4月5日に放送されたNHKの『ETV特集』「フェイクとリアル〜川口 クルド人 真相〜」が神回だった訳ですが…

何故か再放送が直前になって差し替えに。
NHK+での配信からも削られ、
その後NHKからは一旦コメントが出たものの、以降は沈黙。
再放送予定は立たないままです。

当ブログはこの番組について以下の2本の記事を作成しました。


石井孝明と河合ゆうすけ、ETV特集クルド人回の再放送延期を「自分のおかげ」と功名争い
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/27402145.html



『産経がジョーカー議員と同じトンデモ主張「NHKがクルド人番組で勝手にウチの記事使ってるぞ!」』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/27445056.html



…が、これらはいわば盤外戦の話。
番組自体には殆ど触れてきませんでした。

という訳で今回は番組の内容について。
つっても非常に多岐に渡る内容だったので、私の心に刺さった部分を備忘録的にメモ。
青字の部分は要約なしでそのまま引用してます。


◉X上でクルド人を含むポストが急増。
いまや2500万もあり、番組では複数の専門家とタイムラインに沿って解析

◉番組では多くのデマやフェイク画像を紹介。

•「日本人は川口市から出ていけ‼︎」
と書かれたプラカードを掲げるAI生成によるフェイク画像は138万閲覧

•「川口市の人口が月に1000人ずつ減ってる」というデマは1432万閲覧

•クルド人女児の万引きシーンとされる動画は2000万閲覧。
番組では女児の家族に直接取材を行っている

•クルド人が
「病院へ行け!」
と言ったのが聞き間違いにより
「『日本人死ね!』と言った」
とされ、バズった動画は4000万閲覧。
言ったのは日本クルド文化協会の事務局長、ワッカス・チョーラク。
「病院へ行け」と言ったことについては後に謝罪している

◉↑そのワッカス・チョーラクの身元引受人は一般社団法人日本クルド友好協会の代表、木下顕伸。
保守派の活動家で、国会の日本クルド友好議員連盟で事務局長を勤めている。
大アジア主義に基づき、民間交流から政治交流につながれば、と活動。
それが石油や天然ガスといった日本の国益につながる、と主張

◉番組は複数の投稿者に取材。

•クルド人関係のニュースの切り抜き動画を投稿していた、ちかという人物は、クルド人運転手と揉めたことで「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」となり、投稿を始めた。
しかしその後、差別に思えてきてクルド人に関する投稿はやめた

•川口自警団の代表、オオタシュンは
「外国人はやたら犯罪を起こしてやたら不起訴になってる」
と主張する。
しかし不起訴率は日本人とあまり変わらない、とNHKスタッフに指摘されると
『上がってくる情報が…とにかくよく聞く』
『僕は別にニュースとか新聞とかそういうソースは全然見ない人なんです』

と返答。
この人物は病院のベッドから酸素マスク姿で『クルド人は絶対に許さない』と投稿し、750万閲覧。
しかし全く無関係の入院だった。
インタビューでは
『真面目にやりすぎても良くないなっていうのがあるんですね。
多少インプレ(閲覧数稼ぎ)をやらなければって、そういう時はあります』

と答えている。
「インプレを稼ぐと何が得られるんですか」
というスタッフの質問に対しては
『なぜか絶賛されたりする。
そのへん、僕も納得してないんですけどね。
真面目にやって目立たない方と、インプレをやって…
ふざけてはいないけど、インプレ稼ぎを多少やっている方と、どっちが人々の良かったって言う声を得られるかというと、結局インプレの方が多くてですね』

と回答

•kakikoSHOP(番組ではアカウント名は消されていた)のXでのプロフィールは↓こんな。
『元自衛官 男性 日本の伝統文化を大切にする保守の政治家を支持します。保守のふりをして、人権や福祉の利権を貪るニセモノを見極めましょう。今の自民党は左翼・リベラルに支配されています。メディアは日本の敵です。テレビを信用してはいけません。事実はXでないと分かりません。だから、友達にはXを見るように勧めてください。』
この人物に番組ディレクターがDMで取材依頼したが、3日後にブロック。
半日後に取材依頼の文面を公開し、
『DMで返信ができないので、Xで返事を差し上げます。ご依頼の件はお断りします。理由は「私はNHKをまともな報道機関とは思っておりません。」従ってどのような編集をされるか分かりませんので、取材は拒否します。』
とポスト。
それに対して信者からの賞賛リプが並んだ。

◉↑コレも含め、取材に対するネット上の反応も記録。
取材班を撮影した画像も投稿されていた

◉河合ゆうすけ議員(番組では名前は伏せられていた)は街宣で↓こう主張。
『だからここで保守が立ち上がらなければならない、と。ねぇ?
歴代最多得票数を取りましたよ私。ねぇ?
なんで私がそんなに取れるんですか?
私が正しいことを言っているからなんじゃないですか?
私が間違ったこと言ったらこんなに支持されないでしょう。
ダントツのトップ当選でしたよ。
多くの人がそう思ってる訳でしょう?』


◉番組では何人かの識者が意見を述べた。

•橋本直子(国際基督教大大学教養学部准教授)は外国人特権の存在を完全否定

•藤代裕之(法政大学社会学部教授)の発言
『偽情報やご情報と言うものは世の中からなくなる事はないですね』
『アテンション・エコノミーと言われているインターネットを駆動するビジネスモデル、これが1つの大きな軸になっていると思います。
これは特にXが…イーロン・マスクがTwitterを買ってXってものになった時に、事実とか正しさみたいなものよりもアテンション・エコノミーの方を重視して、派手だったり面白かったりするものをどんどん拡散していきましょうっていう風に舵を切った訳ですね。
批判は集めても、それでアクセスが集まる訳ですから、お金を儲けようと思って、例えばインフルエンサーの活動している人にとっては、批判はむしろエネルギーっていうか、燃料に過ぎない訳ですね』

『アテンション・エコノミーの中では、事実っていうのは非常に広がりにくい訳ですね。
事実っていうのは基本的には複雑だったり、地味だったりするわけですよね。
でも例えば、断定的に話したり、人の憎悪を煽ったりする方が人に着目されやすいですよね。
目立ったものが勝つ。
目立ったものが儲かる。
そういう様なものだと理解すればいいと思います。』


•伊藤昌亮 成蹊大学文学部教授の発言

『この問題の背景に「普通の日本人」という意識が結構強いと思うんですね。
「普通の日本人は苦しんでるんだよ、生活が大変だし、みんな外国にどんどんどんどん置いていかれて、自信も失ってる」。
我々が持っている今の日本人全体の息苦しさというか、生きづらさというか、そういう日本人としてバーンという、「マジョリティーとしての自信がある」というよりも、「マジョリティーこそが苦しんでいるんだ」みたいな、様なところを感じてしまって。
かつ、やっかみ根性みたいな、やっかみの気持ちみたいなのがある中でこういうことが刺さっちゃったんじゃないですかね』

『なんかね、みんなジャーナリストになりたいんですよ。変な言い方なんですけども。
マスメディアがジャーナリストとしての権威を独占して、それで自分たちにとっての建前を報じていくということが気に入らないんですね。
その中で、「自分たちにだって今の時代はいくらでも調べられるんだ」と。
マスメディアは権力監視、って言うじゃないですか。
国家とか何かの強大な権力があって、それを自分たちは監視しているんだと。
それがジャーナリズムの存在理由になっているんですけれども…
「でもなんでお前らだけが監視するの?
監視する権利はどこにあるの?」
むしろマスメディアが権力になっちゃってて、権力を監視する権力になっちゃってるわけですね。
だから、それを俺たちが監視するんだってこと。
そういう意味で言うと、自分たちこそが真のジャーナリストであって。
で、「あなた達は偽の権力を監視している、偽のジャーナリストなんですよ」、みたいな。』

『この問題の背後にあるのは「信じるってことの意味は何か」ということだと思うんですね。
つまり「それが事実だからそれを信じる」というよりも、「それを信じることによって自分が救われるから信じるんだ」、っていう。
事実かどうかってことはあまり問題じゃない。
しかも「事実らしさ」というものがどこかにあれば、そこを掘り下げなくても済むんで、そうであれば「これは誰かが言っているし、こういう様な事例もあるから、まぁ信じても、もしかしたらいいかもしれない」。
…それの上で、「これを信じてしまえば、自分がそれで救われた気持ちになって、ちょっとは気分が良くなる」…そうしたら信じますよね』



識者の意見はクルド人をめぐる話だけでなく、在日外国人差別や陰謀論、ポピュリズム全般にあてはまる話で素晴らしかったです。

一方、河合ゆうすけの分かってなさは異常。
選挙や民主主義は単に「どうしていくか」を決めるシステムであって、別に「何が正しいか」を決めるシステムではありません。
人気のある意見は必ずしも「正しいから人気がある」とは限らず、単に「扇情的だから人気がある」のかもしれない訳です。
特にネットの爛熟以降それは顕著で、河合ゆうすけこそそのブームに上手く乗っかっただけの人物やろ。
あるいは分かった上で敢えてそうアピールしてるだけ、なのかもしれませんが。




【追記】

この記事にコメント下さった方があり、再放送が決定したとのこと。
情報ありがとうございまーす!
5月1日(木)午前0:00~午前1:00だそうです。
内容の改変がありそうですが、とりあえず事態の推移を見守っていく所存。