サトシ・カナザワ
2024年09月05日
私が最も信頼する人物であるロマン優光師父(勝手に私淑)。
最近、そのコラムにこんな回がありました。
【実話BUNKAオンライン】
『日経ビジネス「経営者の女性問題、防ぐのは困難」という記事がヤバい:ロマン優光連載302』
https://bunkaonline.jp/archives/5461
この連載コラムのタイトルは本来「さよなら、くまさん」の筈なのですが…最近、どこにも表記されてないなぁ…。
ココでロマン優光師父は、日経ビジネスの記事で取り上げられた進化心理学者のサトシ・カナザワを批判。
師父は↓こう書きます。
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カナザワ氏について調べてみると毀誉褒貶のある人物というか、トンデモ説をよく唱える人物であるようだ。竹内久美子的なテイストを感じる。
・保守・右派よりリベラル・左派のほうが知能指数が高い。
・無神論者のほうが知能指数が高い。
・クラシック音楽を好むものは知能指数が高い。
・美人ほど女の子を産む。
・男性は一般に長い髪の女性を好む。
・黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではない。
なんなのだろう……。「単にあなたの好みを正当化しているだけなのではないか」というものが多く混じっているような気が。
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さらには↓こうも。
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日本のSNS上では、リベラル・左派のアカウントの中に「保守・右派よりリベラル・左派のほうが知能指数が高い」説を使って、ネトウヨと呼ばれる層をバカにするようなことをする人がいたが、このような人物の説をありがたがっていたことを本当に反省してほしい。
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…ところがX内を検索しても、ぐぐってみても、そういった主張は見つからず…
一体誰がそんなトンチキなコト言ってるんでしょうか?
サトシ・カナザワの説を持ち出してるってのはどいつだぁ〜い?
「リベラルの方が知能指数が高い」と主張してるってのはどこのどいつだぁ〜い?
アタシだよッ!
…今、何故かにしおかすみこが通りがかりましたが、急激な懐古ネタは当ブログではよくあることなので気にしないで下さい。ルネッサ〜ンス!
SNSではありませんが、当ブログでそういった主張をしたことがあります。
『「保守のIQはリベラルより78%高い」←は?』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/10239701.html
というか私以外、言ってる人が見つからない。
ってことは…ロマン優光師父が批判したのはモロに私のことだという蓋然性も微レ存。
うわぁ、師父が私の拙文を読んでるかも、とか光栄っス!
私もその当時はサトシ・カナザワがこないトンデモだとは思ってもみなかったのですが…
後に黒人女性の性的魅力云々で炎上した件を知り、ヤベー奴だと気付きました。
猛省!猛省!また猛省‼︎

「オロカモノメ…」
それにしても進化論界隈までフォローするとは…師父、さすがでございます。
しかし一応申し開きしておきますと…
確かに私は「保守はIQが低い傾向がある」という話を何度か擦ってきましたが、それはネトウヨさんをバカにする具として用いるというよりは、主に
「竹内久美子はすぐに進化論を保守age・リベラルsageのために持ち出すけど、『保守の方がIQが低い』という話は絶対しないよね? 何でなんで?」
という形で、ですね。
とはいえ、そもそも『保守の方がIQが低い』というのがトンデモ説に過ぎないなら、↑このスタイルの竹内久美子批判は引っ込めるべき、ということに。
…が、その必要はなさそうです。
というのも、『保守の方がIQが低い』というのはカナザワの主張抜きでも充分に確立されてるんですよね…。
実際、先ほど貼ったエントリでも『保守の方がIQが低い』の根拠はまずDhont and Hodsonの研究で、カナザワはその補強に登場するに過ぎないですし。
あのエントリを書いて以来、いろんな本を読みましたが、他にもいくつもの研究が同じ結果を支持しているのに行き当たりました。
それらを毎回メモってる訳ではないので、すぐに出せる本をとりあえず1冊挙げると…
橘玲(たちばな・あきら)『朝日ぎらい』には以下の研究が紹介されています。
◉p.200
オーストラリアの3人の心理学者による研究
Heaven,P.,Ciarrochi,J.and Leeson P.(2001)(原文ママ)
◉p.213
カリフォルニア州バークレー校の2人の発達心理学者による結果
Jack Block,Jeanne H.Block(2006)
◉p.218
シドニー大学のピーター・ハテミらによる研究
Peter K.Hatemi,etc.(2011)
3つとも「リベラルの方が知能が高い」を支持しており、2つめは「リベラル/保守になるのを何歳から予測可能か」、さらに3つめは「リベラル/保守の遺伝的基盤」について、という突っ込んだ内容。
研究はもはや「リベラルの方が知能が高いかどうか」の議論ではなく、それを前提にその先まで進んでいます。
その程度には確立されているのですね。
ちなみに以前、読者の方から「橘玲ってどうよ? 一度取り上げてね」的なコメントをいただいたことがあるので、そのアンサーも書いておくと…
まぁ気になっちゃうお気持ち、よく分かります。
なんかちょっと胡散臭いですよな。
時どき、進化心理学の切れ味に酔って何でもソレだけで説明しようとしちゃうし。
あと
「オマキザルに軽作業をさせ、報酬としてキュウリを与えると喜んで食べる。しかし別の個体が同じ軽作業でブドウを与えられていることを知ると、キュウリを拒否して投げつけてくる。つまりオマキザルには『公正さ』の概念があるのだ」
という有名な実験があるのですが…
橘玲はその話をオマキザルではなく「チンパンジー」と書いてたり。
しかし橘玲は竹内久美子みたいに飛躍のありすぎる話はしないし、竹内久美子みたいにあまりに基本的な進化概念上の間違いも犯さないし、竹内久美子みたいに進化論系の学者から批判されたりもしていません。
また橘玲の進化心理学の知識は付け焼き刃ではなく、かなり専門的な文献も読みこなしてるんですよね…。
ちょっぴり注意しつつも、基本的には信用して大丈夫だと判断しています。
何しろ橘玲は竹内久美子とは違って、ガチ進化心理学書の帯に推薦文を寄せてほしいと乞われるほどの人物…

…あれ?
よく見たらサトシ・カナザワー!
いや、でもね…
サトシ・カナザワがホンマにそれほどトンデモさんなのか、って話なんですよ。
この人のトンデモポイントとされたのは、
・保守・右派よりリベラル・左派のほうが知能指数が高い。
・無神論者のほうが知能指数が高い。
・クラシック音楽を好むものは知能指数が高い。
・美人ほど女の子を産む。
・男性は一般に長い髪の女性を好む。
・黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではない。
ですが…
3〜5番目は別に思想的背景は感じません。
ていうかこういうのは(結論の妥当性はさておき)進化心理学界隈では普通にありそうな研究。
そして1・2番目はリベラル寄りに見えますが、逆に6番目の黒人女性のやつは保守寄りっぽい…
つまるところこの人、思想背景なんて無いんじゃねーの?
いや中には思想背景のないトンデモさんもいるし、むしろそういうのも無いのにこじらせちゃってる人こそがホンマモン、という考え方もありますが。
しかし竹内久美子とかのネトウヨさんを見れば分かる様に、思想背景がある方が闇堕ちしやすいのもまた確か。
先ほど貼った、私がカナザワを援用したエントリをお読みいただければお分かりいただけますが…
この人、リベラル寄りに見える「保守の方がIQが低い」という話の中ですら
「ドーキンスとか、リベラルは賢い割にトンチキなコト言い出すよな。
あいつら、感じればいいコトをいちいち考えちゃうからな。
ありゃ『私はこんなに複雑怪奇な理論を組み立てられますよ』というアピールじゃねーの」
みたいな余計なコト書いちゃってるんですよ。
かと言って保守めいた発言も特にないし。
6番目の黒人女性の一件も、「人種的偏見を正当化したろ!」といった政治的動機は見えません。
勿論、コレが白人至上主義などの思想的背景のある人物が発信したものなら、「フェイクニュースでは?」とか「バイアスのかかった研究では?」とか疑った方が良いのですが…
人種差別も何も、この人自身が日系でしょ。
とは言えこの研究、実験デザインはめちゃ酷そうですけどね!
元の論文について詳しくは分かりませんでしたが、白人を美の基準に置く西洋文化の影響を排除した様には見えません。そら炎上しますわ。
しかもそういう結果が出た理由としてカナザワは
◉ 『黒人は人類の進化の歴史から見て、他の人種よりも起源が古く、他の人種より遺伝子に突然変異体を多く持っている』
◉『また、黒人女性は男性ホルモンであるテストステロンを多く持っているので、平均的に他の人種よりも体格が良く、男性的な特徴が強めで、身体的にあまり魅力的でない可能性がある』
としているのですが…
やたらとテストステロンを持ち出して説明するのって竹内久美子みたいですな。
しかしまぁコレは一応はあり得そうな説明ではあります。
でも突然変異の方は意味が分かりません。
黒人の方が起源が古いとしても、分岐後に経過した時間は同じなので、他の人種よりも突然変異が多い訳ないと思いますが。
分子時計法とかご存じないんでしょーか?
そして1・2番目については一見するとリベラル寄りに見えるものの、「大体これまで通りでええやん」とか「神様はいるに決まってるやん」というシンプルライフな保守主義や有神論の方が、特に高い知性を必要としないというのはごく当然なのでは。
特に1番目については他の研究によって支持されてる訳で。
そもそもリベラルは科学とか人権思想とか民主主義とかの啓蒙主義と親和性が高く、これらを理解するのには高い知性が要求されます。
一方、保守は反知性主義との親和性が高く、理解するのに必要とされる知性はさほど高くないですよね。
国家とか宗教とか既存の権威に乗っかるだけで疑問を持たずに生きるのは簡単なことです。
例えば何か犯罪が起きた時に
「はい、全て犯人の自己責任。やったことに責任を取らせる、ごく当たり前のことだよね?」
とシンプルに考えがちなのが保守。
「事件の社会的背景は? 容疑者の生育歴は? 情状酌量の余地は?」
といろいろ考えがちなのがリベラル。
しかしヒトが進化してきた環境においては、捕食者や敵の襲来といった「正確さ・精密さより決断の素早さが重要な局面」も多かったことでしょう。
そういった状況では「手っ取り早く、大雑把な答」を出せるヒューリスティックな思考法の方が生存に有利なことも多かった筈。
敵襲の中では「目の前にいるのは本当に敵か?」とか緻密に考える暇があるなら、とりあえず戦った方が生き残りやすいですよね。
この様に、シンプルな考え方には生存上の有利さがあったことでしょう。
しかし「生存上の有利さ」と「倫理上の正しさ」は別モノなので〜。
そして我々はそういう「有利だった」人々の子孫であり、その性質を受け継いでいるので、そういう思考をしがち…
しかし現代生活では猛獣や敵部族に襲われることはめったにないので、速くて粗雑な考え方よりは時間がかかっても緻密な考え方をした方が良くないですか?
拙速より遅巧。
ついでに↓こんなん発見。
https://tozanabo.com/archives/27920712.html/amp
あと、そもそも進化論界隈は誤解を受けやすい学問です。
例えば、その手の本に
「レイプをすることで適応度が上昇するなら、彼はそうするべきである」
と書いてあったとします。
コレどう見てもレイプ推奨やん、と思われるでしょうが、さにあらーず。
ココに「レイプして良い」といった価値判断は一切含まれてなかったり。
コレは進化論界隈の慣習では
「レイプする個体はそうでない個体に比べ、平均的により多くの子(遺伝子)を残すであろう」
という事実を述べたものに過ぎません。
それをより簡便に表現するために擬人化&単純化を行うという、進化論界隈特有の特殊な文脈での表現なのですね。
そんな具合なのでちょいちょい「メスは産む機械」どころか、「メスの体を、多数のオスの精液が入った容器だと見做してみよう」とか平気で書いてある〜。
勿論、著者は一般の読者に誤解を与えない様、前もって丁寧に説明する等の努力をしなければなりません。
そしてそういった気遣いをしないのが竹内久美子という訳ですね。
意図的に誤解を誘って妙な結論に誤誘導しているのか、それともご本人にもその辺の区別がついてなくて素ボケをかましてるのかは知りませんが。
そしてサトシ・カナザワもその辺の説明がちゃんと出来てない感じ。ダメじゃん。
ロマン優光師父は日経ビジネスのカナザワ記事についてこう評しています。
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冒頭の「一般的に男性は経営者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ねることをその目的としています。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事こそが本来の無意識的な目的だと私は考えます」というフレーズだけで、身もふたもないひどさに頭を抱えてしまう人、笑いをこらえきれなくなる人も多いだろう。
最後の「ほとんどの人は飛行機に乗っても、無事でいられるように、愛人がいる経営者のほとんどが、無事に過ごせています。リスクを取ってでも愛人をつくることは合理的な判断だとも言えるのです」というのも、かなりのキラーフレーズである。
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…まぁそう感じてしまうのも無理ないと思います。
しかしチョイ足しして、
「一般的に男性は経営者などの権力者・有力者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ね、子孫の数を最大化することをその進化的な目的としています。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事を通じた適応度の上昇こそが本来の無意識的かつ進化的な目的だと私は考えます」
「ほとんどの人は飛行機に乗っても、無事でいられるように、愛人がいる経営者のほとんどが、無事に過ごせています。自然選択がリスクを取ってでも愛人をつくらせることは適応戦略上、合理的な判断だとも言えるのです」
…という風に補足すると、実は全く問題がないことが分かりますね。
まぁチョイ足しのつもりが全部乗せになった感もありますが。
しかしコレが竹内久美子あたりだといろいろ余計なコト言ってるので足し算だけではどうにもならず、あちこち引き算して削除しないとどうにもなりません。
もともとあらゆるリソース(資源)は、生存と繁殖のために使われるもの。
我々が進化してきた環境においては、権力や物資は繁殖に直結するものでした。
そして我々はそういう性質を持った者たちの子孫なので、その性質━━より多くのリソースを求める心━━を受け継いでいます。
ヒトでは文化による影響もあるので原則通りでないことも多々ありますが。
今日ではそのリソースを求める心が独り歩きし、そもそもの目的のひとつである繁殖をしのぐことさえ珍しくなくなりました。
例えば権力の中枢にいる人たちは、下半身のスキャンダルで失脚するお仲間を「女なんぞにかまけて、何より心地よい権力の座を失うとは愚かな奴よ…」という風に捉えるかもしれません。
しかし進化的には、もともと権力とは生存と繁殖のための手段に過ぎなかったのです。
こう表現すると、カナザワの主張もロマン優光師父のツッコミも、さほど距離の離れたものではない様にお思えてこないでしょうか?
もちろん、これだけいろいろのっけないとダメなのはサトシ・カナザワの説明不足によるものなのでダメのダメダメ。
でもこの人、悪意はないっぽいんだよな〜…
まぁしばしば地獄への道は善意によって舗装されてるものではありますが。
黒人女性の件にしても…
例えばこういう昆虫がいると考えてみて下さい。
その種はいくつかの繁殖集団に分かれていますが、どの集団に属するオスも、腹部の太いメスに強く惹かれます。そういうメスはより多くの卵を産めるからです。
しかし実際には「腹部が太すぎると身重になって生き残りにくくなる」等の理由で、メスの腹部はオスの理想通りの太さにはなりません。
そして生息環境の違いがあるため、メスの腹部の太さも繁殖集団ごとにまちまちです。
この様な場合、どの集団の雄から見ても「メスが魅力的な繁殖集団」と「そうでない繁殖集団」が存在することは不可避ですよね。
コレを研究することに問題がある様には思えません。
そしてコレに似たことがヒトで起きても特に不思議はありませんし、それを研究することにも問題はないでしょう。
例えば「どの人種が美しいか」は価値判断を含んでしまってますが、「どの人種が性的に魅力的と見做される傾向にあるか」は単に事実の問題です。
ちなみにドーキンスは何かと揉めやすい人種間の知能差について
「『ちょっぴり差はあるけど、権利は同等』ってすればいいのに、一部の学者は『差は無い』ことにしちゃってる」
みたいなコトを言ってます。
もちろん、そういうヘイトスピーチに利用されやすい微妙な分野については慎重に語らなければなりません。
しかしサトシ・カナザワ、そこら辺がガバガバなんだよなぁ…。
ついでに橘玲の思想背景についても触れておくと、この人は基本的にリベラルです。
しかしリベラルにとって耳が痛い話もよくする…
党派性にとらわれず、是々非々で批判すべき点はちゃんと言うタイプの人かと。
ドーキンスと同じですね。
先述の『朝日ぎらい』は朝日の批判でも擁護でもなく、朝日が嫌われがちな理由を述べた本で、朝日新聞出版から刊行されています。
この本で橘玲はネトウヨさんをきっちり批判。
…が、ネトウヨさんを進化心理学を援用して説明してるため、「ネトウヨさんが生まれてしまうのは仕方ない」と受容している様にも見えてしまうかも。
しかしコレは橘玲が悪いというよりは進化心理学自体にまとわりつく問題でしょう。
「〜には遺伝的基盤がある」とか言われると、それが変更不能なモノに思えてしまいがち。
実際、この界隈は「そんなの遺伝的決定論だ!」とお叱りを受けることも多いのですが、実際にはそんなことねーべ。
ちなみにドーキンスはこの問題について
「排泄すること自体は遺伝的に決定されてて不可避でも、人前でうんちぶりぶり上等ってコトにはならんやろ」
みたいなコト言ってます。
カナザワが日経ビジネスで主張した「経営者が女性にだらしないの、防ぐのムズい」もこの類では。
この元記事、現在は有料化してて前半しか読めませんでしたが、その範囲では「経営者の下半身スキャンダルを防ぐのは困難」というだけで、だから仕方ないとかそれが倫理的に問題がないとか言ってる訳ではないですし。
それに「進化心理学的な理由によってこの問題は根深く、防ぐのが困難である」という知見があった方が、むしろ問題解決の役に立つのでは。
そう考えていくとサトシ・カナザワ、確かに黒人女性をめぐるアレコレは確かにトンデモなのですが、それ以外はそうでもない感じ。
しかも特に悪意はないっぽい。
じゃあ何でこんなにいろいろ説明不足なのかと言うと…単に空気が読めないからでは…?
実はこの分野に、自らの空気の読めなさへの理解を訴える研究者がいます。
ジェフリー・ミラーという人なのですが、この人の研究は実にユニーク。
例えば彼は
「ヒト女性は月経隠蔽、つまり排卵日がいつか分からない様にする性質を獲得したって言うけどさぁ…実は男性ってソレ見抜いてんじゃねーの?」
と考え、それを裏付ける方法を考案しました。
それは「ストリップダンサーは排卵日にチップが増えるか?」を調査する、というもの。
研究の結果、チップは増えてたことが判明。
彼はこの研究であのイグノーベル賞を受賞します。
で、この人
「俺ら悪意はないけどうっかりヘイトスピーチしちゃう!
だって大学のルールが俺らにはよく分からないんだもん」
みたいなコト訴えてる模様。
というのはこの人、アスペルガー症候群なんですよね。
実際こういう人、研究者にはめちゃ多いみたいです。
海外ドラマ『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』に登場する超天才の宇宙物理学者シェルドンがモロにそういう描写をされててですね。
基本的に他者と会話が成立しない上、悪気はないんだけど絶対に言わなくて良いコトとか差別的なコトすぐ言っちゃう、という。
で、Xで↓こんなん発見。

…研究者じゃないけど、竹内久美子も私もそう。
大体、進化論なんていう自らの来し方行く末を考え込んじゃうおかしな分野に惹かれる人は高確率でアレ。
で、ジェフリー・ミラーはその辺の話を邦訳未刊の著書に書いてるらしく、進化論関係で私が最も信頼しているshorebird師匠(私淑)が内容を解説してくれています。
書籍のタイトルは『Virtue Signaling』(美徳シグナリング)というのですが…
その意味は↓この辺でも読んでいただいて。
【Wikipedia】
『美徳シグナリング』
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/美徳シグナリング
書籍についてのざっくり説明は↓ココ。
【shorebird 進化心理学中心の書評など】
『書評 「Virtue Signaling」』
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/04/29/093951
で、問題の箇所は↓このへん。
『Virtue Signaling その24』
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/02/14/083237
『Virtue Signaling その25』
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/02/17/091843
『Virtue Signaling その26』
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/02/23/143547
『Virtue Signaling その27』
https://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/02/26/183831
ココで想定されてる場はあくまで学内とかです。
確かに、論理的な議論による決着が期待できるアカデミズム内部ならそうかも。
しかしルール無用の大規模掲示板群やSNS上ではそうではない、というコトは皆さん骨身に沁みてご存じですよね。
ちなみに青識亜論が
「リベラルはすぐ『寛容な社会を維持するためには、寛容な社会は不寛容に不寛容であらねばならない』というカール・ポパーの言葉を持ち出すけど、ポパーは合理的な議論の重要性についても語ってますけど?」
みたいなコト言ってるのですが、コレもポパーが想定してるのは噛み合った議論のことで、クソリプや誹謗中傷の羅列のことではないよね。
実際、寛容のパラドックスについてポパーはこう言ってます。
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「寛容のパラドックス」については、あまり知られていない。無制限の寛容は確実に寛容の消失を導く。もし我々が不寛容な人々に対しても無制限の寛容を広げるならば、もし我々に不寛容の脅威から寛容な社会を守る覚悟ができていなければ、寛容な人々は滅ぼされ、その寛容も彼らとともに滅ぼされる。――この定式において、私は例えば、不寛容な思想から来る発言を常に抑制すべきだ、などと言うことをほのめかしているわけではない。我々が理性的な議論でそれらに対抗できている限り、そして世論によってそれらをチェックすることが出来ている限りは、抑制することは確かに賢明ではないだろう。しかし、もし必要ならば、たとえ力によってでも、不寛容な人々を抑制する権利を我々は要求すべきだ。と言うのも、彼らは我々と同じ立場で理性的な議論を交わすつもりがなく、全ての議論を非難することから始めるということが容易に解るだろうからだ。彼らは理性的な議論を「欺瞞だ」として、自身の支持者が聞くことを禁止するかもしれないし、議論に鉄拳や拳銃で答えることを教えるかもしれない。ゆえに我々は主張しないといけない。寛容の名において、不寛容に寛容であらざる権利を。
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話がそれましたが…
そんなこんなでサトシ・カナザワ、確かにトンデモ部分もあるけど、トータルでは誤解による部分も大きいのではないか、と。
まぁロマン優光師父とは別の件でも異なる見解に達してましたし。
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/23212114.html
ロマン優光師父も町山智浩大兄を深く尊敬しつつ一部批判してますし、ソレみたいなモンだと思っていただければ。
町山大兄もロマン優光師父のコラムのファンらしいですし。
そしてこのエントリによって少しでも認識が変わることがあれば、それに勝る喜びはないっす。
ちなみにロマン優光師父と並んで私が信頼しているのはパオロ・マッツァリーノ師父ですが、2人とも石丸伸二を批判してました〜。
さすがやで!
【実話BUNKAオンライン】
『これが石丸伸二だ!:ロマン優光連載299』
https://bunkaonline.jp/archives/5398
【反社会学講座ブログ】
『陰謀論と詭弁の宴 東京都知事選雑感』
https://pmazzarino.blog.fc2.com/blog-entry-458.html?sp
《資料集》
【日経ビジネス】
『社長が愛人と出張 「経営者の女性問題、防ぐのは困難」と進化心理学者』
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00630/042600010/
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社長が愛人と出張 「経営者の女性問題、防ぐのは困難」と進化心理学者
By Jiro Yoshino
Read time:3min
2024.4.30
後で読む
写真=PIXTA
この記事の3つのポイント
無意識的に男性は女性に近づくために経営者を目指す
高報酬を得て養育力が高いことを女性に示そうとする
不倫している経営者に関係解消を説得することは難しい
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近年、女性問題で失脚する男性経営者が後を絶たない。ウエルシアホールディングスの社長が先ごろ愛人問題で辞任した騒動は記憶に新しい。タムロンの社長も、愛人とみられるホステスを会社の経費で海外出張に同伴させるなどしていたとして2023年に辞任。ENEOSホールディングスの会長と社長も22年以降、相次いでセクハラ行為で失脚した。進化心理学者で、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)准教授のサトシ・カナザワ氏に、失脚のリスクを冒してまで女性に走ってしまう男性経営者の心理を聞いた。
愛人問題で会社を追われる男性経営者が後を絶ちません。
英LSEのサトシ・カナザワ准教授(以下、カナザワ氏):一般的に男性は経営者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ねることをその目的としています。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事こそが本来の無意識的な目的だと私は考えます。
経営者になれば、女性を引きつける上で有利となる富と権力が手に入ります。女性スキャンダルを起こす男性経営者は、本来の目的を達成しているだけだともいえます。
なぜ男性は富と権力で女性を引きつけることができるのでしょうか。
カナザワ氏:教育の機会や食料を提供するなど、子どもの養育に必要な投資の能力が高いことを女性に示せるからです。このようにヒトの場合、母親ほどではないにしろ、父親も子どもの養育に参画しています。夫婦で子育てする種は珍しく、ヒト以外には鳥類やゴリラなどしか存在しません。それ以外のほとんどの種は母親だけで子どもを育てるので、母親は父親の持つ富や権力には関心がありません。繁殖相手を選ぶ上で関心があるのは、父親の持つ遺伝的な質だけです。
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【実話BUNKAオンライン】
『日経ビジネス「経営者の女性問題、防ぐのは困難」という記事がヤバい:ロマン優光連載302』
https://bunkaonline.jp/archives/5461
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302回 日経ビジネス「経営者の女性問題、防ぐのは困難」という記事がヤバい
日経ビジネスの『「経営者の女性問題、防ぐのは困難」と進化心理学者』(2024年7月31日)という記事がX(旧Twitter)のTLに流れてきたので「なにこれ?」と思いながら読んでみたところビックリ! 男性経営者が女性問題で失脚することが多いのは何故かということについて、進化心理学者で、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)准教授のサトシ・カナザワ氏に聞いている記事(日経ビジネス電子版 2024年4月30日の記事を再構成したものだという)なのだが、このカナザワ氏の回答が本当にひどいのである。
「経営者の女性問題、防ぐのは困難」と進化心理学者 - 日本経済新聞
近年、女性問題で失脚する男性経営者が後を絶たない。ウエルシアホールディングスの社長が先ごろ愛人問題で辞任した騒動は記憶に新しい。タムロンの社長も、愛人とみられるホステスを会社の経費で海外出張に同伴させるなどしていたとして2023年に辞任。ENEOSホールディングスの会長と社長も22年以降、相次いでセクハラ行為で失脚した...
冒頭の「一般的に男性は経営者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ねることをその目的としています。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事こそが本来の無意識的な目的だと私は考えます」というフレーズだけで、身もふたもないひどさに頭を抱えてしまう人、笑いをこらえきれなくなる人も多いだろう。
最後の「ほとんどの人は飛行機に乗っても、無事でいられるように、愛人がいる経営者のほとんどが、無事に過ごせています。リスクを取ってでも愛人をつくることは合理的な判断だとも言えるのです」というのも、かなりのキラーフレーズである。
カナザワ氏の主張を読んでいくと、大まかにいうとこういった考えがあるのがわかる。
動物はより多くの子孫を残すことを目的に生きており、人間も例外ではない。人間の男性はより多くの女性と繁殖することをもとめて行動するものであり、人間の場合は母親が富と権力を持つ男性との繁殖を好む傾向が強いため、男性も富と権力を得るために行動する。経営者として成功することを求めて行動することの真の目的は、多くの女性と繁殖することにあり、女性問題が多く発生するのは仕方がない。
人間も動物である以上、本能に支配される部分があるのは真実ではある。しかし、本能にあらがう理性を発達させ社会的に成長することで現在の隆盛を手に入れた部分があるのも、また真実。本能だからしかたがないみたいに結論付けるのは、さすがに単純すぎないだろうか。事象を限りなく単純化して、こじつけている。
そんなにカナザワ氏のいうとおりに人間は本能に逆らえないなら、人間は繁殖以外の目的の性交などしないはずだと思うのだが、そんなことはないわけで。本能だから仕方がないみたいなことで結論付けるのはさすがにひどい。
カナザワ氏について調べてみると毀誉褒貶のある人物というか、トンデモ説をよく唱える人物であるようだ。竹内久美子的なテイストを感じる。
・保守・右派よりリベラル・左派のほうが知能指数が高い。
・無神論者のほうが知能指数が高い。
・クラシック音楽を好むものは知能指数が高い。
・美人ほど女の子を産む。
・男性は一般に長い髪の女性を好む。
・黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではない。
なんなのだろう……。「単にあなたの好みを正当化しているだけなのではないか」というものが多く混じっているような気が。
一応、各説には科学的な根拠や統計データといった裏付け、出典などが書かれているようだが、資料やデータの読みとり方、取り扱いについて問題視する研究者の声が多数確認できる。「黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではない」という彼の説。Website「Add Health」で行われた5段階でその人が魅力的であるかどうか読者に質問するという研究をもとに、他の人種の女性の平均得点が3.7だったのに対し、黒人女性の得点は平均3.5点だったことを分析。人類としての期限が古いため突然変異体を多く持っている可能性があり、男性ホルモンであるテストステロンを多く持っているため肉体的に他の人種より魅力的でないと考えられると仮説をたてた。
前からトンデモ
元になっているデータの質、不適切な統計の読みとり方が多くの研究者から批判されたし、当然ながら内容が差別的であると抗議をうけ、カナザワ氏は謝罪することになった。
統計の読みとりの問題はさておいても、素人が見ても突然変異体やテストステロンうんぬんは彼の憶測、想像で、科学的な証明とはほど遠く、結論から逆算された根拠のないこじつけだ。これで抗議されなければ、そのほうが不思議である。
彼の説やそれに対する批判を色々見ていると、彼自身の志向が先にあって、それにあうような資料を見つけてきて根拠としているのではないかと思わざるを得ない。仮説の上に仮説を組み上げるような根拠の乏しい、こじつけめいた主張が彼には多くみられる。
日本のSNS上では、リベラル・左派のアカウントの中に「保守・右派よりリベラル・左派のほうが知能指数が高い」説を使って、ネトウヨと呼ばれる層をバカにするようなことをする人がいたが、このような人物の説をありがたがっていたことを本当に反省してほしい。
カナザワ氏がトンデモなのは今に始まったことではないし、「黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではない」との説は13年前の話なのだが、このような人にコメントを求めにいった記者はカナザワ氏に何を言ってもらいたかったのだろう。本能だからしかたがないといってもらって、読者に「仕方がないよね」と開き直って安心してほしかったのだろうか。本気で優れた考察だと思っているのだろうか。バカバカしいのは承知の上で炎上狙いで選んだのだろうか。
カナザワ氏みたいな人が存在することより、そういう人の発言をタブロイド誌ではないはずのメディアがちゃんとしたものであるかのように流したり、こういった内容の発言こそ求めているものだとしたら、そっちのほうが怖いのである。
〈金曜連載〉
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【ONLINEジャーニー】
『5/19 黒人女性は最も魅力なし―LSEの教授の説に猛抗議』
https://www.japanjournals.com/uk-today/779-519.html
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5/19 黒人女性は最も魅力なし―LSEの教授の説に猛抗議
英国の大学で研究する心理学者が、黒人女性は科学的にも他の人種と比べて魅力的ではないと言及したことで物議を呼んでいる。
「デイリー・テレグラフ」紙が報じたところによると、この学者はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics and Political=以下LSEと省略)で進化心理学を研究する、日本出身とされるカナザワ・サトシ教授=写真(「デイリー・テレグラフ」紙より)。
カナザワ教授のコメントは、ウェブサイト「Add Health」で行われた研究を分析したもの。
この研究では、さまざまな人に対して魅力的であるかどうかを1から5で評価するよう読者に質問している。
カナザワ教授は、学術誌「Psychology Today」のウェブサイト版のブログで、「調査を分析したところ、黒人女性の得点は平均3.5点、欧州、アジア、ネイティヴ・アメリカ出身の女性は3.7点だった。対照的に、黒人男性は他の人種よりも魅力的という結果になった」とコメント。
さらに、「黒人女性は白人、アジア系、ネイティヴ・アメリカンの女性と比べて、科学的にも魅力的でないことが示された」と持論を展開。これに対して、数多くの読者から彼の説は人種差別的であるという苦情が寄せられた。
カナザワ教授は「黒人は人類の進化の歴史から見て、他の人種よりも起源が古く、他の人種より遺伝子に突然変異体を多く持っている。また、黒人女性は男性ホルモンであるテストステロンを多く持っているので、平均的に他の人種よりも体格が良く、男性的な特徴が強めで、身体的にあまり魅力的でない可能性がある」と説明している。
これに対し、ある読者は「このコメントはきわめて侮辱的で、いたずらかと思ったほどだ」と話す。
また、別の読者は「科学という言葉を使って人種差別を正当化するのはよくあること」と反論。なお、ブログからはすでに削除されている。
同誌のカジャ・ペリナ編集長は「(カナザワ教授の)コメントは当誌から委託したものではなく、特定の人種についての問題を取り上げる編集上の意図はなかった」と弁明。
「LSE」の広報担当は「このブログに関して調査を開始した。この説は、カナザワ教授の独自のものであり、LSEの意見を代表するものではない」としている。
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