2021年03月30日


自民党公式サイトが改憲の論拠としてダーウィン進化論を持ち出し、炎上した(が引っ込めなかった)件を深堀りしていきます。




炎上した漫画は↓コレ。

https://www.jimin.jp/kenpou/manga/first

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『わたしはもやウィン 
ダーウィンの進化論ではこう言われておる 
「最も強い者が生き残るのではなく 
最も賢い者が生き残るのでもない 
唯一生き残ることができるのは変化できる者だけである」 
これからの日本を発展させるために憲法改正が必要だと考える』 




まぁ名言の類にはありがちなことですが… 
ダーウィンそんなこと言ってない。 

ソースは進化論系トンデモ批判で有名なNATROMさんのサイト↓。 


http://natrom.sakura.ne.jp/koizumi.html


小泉さんの時代からずっとこんなことやってんのかよ! 



この言葉はダーウィンの言葉ではないのに独り歩きし、よく誤って「引用」されてます。 

特にビジネス系の本やサイトに多い気が生き馬の目を抜くビジネス界で変化の必要性を謳うのに便利なんですかね 


コレはデアゴスティーニの分冊百科『週刊100人 歴史は彼らによってつくられた』の表紙を堂々と飾った例。 

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ちなみに「自然がどうであるか」と「社会がどうであるべきか」を混同しちゃうのは自然主義的誤謬です(より正確に言うなら「ヒュームの法則」に反しています)。

NATROMさんも上記リンク先でこの手の「ダーウィンからの引用」を小泉さんも行っていたことや、その発言にやや問題があることを指摘しています。 
引用↓ 

『小泉首相はおそらく「生き残るために頑張って変化に対応しましょう」と言いたかったのでしょうが、ダーウィンを引き合いに出してしまうと、変化に対応できない人は生き残れないのだと受け取られかねないので少々マズイのではないかとも思います。仮に自然界で「変化に対応できる生き物しか生き残れない」としても、「変化に対応できない人はどうなってもよい」というわけではないことを認識しておくべきですね』 

…まぁこの辺はやや微妙で、「変化するのが自然→自然であることは良いこと→だから我々は変化すべき」という論理なら、完全に自然主義的誤謬なのでアウトです。 

が、動物倫理で有名なピーター・シンガーは『現実的な左翼に進化する』で「政治的価値観に科学的知見を活かすのはええんやで」みたいなことを言ってます。 

要するに「科学に政治を持ち込んでデータをねじ曲げたりするのはダメだけど、科学的成果を価値判断の材料にしたり、自分の政治的正統性の補強材料にするのはアリ」ってことです。 
そりゃそうですわな。 
例えば原発に賛成するにせよ反対するにせよ、核物理学の知見抜きでは判断も正当性の主張もできひんやないですか。 

では今回の件は問題ないのかというと… 

そもそもね、詠み人知らずのこの文章がダーウィン進化論の知見と合致してるのかって話ですよ。 
NATROMさんも上記リンク先で「大事なのは変化じゃなくて繁殖やろ」的なことを言っておられますし。 

あとダーウィン進化論(とその正当後継者である総合説)によれば、自然選択の単位は個体(遺伝子)ですが、「変化」、つまり進化するのは個体ではなく種(あるいは繁殖集団)なのですね。 
個体は進化しません。 
さらに生命の本質は実は変化よりもおそろしいほどの保守性にあったりします。 
自然選択がやってることの大半はこれまでの形質の維持であり、そこからはみ出たものを刈り込むコトですよ? 
実際、深海など変化の少ない安定した環境では何億年も殆ど形質を変化させていない「生きた化石」と呼ばれる生物がいますし。 
何しろ遺伝子はヒトとチンパンジーで99%、ウニで70%、ハエで40%が共通… 
さらにヒトもマウスもショウジョウバエも目を作る際にPax-6という同じ遺伝子が重要な働きをしています。 

こういう特殊な文脈上の話をいきなりめちゃめちゃ一般化して「だから俺らも変化しようぜ!」とか言っちゃってホントに大丈夫…? 

ただでさえダーウィニズムには社会ダーウィニズムや優生思想に利用されてきた歴史があるのに… 
自民党さんはまたしてもナチスを見習い、「あの手口に習ってはどうか」と思っておられるんでしょーか? 


つーか、そんなに変化することが大事なら「やっぱ保守政党より革新政党だよな」ということになるのでは…? 


まぁもし生物の進化や絶滅のパターンから政治的価値観について学ぶことがあるとするなら… 

変化(突然変異)は通常は改善ではなく悪化につながります。 
特に跳躍的な(つまり大規模な)変化はそう。 
何しろ「これまでのやり方」は「何とか上手くいってた方法」なのだから堅実。 
だけど変化しないと長期的には競争に負けて絶滅しやすくなる、というジレンマ。 
そのため、変化は避けがたいのですが、通常は漸進的に(つまり少しずつゆっくりと)起きます。 
しかし小規模な変化の積み重ねは「建物を建て直しせずに修理増築を重ねていくことで何とかする」みたいなもので、時に不格好で非効率的なものになり、「一旦更地にして建て直した方が早いんじゃ…」という状態に行き詰まったり。 
そこでごくごく稀に起きる跳躍的な進化(多細胞化とか、体節化とか)がその後の可能性を切り拓くこともあります。 

…それって政治で言うと「保守のやり方も革新のやり方も必要」ってコトだよね… 
そして変化はゆっくりが望ましいけど、時には大鉈を振るうことも必要。 

つまりある問題を解決するのに「これまでのやり方」と「新しいやり方」のどちらが相応しいのか、また変化するとしたら「ゆっくり」なのと「急速」なのとどちらが良いのか… 
それらはケースバイケースで、「唯一生き残ることができるのは変化できる者だけ! だから憲法改正が必要!」とかいきなり一般化できるものではないと思うんですけどね~…。












(23:12)

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