ドクター中松
2024年07月12日
御歳96にしてまたしても都知事選に立候補し、見事に落選して予定調和を完成させたドクター中松。
しかし
「イロモノ枠の常連」
「バネのついた靴でピョンピョン跳ねてる奇天烈おじいちゃん」
くらいの認識でいる方も多いのではないでしょうか。
そんな表層だけを見てこの奥深い人物を理解したつもりになってはなりません。
ドクター中松といえば世界的な偉人。
数々の伝説を掘れば掘るほどその偉大さに驚かされます。
なのにその業績の偉大さに反して、ドクター中松に関する情報は少なく、その全容は世間に知られていません。
なんともったいない!
という訳で今回はドクター中松の真実に迫ります。
【驚異の発明件数2360件】
ドクター中松の発明件数は前人未到の2360件…かのエジソンですら特許件数1093件なので、ダブルスコアで抜き去ってますね!
…と言いたいところですが、実はドクターの方は「発明件数が2360件」であって「取得した特許が2360件」とは言ってません。しかも発明件数もあくまで自称だし。
メディアによっては「特許件数2360件」と明記しちゃってる記事もありますが、「それは記者が早とちりしただけで俺は言ってないもんね」という知らんぷりスタンス。
しかもこの自称発明件数、何故か10年以上に渡り1件たりとも増えなかったというミステリー。
しかしマスコミにそれツッコまれてからは、「約3000件」というばっくりした数字を言う様になった模様。
ちなみにドクターの特許取得件数は1948年〜1991年で193件…そんなに多くない。
【記念日が制定されている】
アメリカではいくつもの市で名誉市民になってたり、「ドクター中松記念日」が制定されてたり、というのですが…
コレも「嘘ではないが、思てたんと違う」パターン。
「記念日」言うからその日はカレンダーに載ってたり、学校や会社が休みになったり、記念式典とかあるかと思うじゃないですか。
一切ありません。
名誉市民や記念日というのは寄付などのちょっとした功績があれば簡単に認められる模様。
記念日というのも特別なものではなく、毎日が誰かの記念日で、同じ日が記念日になってる人がいくらでもいる状態。
しかも永続的なものでもなく、数年経つと記録抹消されちゃう模様。
日本で言うと、お寺の改築に寄進したら屋根瓦に名前が書かれるとか、動物園などの施設に寄付した人の名札が施設のすみっちょに並べられるとか、そういうレベル。
【世界12傑に選ばれる】
ニューズウィーク誌が選んだ「世界12傑」の1人であり、「その価値1時間1万ドル」と評価された…
とドクターは豪語しているのですが…
これはニューズウィークが独自に選んだ訳でも評価額を出した訳でもなく。
「講演料がやたら高い人ランキングがコレ。そんな価値、ホントにあるの?」
的な、ごく短い記事が載っただけ。
講演者の所属事務所が発表してる額面を高い順に並べてそのまま掲載した、今で言うコタツ記事です。
ドクターは12位で、ご自慢の「1時間1万ドル」は講演料の言い値という、壮絶なオチ。
【15連続で世界発明コンテストグランプリに輝く】
世界発明コンテストグランプリを受賞すること、何と15回連続という前人未到の記録を打ち立てておられるのですが…
そのグランプリ発明がどういうものなのかのリストすら、ご本人が『ない』言うてはります。
しかしその割に、こんな画像があったり。

『これが、世界発明コンテスト11回連続世界一グランプリを獲得した"傑作"達だ‼︎』
と大書されてますが…
その割に12種類も載ってるやん。
しかもあの「醤油チュルチュル」もグランプリを獲得してるの?
ドクターは広く普及している灯油ポンプを、自身が「醤油チュルチュル」という名で発明したものだと主張。
「醤油を重い容器から移し替える母の苦労を軽減しようと中学2年の時に発明し、最初の特許を取得した」
と喧伝してきましたが…
しかし最初の特許は「無燃料暖房装置」だと書かれた著書もあったり。設定がブレブレ。
しかも醤油チュルチュル、「サイフォン」という名で実用新案は取ってますが、特許は取ってない模様。
話を戻して件のコンテストですが…
◉84年「3年連続で発明王」
◉91年「10年連続世界一」
◉93年「15回連続発明世界一グランプリ」
…え、12年ではなく?
さらに、なぜか表記が統一されてないのですが、そのコンテスト自体が…
◉84年「第八回世界発明家エキスポ84」
◉86年「第十回国際発明家エキスポ86」
◉88年「25年続いてるニューヨーク世界発明コンテストは、世界で最も権威があり」
…え、2年の間に突然13回分も増えてるやん。
なお、このコンテストの日本窓口はドクター主宰の「国際発明協会」だそうです。
ちなみにドクターは「世界天才会議」というのも主宰。
手弁当での活動、頭が下がります。
あと以前の選挙公報には
◉米国発明会議最高賞
◉『国際著名人名誉殿堂』殿堂入り第一号に選定
◉アメリカ大統領賞
ともあったのですが…
その「米国発明会議」の委員長はDr.アレギザンダー・マリアンチーノなるおっさん。
この人物はドクターの友人で、「国際著名人名誉殿堂」の代表取締役でもあり、ドクターを「アメリカ大統領賞」に推薦した人でもある模様。
1人3役とはずいぶんお忙しく、友情に厚い方の様ですね。
こらぁ夏の薄い本(ナマモノ)が分厚くなるで…!
【イグノーベル賞を受賞】
イグノーベル賞は「人々を笑わせ考えさせた研究」に対して与えられる、ノーベル賞のパロディーとして作られた賞です。
あくまで冗談なので、授賞式は…
◉受賞者も自腹で出席
◉トロフィーはスタッフの手作り
◉スピーチ時間はわずか60秒、それを過ぎると8歳の少女「ミス・スウィーティー・プー」が「もうやめて!私は退屈なの!」とぐずりだす
などなどの面白要素満載。
ドクターは2005年に
「34年間、自分の食事を撮影し、食べた物が脳の働きや体調に与える影響を過去にまで遡って分析し続けていることに対して」
イグノーベル賞の栄養学賞を受賞しています。
コレは毎日の食事の写真を撮り続け、例えば数日後に頭がすっきりしないと「アレ頭に悪いんやな」と判る、という何ともガバガバな研究。
小学生の「夏休みの自由研究」だってもうちょっと実験デザインがしっかりしてる気が。
そして1日3食撮影すれば年間およそ千枚、34年で約3万7千枚の写真の山ができる筈ですが、よく保管できますね〜…。
この独自が過ぎる「研究」、おそらく論文になってないどころか、公表すらされてないのでは…。
それでも受賞できちゃうところがイグノーベル賞。
ちなみにイグノーベル賞は実は受賞理由に3パターンくらいありまして…
【①奇妙だがちゃんとした科学論文】
◉「象の表面積を求める公式」など
【②あまり科学的ではないけど笑えるもの】
◉「子供は大人が嫌がるものを好む」というマーケティング結果から、青いジェロー(ゼリーの素)という不気味なものを発売した食品メーカー
◉犬語翻訳機バウリンガル(日本製)
【③ダメなものに嫌味で与える】
◉水爆の父・SDI計画(スターウォーズ計画)の提唱者エドワード・テラーは「我々の知る『平和』の意味を変えることに生涯、努力し続けた」として平和賞を受賞
◉経済学賞は大抵、悪どく儲けたり経済を破綻に追い込んだ人が受賞
◉スパム(広告じゃなくて缶詰のほう)利用者が「半世紀に渡って食べ続ける勇気と味のわからない味覚、無差別的消化力」を評価され受賞
…という感じ。
ドクターは①ではなく、②か下手したら③やろ…
なお、ドクターはイグノーベル賞を
「天才ノーベル賞とも呼ばれており、ノーベル賞以上の権威がある」
などと言って、授賞式の動画を顧客に観せまくり。
イグノーベル賞は徹底したおふざけイベントなので式の冒頭で観客が一斉に紙飛行機を飛ばすのですが、
「これは航空力学への敬意の表現です」
などと説明。
しかもイグノーベル賞を「IG(アイジー)ノーベル賞」と、ノーベル賞に寄せて発音。
自らの権威づけにめちゃ利用してます。
商魂たくましすぎる!
【魅惑の発明品たち】
いろいろ書きましたが、発明家は発明で勝負!
魅惑の発明品の数々を知れば、誰もドクターを悪くは言えなくなること請け合いです。
[フロッピーディスク]
ドクター中松と言えばフロッピー、フロッピーといえばドクター中松…というくらいの代名詞的存在。
しかし実際はフロッピーに似てなくもない「シンクロリーダー」というものに似てなくもない「ナカビゾン」というものを発明しただけ。親子亀。
似てるのはせいぜい「シート上に情報を記録する」点くらいで、記録方式から何から全くの別モノ。
しかもフロッピー発売後もドクター自身、その類似性に気付きもしてなかったご様子。
その割に後に出た複数の著書には
「IBM副社長が特別機で会いに来た」
とか
「IBMが権利を認めなかったので防弾チョッキを着込んで凸した」
とか、一貫性のないエピソードが載ってたり。
どっちだよ。
しかもフロッピー発売時にはドクターの特許はとっくに切れてたのですが、アメリカは訴訟社会なのでIBMはトラブルを避けるため、ドクターにいくばくかのお金を支払うことにした模様。
そして「ナカビゾン」というのは…
音を光学記録する、紙のレコードみたいなものが従来からあり、そのインクの色を変えて二重に印刷することで一枚の紙に多重に録音できるものをドクターが発明。
これを後に
「光学的に録音するのだからCDの基本発明は俺」
「二重に録音できるのだから多層式DVDの基本発明は俺」
的な主張をしてたり。
ちなみに「ナカビゾン」と名付けられた発明品はこの光学式のものと磁気記録式の2種類がある模様。
磁気バージョンの「ナカビゾン」は磁気コーティングした長方形の紙を裸のままで置いて記録媒体とし、ヘッド側を回転させて読み取るというもの。
コレでもまだフロッピーディスクまでは遠いなぁ…。
コッチは学研から英語教材として発売。
私が中学生の頃、コレの訪問販売が家に来ました。
[永久機関]
実はドクターの最大の発明はフロッピーディスクではありません。
なんと、人類の夢である永久機関を完成させているのです。
それが「ドクター・中松エンジン」、またの名を「ノストラダムスエンジン2 」。
なお、1つの発明に複数の名前があったり、逆に複数の発明に同じ名前が付いてたりするのはドクター中松あるある。
コレのせいで調査が困難になるのでやめてほしいのですが、ご本人はそんな細かいことを気にする様な器の小さな人物ではありません。
いんだよ細けぇことは。
ドクター・中松エンジンは宇宙エネルギーを利用し、外部からのエネルギー供給なしで動き続けるという優れもの。
いやこれ永久機関やん。
しかし永久機関はエネルギー保存則に反してるので実現不可能な筈では…?
しかしそこは「エネルギー保存則に反しちゃダメだけど、反さなければ大丈夫!」という、説明になってない説明により完全スルー。
なんというか…
「殺人は犯罪だけど、法に抵触しない様に殺せばセーフ」
みたいな話ですね。
そんな方法ないやろ。
外部からエネルギー供給なしでエネルギー取り出してる時点で保存則に反してるやん。
ちなみに実物は前掲画像の中央にあるものなのですが…
透明ドームの中のパネルに光を当てると動き出すけど、光を遮ると止まっちゃうというシロモノ。
それって「太陽電池で動いてるだけ」なのとどう違うのか…
ていうか「パネルに光」って外部からエネルギー取り込んでるやん。
「♪そんな大発明をしながら
決して学界には発表しない
ドクター中松の奥ゆかしさに
僕らは思わず涙する」
とか嘉門達夫が唄いそう!
[原子力除雪装置]
沸騰型原子炉をクロウラー(いわゆるキャタピラ)で走り回らせ、炉内に直接雪を取り込んで一次冷却剤にする、という漢らしさとロマンの塊。
炉が外部と直通でつながってるとかヤバすぎる。
特許庁からは「安全対策が記載されていない」とツッコまれ、拒絶査定を喰らった模様。

[ウデンワ]
ドクターが画期的発明を披露する、ということで記者会見まで開かれたという自信作。
その実態は「携帯電話に腕時計のベルトを付けただけ」の羊頭狗肉。
ちなみに本体部分は、当時めちゃくちゃ普通だったdocomoのパカパカ携帯でした。

後にスマホ版の「スマ手」も発表。
こちらはスマホユーザーの8割への普及を目指してる模様。
これらはドクター中松の数多とある発明品のごく一部に過ぎません。
しかしドクターの人智を超えた知性の程は充分に伝わったのではないでしょうか。
【商標登録】
ドクターが出願するのは特許や実用新案といった発明だけではありません。
商標登録もちょこちょこ出願しており、その中には
◉「新・民主党」
◉「日本維新の会」
◉「東京維新の会」
◉「がんばれ日本」
といったものも。
なんかどっかで見たっぽいやつばっかりや!
なお、いずれも却下された模様。
このへんやフロッピー・ウデンワあたりの発明品を見ちゃうと、ドクターのシノギってもしかして発明ではなく特許ゴロ・権利ゴロ寸前というか、紙一重突破しちゃってるんじゃ…? というあらぬ疑惑が頭をもたげ気味。
ドクター中松の利にさといビジネスマンとしての一面が垣間見えちゃってます。
この様にドクターは一筋縄ではその全貌をつかむことができない、奥深い人物なのです。
決しておもしろ泡沫候補などではありません。
【政策】
都知事やサンギンギンに立候補し続け、当選歴もないのにもはや風格すら醸し出すドクター。
そんなドクターが掲げるステキな発明的政策の数々を見ていきましょう。
◉2003年
都知事選において「ドクター・中松ディフェンス (DND)」という発明品で「北朝鮮のミサイルをUターンさせられる」等と主張。
こんな空前絶後のアイデアで都民の安全を図る都知事候補、他にいます?
さすが凡百の候補とは一線を画す、常識の向こう側のお人やで!
それはそれとして、ネーミングがバイク川崎バイク(BKB)みたい。
◉2007年
参院選にあたり「ドクター・中松ドクトリン」を発表…またしてもDND。
こちらでは「現行憲法は存在しない。現行憲法の名称は大日本帝国憲法の昭和二十一年改正であるべきである」等とトガった主張を展開。
◉2009年
極右団体「維新政党・新風」の講師団に就任したかと思ったら、直後に幸福実現党に鞍替えし、特別代表に。
◉2011年
都知事選に出馬。すでに80代でしたが、筋トレで身体を鍛えてて50トンの重りを持ち上げることができると豪語。
なんていうか…言ったモン勝ちの世界やなぁ…
◉2013年
アパのネトウヨ作文大会「真の近現代史観」懸賞論文に『日本は負けていない』なる論文を応募し佳作を受賞。
なんじゃそのタイトル…ブラジル勝ち組かよ。
…という訳でやはりドクター中松は我々凡人には計り知れない、歴史的人物でした。
こんな凄すぎる人物と同時代を生きていることに驚きと感動を禁じ得ません。
こんなアレやコレやを思いつくことも非凡なら、それを実現してしまう実行力も非凡…!
普通こんなん、思いついてもやりませんよね〜(モラル的な意味で)。
【参考文献】
◉と学会『トンデモ本の世界』1995年
◉松沢呉一『「ドクター中松」という珍発明』
(宝島30 1993年11月号)
◉鶴巻公方『発明のえらいひと ドクター中松ガイドブック』1993年 同人誌
(『ドクター中松小辞典』の改訂版)
◉Wikipedia「中松義郎」「ナカビゾン」
『トンデモ本の世界』には参考文献として『「ドクター中松」という珍発明』が挙げられています。
その『「ドクター中松」という珍発明』は『ドクター中松小辞典』を参照しており、また資料協力として「と学会」の藤倉珊と志水一夫の名がクレジットされてます。
影響を及ぼしあってる〜!
そしてこの3つがドクター中松の正体に迫る基本文献。
今回の記事はこれら先人の労作に頼りまくり。
フロッピーについてはドクターが頑なにあまり語らないこともあって諸説あるので、最大公約数的にまとめてあります。
上記の様な事情なので細部に多少の間違いがあるかもしれませんが、大筋では合ってる筈。
あと2000年代辺りには大豆生田利章という群馬高専や千葉大にいた人がドクター中松批判サイトを作ってましたが、現在は消滅。残念。
Wikipedia「ドクター中松」の項には数年前の時点では批判的な記述は全くなかったのですが、現在はかなり充実。
こういう現象はWikipediaあるあるなので、気になる人物は時どきチェックし直すが吉(例えばマザーテレサとかがそう)。
こちらもソースとして『トンデモ本の世界』『「ドクター中松」という珍発明』が挙げられています。
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