかに聞かないですか…? 

そして怪しげ情報の常として、さっぱり続報ないやん…。 


しかもこの発信者、造形畑の人みたいなんよね。 


Twitterのプロフィールは↓こんな。 

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牛乳雑巾ヽ(`ι _´;)ノ@kz1300kawasaki 
人形(`ι_´;) 
妖怪(`ι_´;) 
能面(`ι_´;) 
ミニカー(`ι_´;) 
プラモデル(`ι_´;) 
昔の名前で出ていますヽ(`ι _´;)ノ 

女性は太目が好き(超小声) 
日本 京都2015年7月からTwitterを利用しています 
346 フォロー中 
―――――――――――――――――― 

この方、このツイート当時は『笑ひ般若(`ι _´;) · @kz1300kawasaki』という名前で、プロフィールの下には↓こんなリンクが置かれてました。 

―――――――――――――――――― 
リンク 京都妖怪博覧会 妖の宴~アヤシノウタゲ 
京都妖怪博覧会 妖の宴~アヤシノウタゲ 
古来からの伝統的素材と技法で妖怪を製作&コレクションしているヲモカゲ一座のサイト。 作者がこの世に存在しなくなっても次世代に、100年先まで継承される作品となる事を願って。 
―――――――――――――――――― 

リンク先はココです。 


【京都妖怪博覧会 妖の宴∼アヤシノウタゲ】 
https://womokage.amebaownd.com/
ちなみにこのサイトによれば、2013年の京都妖怪博覧会には漫画家の永野のりこ(個人的に超リスペクト)が参加していたようです。 
スゲェ! 

ここの「WORKS」のページには↓こうあります。 

―――――――――――――――――― 

-妖怪- 

はっきりとは見えない、感じられない、けれども日本人が恐れと畏れを抱き続けてきた存在… 

文明開化以前の日本の美意識から生まれた妖怪を 
古来からの伝統的素材と技法で製作&コレクションしているヲモカゲ一座のサイト。 

作者がこの世に存在しなくなっても次世代に、100年先まで継承される作品となる事を願って。 

womokage@gmail.com 
(ご連絡頂く場合は@を半角に) 

―――――――――――――――――― 

さらに↓こんなプロフィールも載っています。 

―――――――――――――――――― 

PROFILE 


-人形師- 

前島哲也  

静岡生まれ。木彫胡粉彩色と言う昔ながらの製法で御所人形を製作。 

1982年静岡学園高等学校卒業後、300年続くと言われる京都の有職御人形司に師事 

以降人形制作と古い人形の修理などを手がける 

1990年静岡松坂屋にて初個展 

1992年静岡松坂屋にて個展 

松坂屋では2002年~2014年と二年毎に個展 

2005年、2007年11月 京都人形ギャラリー久樂にて個展 

2006年京都宝鏡寺人形展に出品 

2009年3月京都同時代ギャラリーにて個展 

2009年4月京都同時代ギャラリーにて同時代展出展 

2009年10月横浜ギャラリー元町にて個展 

2010年12月横浜そごう美術画廊にて個展 

2013年・2014年、京都の古刹大善院にて「京都妖怪博覧会」を開催。 

2017年西願良平原作、山崎貴監督の東宝映画「DESTINY鎌倉ものがたり」にて 

妖怪ミイラ、人形、妖怪面制作、装飾協力などで参加。 

(2017年12月9日公開。2018年度正月映画。堺雅人・高畑充希ほか) 

日清食品 やきそばUFOウェブCM上で藤岡弘氏の人形「フジオカッパ」を製作。 

他個展、古典人形の修理多数 

お問い合わせは womokage@gmail.com まで 

(@を半角に替えてください) 

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…『妖怪ミイラ、人形、妖怪面制作』とありますね。 



ネットの反応はどんな感じでしょうか? 

【Togetter】 
『オランダの博物館「これはアマビエのミイラなんじゃないか」→その正に特徴を捉えた姿に、正体やルーツが気になる皆さん』 
https://togetter.com/li/1535926 …普通にガチ信じしてるやん…。 


しかしこんなのも発見。 

↓最初のツイートへの返信 
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返信 
mei@gabumei·2020年6月4日 
返信先: @kz1300kawasakiさん 
うまく作られましたね口を開けた笑顔 
新作ですか? 

どこかの個展でみられるかな、楽しみ 
( *´艸`) 
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さらにこんなツイートも。 

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松浦 だるま@darumaym·2020年6月5日 
アマビエのミイラの造形や年代よりも「アマビエはあの絵通りのミイラが作られるほど知名度があった、信仰されていた」という誤情報が一般化する可能性へのモヤモヤがある。 
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佐藤有文や中岡俊哉といった昭和の子供向けオカルト本ライターは、平気でインチキ情報を書いていました。 
例えば↓こんな。 


【いちばんくわしい「びろーん本(仮)」まとめ】 
http://raira314.web.fc2.com/kuwasii.html 


中にはそれらのインチキ情報を水木しげるが逆輸入して自分の本に載せてしまい、お墨付きを与えてしまうことも…。 
しかし妖怪・怪物クラスタはよく訓練されているため、それらすらも「怪しげな魅力」と解釈することがしばしばあります。 

例えば水木しげるの妖怪画の元ネタを徹底リサーチした同人誌があるのですが… 
その本は水木しげるがルドン等、シュルレアリスム界隈の画家から大量にパクってることを明かしながら、一切責めません。 
むしろ「天才が天才の作品を使って極上のパズルに仕立ててくれてる」みたいなコト言って大喜びです。 

…という業界なんよね。 

さらに、怪物系の本はしばしば『鼻行類』『秘密の動物誌』『ツチノコ―幻の珍獣とされた日本固有の鎖蛇の記録』の様に、フィクションであることを明言しない場合があります。 
種明かししちゃうのは粋じゃない、というコトでしょうが… 
懐疑主義的には、真と偽が不分明なまま流通しちゃうのは問題です。 

竹内久美子なんて、『鼻行類』の著者とされるシュテュンプケの名を持ち出して、自分の著作を『シュテュムプケ流の高度なジョークとして楽しんでほしい』と正当化してますからね。 






(03:28)