『なぜモテ』その11



竹内久美子の
『なぜモテるのか、さっぱりわからない男がやたらモテるわけ 動物行動学で語る男と女”』
に迫るシリーズ11回目。


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11回に渡ったこのシリーズもようやく最終回。
今回は生物学ネタ特集でーす。
まずは↓コレ。


(p.84)
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 もっとも、こういう研究ではデタラメも主張しやすいので、のちにウソと見破られたものも多数ある。信頼のための目安の1つとして、発表された学術雑誌の格の高さがあるだろう。格の高い雑誌なら、査読(発表前の審査。複数の専門家があり得ることかどうか検討する)がより厳しいし、発表後もより多くの研究者の目にさらされ、追試もなされるからだ。
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いや、コレ自体は正しいのですが…
え、ソースが大紀元とかの人がソレ言っちゃう!?
ちなみに大紀元は法輪功のプロパガンダ新聞で、進化論否定もしてます。

​あと『複数の専門家があり得ることかどうか検討する​』はちょっと不正確。
『あり得る』だけでなく、高い精度で『そうである』と言えないとダメです。
『あり得る』だけならどんなことでも大抵はあり得ます。
例えば宝くじが当たるのが『あり得る』のと『当たった』は全く別のコトですよね。


さらに竹内久美子は得意技である筈の動物行動学でもミスります。
ネタは「子殺し行動」

動物の世界では、子殺し行動は広く見られます。
ペア雄が死んだりハレムを失うと、残されたペア雌を狙って別の雄が侵入してきます。
しかしこのペア雌が育児中だと発情しないため、新顔の雄はしばしばその子供を殺すのです。
すると雌は発情して新顔の雄と繁殖可能になるのですね。

我々の倫理からは考えられない行動ですが、雄から見ると自分の遺伝子を受け継いでいない他人の子供を殺したところでノーダメージ
雌が自分の子を殺した雄に発情するというのも我々の感覚ではあり得ないことですが…
雌から見れば死んだ子の歳を数えても仕方なく、はよ次の子を産む方に切り替えた方が有利です。
そして目の前にいる雄は手っ取り早い相手な上、少なくともペア雄の様に命やハレムを失ってはおらず、雌の抵抗をかいくぐって子殺しに成功する程度には有能さを持ち合わせている訳です。
という訳で雌は発情し、自分の子を殺した当の雄を受け入れるのです。

こうして子殺し行動をする雄はしない雄に比べて有利となり、その性質が進化することになります。
いかにも竹内久美子が好きそうな話ですね(まぁ私も大好物ではありますが)。

そして竹内久美子は↓こう書きます。

(p.113)
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 結局、心優しいオスは、ハレムを乗っ取ったら即座に乳飲み子を殺すと言う非情な連中との遺伝子競争に敗れ、そのような心優しい遺伝的性質は残ってこなかったのである。そんな中、人間は哺乳類の中でも画期的なことに、女が授乳中であっても男を受け入れられる(発情している)という摩訶不思議な性質を獲得した。
 しかし排卵のほうは起きないので子はできないのだが、男は交尾さえできれば満足し、子を殺したりはしない。
 この点が素晴らしいのである。
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…え、子ができないなら、その「交尾さえできれば満足する」という性質はどうやって遺伝子頻度を上げて進化できたんですか?
「交尾さえできれば満足する雄」と「子殺しすることで雌を繁殖可能する雄」が競合すれば、普通に後者が勝つ筈ですが。

雌が子殺しを防止するために採れる戦略は、例えば「乱婚すること」です。
乱婚になれば子供の父親が誰か分からず、自分の子かもしれないのに殺しちゃう様な雄は自然選択により排除されていきます。
例えば子殺し行動で有名なハヌマンラングールでは乱婚する個体群も存在し、実際に子殺しが減ることが観察されています。

↓ライオンの例。


【ナショナルジオグラフィック】
『オスの「子殺し」を封じる母ライオンの奇策、研究』



類人猿では雌雄の体格差や睾丸サイズと繁殖様式に相関が見られ、雌雄の体格差が小さいほど、また体サイズの割に睾丸が大きいほど乱婚傾向にあります。
雄が雌を囲い込み防衛するハレム性の場合はライバル雄を圧倒する体力が必要なので雄は体サイズを大型化させるのですね。
一方、乱婚性では体サイズはあまり問題になりませんが、雌が複数雄と交尾するため、雌の体内で精子競争が起きます。
雄は自分の精子で受精させる確率を上げるため、睾丸を大型化させて精子の数にものをいわせようとします。

ヒトは雌雄でやや体格差があり、睾丸もやや大きめなので、我々が進化・適応してきた環境では「しばしば浮気あり」で「一夫一妻制、もしくはユルめの一夫多妻制」だったと言われています。
男性から見ると、誰の子か確信は持ちにくい感じ。
しかもヒト女性の特徴として「排卵隠蔽」があり、発情期がなくなって、いつでも交尾可能に。
よって「発情期に交尾した雄が父親」とかのヒントがなく、誰が父親か分からない状態に…。

コレは乱婚と同じく、父親を分からなくして子殺しを防ぐには効果的です。

そういう進化的な視点抜きで
「雄は雌が妊娠しなくても交尾できたら満足する」
って何やねん…
この人、そもそも「何でもデタラメ進化論で説明する」のが芸風なのに…それすら放棄してますやん。


生物学的な知識の欠如は他にもあります。

(p.115)
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 このようにオスとメスとで生殖することもできる生物が、メスだけで(あるいは、どちらの性であっても一方の性だけで)生殖する場合を「単為生殖」と言う。つくられるのはクローンだ
 このように単為生殖は有性生殖の一部であり、無性生殖とは違う。無性生殖は、もともと性のない単細胞生物などが分裂によって増える場合を言う。この場合ももちろんクローンだ。
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いえ、ちゃいますけど。
クローンでない場合も普通にあります。

Wikipedia『単為生殖』にはこうあります。

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単為生殖と染色体

単為生殖は、接合なしに新個体が作られるので、雌側(母体)の遺伝子のみを受け継ぐことになる。また、接合を前提とした生殖細胞であれば、当然ながら染色体は単相であり、接合によって複相になるはずである。つまり、卵がそのまま発生を行えば、他の個体は複相であるのに、単相の個体が生じることになる。普段から単為生殖を行っている生物では、そのため、卵など減数分裂で作られるべき生殖細胞を、減数分裂抜きで作っている場合や、減数分裂を起こした核が、ふたたび融合することで複相にもどる場合などがある。後者の場合、遺伝子の組み合わせの変更が行なわれているので、親と全く同じ個体にはならず(
クローンではない)、クローン個体と近親交配を行ったのと同じ結果になる。
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東京薬科大のサイトでは↓こう。


【東京薬科大学】
『生命科学科 キーワード解説 単為生殖』


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また、二倍体単為生殖は卵形成の過程によっても分類されています。一つは減数分裂を行った後に半数体の卵子が融合して二倍体卵子を形成するオートミクシスともう一つは減数分裂を行わないで体細胞分裂様の分裂で卵子を形成するアポミクシスです。アポミクシスでは親と仔の遺伝子型は同一となり、いわゆる、仔はクローンであると考えられます。
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​…つまりオートミクシスではクローンではないということですね。

ていうか、自分で『このように単為生殖は有性生殖の一部であり、無性生殖とは違う』て言うてたやん。
有性生殖の本質は「遺伝子をシャッフルすること」…
クローンしかできないならそれもう無性生殖と区別する意味ないやん。


こういう雑な科学理解はあちこちにあります。
例えば…

(p.125)
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 最近ではレイプについての動物行動学的研究を紹介し、持論を述べただけで、こんな人は保守とは呼べないとまで言われた。レイプとはひたすら女が犠牲者であり、非難されるべきは男だということらしい。しかし動物行動学を学ぶと、こと繁殖戦略に関しては、あらゆる点で女の方が男よりも勝っている。その理由は女の方が一回の繁殖にかける時間とエネルギーが男よりもはるかに大きいからなのだが、ともかくレイプだけで完全に男に負けているとは考えられないのである。
 こういう攻撃の仕方をする輩は初めに批判ありきで、いくら説得しても無駄だと思うので放置しているが、学問を妨害する勢力として厄介だ。
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…まさかとは思いますが、『学問』って竹内久美子の活動のことではないですよね?
竹内久美子はそもそも研究者ではなく自称研究家の文筆業ですし。
しかしそうなると、そういう勢力に妨害されてる『学問』というのが思い当たらないですねぇ…
具体的にどの分野のどの領域ですか?
そんなん見たことないんですが。


​女性は『一回の繁殖にかける時間とエネルギーが男よりもはるかに大きいから​』こそ、搾取されやすい存在です。
しかしそれ故に、選ぶ側の性として相手を見定め、厳しく選択することで主導権を握ろうとし、抵抗してもいます。
この利益の衝突が雌雄のユニークな繁殖戦略と多様性を生み出すのであり、決してどちらかが最初から『あらゆる点で』『勝っている』といった単純なものではありません。

例えばガガンボモドキ等の昆虫では「婚姻贈呈」といって、雄が雌に餌をプレゼントして交尾に漕ぎつけます。
餌を獲りにいくと自分が天敵に捕食されるリスクが上がるので、餌は貴重品。
雄を受け入れるかどうかは完全に雌次第なので、雌が有利に思えます。
実際、雌は餌を食べている間だけ交尾を許すことが多いので、大きな餌を贈った雄とは交尾時間が増えるのですが、そのため雄は
◉他の雄が用意したプレゼントを力づくで奪う
◉交尾中の他の雄からプレゼントを盗む
◉雌のフリをして他の雄からプレゼントを貰う
◉一旦あげたプレゼントを途中で奪い返し、別の雌への求愛に使う
◉小さな餌やゴミを糸でラッピングし、大きく見せかける
◉自分の羽を食べさせ、そこから出る体液を与える
…等、種によって違いますが、献身的なものから搾取的なものまで、あらゆる戦略が揃っています。
生物は同性間でも異性間でも、種内でも種間でも、出し抜いたり出し抜かれたりが普通
これでも『あらゆる点で女の方が男よりも勝っている』と言えますかね…?



そしてお得意の「ヒトの行動を何でも進化論で説明」も健在。
今回は「嫁いびり」です。


(p.133)
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 嫁と子供を追い出したあとどうするかと言えば、息子に新しい嫁を見つけ、また同じ手法によって子どもとセットで嫁を追い出す。
 このようなことを繰り返せば、最小限の出費によって孫を効率よく繁殖させることができるのではないだろうか。つまり、こういう戦略は貧しい階層で効力を発揮してきたのだろうと思う。実際、くだんの彼女の婚家は貧しかった(そう考えるからこそ、私は強烈な嫁いびり姑とか、そうでなくとも人を陰湿にいじめる人を見ると、先祖代々貧しかったのだろうなぁと思うことにしている)。
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何ですかこの「くそっ、こういう奴はどうせ先祖代々貧しかったに違いない」という地獄の酸っぱい葡萄は。陰キャのルサンチマン
まぁ私はそういう考え方はしないので、竹内久美子は先祖代々の何かのせいではなく、自力で心が貧しくなったんだろうなぁと思うことにしますね。



​そして最終章。

(p.242)
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 門田隆将さんの『日中友好侵略史』(産経新聞出版)を読み、いつものことながら頭から湯気がのぼるほど怒りを覚えた。
 友好とは名ばかり、日本側が友好と信じているだけであり、一九七二年の日中国交正常化は長年にわたる中共による工作がついに実を結んだ年だった。それ以降も日本は中共に工作されっぱなしだ。
 なんて日本人はバカなんだ、お人好しなんだといつものようにひとしきり怒ると、これまたいつものように、どうしたら日本が生き残ることができるのだろうかと頭を抱えることとなった。
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「門田隆将が産経から出した本を竹内久美子が絶賛」という三重苦。
そして…


(p.245)
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 日本人はなぜ、ここまでバカなのだろうか。
 それは究極のK戦略者であるからだろう。もともとモンゴロイドはK戦略者であり、攻撃性や活動性、衝動性が低く、規則に従う性質などが強い。さらに日本の場合には大陸と違い、島国として侵略を免れてきたと言う歴史がある。そのため人と人との付き合いが、子や孫の時代、そのまた次の時代と、永遠と言っていいくらいに長く続く。そのような条件下では、決して自分から裏切らない、人を信用し、ルールを守ることこそが最終的に得をする戦略なのである。
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はい、竹内久美子お得意の「何でも進化論で説明」また出たー!
日本人の気質に「K戦略」という遺伝的基盤を勝手に仮定しちゃってますが…
そんなん文化的な影響の方がデカいのでは。

実際、日本ホルホル動画では外国人が日本の安全さや他者を尊重する傾向を激誉めして
「自分たちの国は何故こうでないのか」
「日本が羨ましい」
「自分たちは悪いことをしようと思わないが、自分たちの国は残念なことに誰もが善人って訳ではないんだ」
とかよく言いますよね。
つまりそういう外国人は日本の様な環境では日本人と同様に振る舞う筈…
じゃあもうコレ遺伝じゃなくて文化の影響やろ。

それに日本でも、人との付き合いを特に重視して相手を直接批判しないことで知られる京都人は嫌われてるやん?

そしてネトウヨさんは何故か
「日本は安全で道徳的に優れている」
「平和を愛する日本人」
と誇ったその口で
「日本人は水と安全はタダだと思ってる」
「日本人は平和ボケ」
とか真逆のことを言い出しがち。
そして
「日本人は善良で人の悪口を言わない、どっかの国とは違う」
といった「一文で矛盾してみよう」大喜利を展開した挙句、
「いつまでもお人好しのままでは彼らをつけあがらせるだけだ」
などと、日本もその「どっかの国」みたいになるべきだという謎提案をして来がち〜。

竹内久美子もまさにコレで、
「日本人ってほんとバカ。
まぁ裏切らずに信用する遺伝子を持ってるから…」
と、批判する振りしてすかさず自慢。

こんなんヤンキーの
「俺なんて若い頃はホント無茶苦茶やってたっすよ、人間のクズでしたよ」
という過去の否定的肯定と一緒やん。

そして日本人の持つ性質が竹内久美子が言う様なK戦略によるものだとしたら、それは日本人が高潔だからとかではなく、単にたまたま島国に適応したために遺伝的にプログラムされただけ、ってコトになりかねないのでは。

ネトウヨさんはしばしば「日本人は遺伝子レベルで優秀」とか「韓国人の遺伝子は異常」とか、遺伝子を持ち出してホルホルや差別の具にしますが…
それって国ガチャ・遺伝子ガチャに当たっただけやん。



この様に何かと不適切な竹内久美子ですが、八木秀次の「同性愛に遺伝的基盤はない」という主張には反対の模様。
それはスバラシイですね!
しかし…

(p.166)
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 そして「同性愛や両性愛は先天的でも不変でもなく、心の問題であって、望めば『修復治療』などによって異性愛に変化する」のだという。
 私は、このような解釈を下された当事者が果たして納得できるのかと思う。
 八木先生やホワイトヘッドらの主張によれば、同性愛者たちが自らの性的指向が先天的で、もはや変えられないものと信じているために、残された道として「自分たちは特別な保護を必要とする先天的で不変の特徴を持ったマイノリティーである」と主張するようになる。
 そのため政府が同性愛者の活動の餌食となりやすい。そうならないためにも、同性愛は先天的ではないし、変えられるものだ、と言うことを、彼らに周知させるべきだと言うのである。
 その懸念についてはわからないでもない
 しかし、そのために事実を曲げるというのはいかがなものだろうか。
(中略)
 そして同性愛者は子を残しにくいが、母方の女(母、おば、祖母など)がよく子を産んでおり、その分を補っているという研究もある。
 マイノリティーが社会の分断を生むというのが昨今の問題であるが、それを避けるために事実を無視する事はあってはならない。
 それよりも同性愛者は一族のうちでどのようなポジションにあり、どのような役割があるのかと説明する方が、自身について納得でき、マイノリティーの権利の主張などと言う厄介な方向へ向かう事はないだろう。
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…分断を生んでるのはマイノリティーではなく、マイノリティーへの無理解ですよね?
政府が餌食になることへの懸念を理解したり、
分断をマイノリティーのせいにしたり、
権利の主張を『厄介』呼ばわりしたり。
理解者のふりしてめちゃエネミー


そんな竹内久美子がLGBTを擁護する理由もちょっと変
この話は以前にもしたのですが…



本書ではさらにちょっとした新展開があったのでもう一度おさらい。

竹内久美子は他著で
「男性同性愛者の血縁女性は子沢山だというデータがある。彼らは直接には子孫を残さないかもしれないが、間接的には血縁女性を介して遺伝子を残している。
よって生産性があるからセーフ」
的なことを書いてます。


『竹内久美子さん、「7歳少女をレイプして妊娠させるのは繁殖戦略」と生産性を認定』



ココ↑で私はこう↓書きました。
(青い部分は竹内久美子の著作からの引用)

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 考えてもみてください。異性愛者でも一生独身で子供を作らない人もいるではありませんか。彼らは血縁者を介して自分の遺伝子を残しているのです。同性愛者も特殊な存在ではまったくありません。ここまでお話ししてきたように、男性同性愛者自身は子孫を残さなくても、母方の女たちがしっかりと、間接的に彼らの遺伝子を次代に残していて、何ら問題は無いのです
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(P.117)

竹内久美子は「男性同性愛者も遺伝子を残しているので生産性はある」と言いたい様ですが…
いやコレ普通に解釈すれば
男性同性愛者はヘルパーになって血縁者に寄与する訳でもなく、ただ『極端に女性的でそれ故に多産な家系』に時おり出現する仇花に過ぎない。
彼らは家系の適応度を下げるが、多産女性がそれ以上に適応度を上げるため、かろうじて自然選択によって取り除かれないだけだ。
男性同性愛者はいわば時どき家系に現れ、足を引っ張る『コスト』であり、家系に寄生する存在だ
ということになり、
男性同性愛者に生産性はない
ってコトにならね?

そもそも生産性で見るからおかしなことになるんですよ。
竹内久美子は何とか「同性愛者にも生産性がある」ことにして彼らを救出したい様ですが…
もしいくら調べても同性愛者に生産性が見つからなかったら、LGBTを見捨てるつもりなんでしょうか?
そんないつ手のひら返ししてくるか分からない人に擁護されても、LGBT側も迷惑でしょ…

そうではなく、「誰もが生産性とは無関係に価値を持ち、それ故に不可侵の権利を持つ」のです。
生産性による正当化の必要など必要ありません。【※註】
生産性でものを見ると、障害者やホームレスや老人を不要なものとして殺してしまう、ナチスみたいな社会を作り、ソイレントグリーンを配給される生活になってしまいます。


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さて、このシリーズも今回で終了…
最後の最後なのでちょっと好き勝手やらしてもらっちゃおうかな〜(いつもはやってないかの様な言い草)。
という訳で、いつも以上にややこしいコトを書きますよ?
「あっそういうのは別に求めてないんで」という方は、下に貼ってある似顔絵のトコまでスクロールしてトバしちゃって下さい。




本書では統合失調症についてこんな説明が。

「容姿端麗で運動能力が高いが、統合失調症になりやすい家系」が存在する、という話の後…


(p.195)
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統合失調症は確かに個人につけられた一つの病名だが、遺伝子に起きたいくつもの変異を一族が共有していると見るべきではないか。あるものはほとんどすべての変異を、あるものはその半分と言うように振り分けられて持っている。そして才能を発揮し、一族の繁殖に大貢献するものもいる。
 動物行動学に接する機会のない人はどうしても個人に目が行きがちで、こうした病気も個人に原因を求めてしまう。しかし遺伝的変異は一族に影響及ぼし、物事は一族を単位にして進んでいくものなのである。
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はい、先ほどの同性愛者の話と同じロジックが使われていますね。

男性同性愛者は自分では子孫を残さなくても、その遺伝子が血縁の女性たちにより多くの子を産ませるので生産性がある

統合失調症はそれ自体は病気だが、その遺伝子が血縁者に凄い才能をもたらしたりする。動物行動学では家系全体で考える。

…「子孫を残さない」とか「統合失調症になる」とかの進化的に不利な話を「本人には損だけど、血縁者には良い効果があるから」と集団の利益によって説明しちゃってますね。


こういう謎の論理は、一部の研究者によって鎌状赤血球症でも主張されます。

鎌状赤血球症は赤血球が鎌状に変形して酸素運搬機能が低下する、命に関わる病気です。
アフリカ系の人にしばしば見られ、劣性遺伝によって伝わる遺伝病。

ちなみに「劣性遺伝」というのは「形質が劣っている」とかではなく、単に「発現しにくい」という意味です。
優勢遺伝ではその遺伝子をひとつ持ってるだけで発現しますが、劣性遺伝では両親の両方からその遺伝子を受け継いだ時にだけ発現します。

この「形質として劣っている」という誤った解釈は広く見られ、ゲーム『メタルギア・ソリッド』や青識亜論もやらかしてます


…つまり鎌状赤血球症遺伝子をひとつ持ってるだけでは問題ありませんが、ふたつ揃うと発病。

しかしそんな病気になっちゃう遺伝子なら、速やかに自然選択によって排除されそうなもの。
何故そうならないのでしょうか?

実は鎌赤遺伝子はひとつだけ持っている状態ではマラリア耐性を獲得することで持ち主を有利にするのです。
マラリアは熱帯に生きる人々にとっては非常に恐ろしい感染症。

たまたま両親のどちらからもこの遺伝子を受け継いでしまうと鎌赤になってしまうのですが、それは比較的稀なため、この遺伝子はなかなか排除されません。
それどころか、ひとつだけ持っている時のメリットが絶大なので、鎌赤遺伝子はびちびち広がっていきます。
こうしてアフリカ系の人たちの間で鎌赤遺伝子はなくなることなく、鎌赤を発症する人もいなくならないのです。

コレを竹内久美子風に表現すると、
「鎌赤遺伝子を共有する血縁者を通じて繁殖するから、鎌赤症患者にも生産性がある」
ということになります。

竹内久美子が披露した男性同性愛者や統合失調症の例と同じ論理ですよね。

しかしソレだとやはり
「鎌赤症自体はろくでもない病気で、遺伝子は得するか知らんけど、個人にとっては不幸でしかないやろ」
ということですよね?
別にその話から
「鎌赤症になって死んでも平気平気〜」
というコトにはならんやないですか。

しかし竹内久美子の
「血縁女性を通じて繁殖するので、男性同性愛者には生産性があるからセーフ」
的な主張はそういう無理やりなコト言ってるのと同じですよな。
人生という「自身にとっての価値」について語るべき問題に「遺伝子の利益」という全く違うものを混ぜちゃうからこういう妙なことになるのでは…。
そういうのは生物学的には意味があっても、個人の幸福には何の関係もありません


そして先ほどの竹内久美子の主張ですが…

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統合失調症は確かに個人につけられた一つの病名だが、遺伝子に起きたいくつもの変異を一族が共有していると見るべきではないか。あるものはほとんどすべての変異を、あるものはその半分と言うように振り分けられて持っている。そして才能を発揮し、一族の繁殖に大貢献するものもいる。
 動物行動学に接する機会のない人はどうしても個人に目が行きがちで、こうした病気も個人に原因を求めてしまう。しかし遺伝的変異は一族に影響及ぼし、物事は一族を単位にして進んでいくものなのである。
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あれ?
いつの間にか自然選択の単位が遺伝子ではなく『一族』にすり替わってもうてるやん。
…いや、ソレ群選択ですやんか?


群選択の誤りについてはこれまでしょっちゅう触れてきましたが、とりあえず↓ココを参照して下さい。


《さっくり読める版》
『自民党議員、LGBTに「種の保存に背く。生物学の根幹にあらがう」→生物学、そんなこと言ってなかった』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/16495106.html



《じっくり説明版》
『「国益を考えろ!」←は?』
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/18477246.html



なぜ群選択が問題になるのかというと、ソレは「自然選択の単位は何か」という大問題に直結するからです。
ダーウィンは「自然選択を通じて生き残ったり取り除かれたりする実体」とは個体だと考えました。
しかし時代が下ると、学者たちは何となく「生物は『種の存続』のために行動するもんやろ」と考えてしまい、種や群が自然選択の単位だと思い込んでしまいました。
その後、「自然選択の単位が何かをしっかり考えた方がいい。そしてソレは結局のところ、遺伝子やで」という遺伝子選択説をG.C.ウィリアムズが提唱。
ちなみにこの遺伝子選択説を「利己的な遺伝子」というキャッチフレーズで広めたのがご存じドーキンスです。

なお、遺伝子選択説が出てきても個体選択は生き残りました。
コレはアインシュタインの相対性理論が登場しても、今なお古典的なニュートン力学が使われているのに似ています。
相対性理論の方が包括的で正確ではあるのですが、日常レベルでは近似としてニュートン力学で充分ですよね。
ソレと同じで、厳密には自然選択の単位は個体ではなく遺伝子なのですが、近似として個体を選択の単位と見做してもあまり困りません。
しかし群選択はご臨終となってしまいました。



…んが!
群選択は「そらワガママばっかり集まった群よりは、自己犠牲するやつらの群の方が強いやろ」という直観に訴えかけるせいか、今でもコレに陥ってる人は多いです。
そしてそれだけでなく、「マルチレベル選択」という、新しいスタイルの群選択まで登場。
コレは古典的な欠点丸出しの群選択とは別モノではあるのですが、「群選択のようで群選択じゃない、少し群選択」な代物。
しかし「群同士の競争には強いが内部からの転覆には弱い」という弱点はそのまま受け継ぐ、弱くてニューゲーム。
しかもこのマルチレベル選択、典型的には血縁選択と同じ…
「じゃあこれ以上掘っても何も出てこないじゃんか」という当然すぎる批判を受けてみたり。
おまけにこの辺の話は進化生物学というより科学哲学の領域になってくるので、最前線の研究者はあんま興味持ってないという。
あと個人的には「マルチレベル」とか言い出す奴は大体ネズミ講だと思ってます。


そして、このマルチレベル選択説論者が錦の御旗として持ち出すのが鎌赤なのですね。
先ほどの竹内久美子の論理にしたがって鎌赤を解釈すると、

「鎌赤は個人だけ見るとただの遺伝病だが、一族全体で考えると鎌赤遺伝子のおかげで一族の繁殖に大貢献する者も出てくる。物事は一族を単位に進んでいくのだ」
となります。

お、こうして見るとイケてるっぽい。
鎌赤は患者個人には死をもたらす病気ですが、家系にはマラリア耐性をもたらす福音…
「つまり遺伝子(個体)レベルの利益よりも、群(一族)レベルの利益が優先されることもあるってコトやん!」
という訳ですね。

でもわざわざ群(一族)を単位に考えんでも、普通に
「鎌赤遺伝子はたまに持ち主を鎌赤にしちゃうけど、大抵の場合はマラリア耐性を付与することで平均的な生存率を上昇させ、自身のコピーを残していく」
と、遺伝子を単位に考えたらええやん。
こういう「遺伝子(個体)への平均的な影響」を割り出せば済むことでは…?

しかしマルチレベル選択説説の支持者は
「そりゃ割り出すことはできるよ。
でもそれって意味のない帳簿的な数字やん。
マラリア耐性で助かったり、鎌赤で死んだりの別々の事象を平均して数字だけ出して意味ある?」
と反論。

え、何で…?
マラリア耐性による生も、鎌赤による死も、鎌赤遺伝子がもたらす効果やで?
その遺伝子が平均的に個体に与えるマラリア耐性による生存率の上昇、鎌赤の発症率と生存率低下、全部をひっくるめてトータルで生存率にどの程度の影響を与えるのか…
それを実際に算出するのが困難だとしても、原理的に不可能って訳ちゃうやろ。
ソレのどこが実態のない、帳簿上の数字なんですか?


…という様な議論については

『生物科学』2009年5月号に載っている松本俊吉『遺伝子選択説を巡る概念的諸問題』と、それに対するshorebird師匠(勝手に私淑)による以下の評論を参照。


【shorebird 進化心理学中心の書評など】
『生物科学 特集:生物哲学から見た進化と系統 (60巻4号 2009年5月号)』



…では竹内久美子は実はマルチレベル選択論者で、「一族」という群こそが自然選択の単位だ、と主張しているのでしょうか?

しかしですね、竹内久美子がマルチレベル選択という単語を使うトコなんか見たコトない。
この人、昔から遺伝子選択論者ですよ?

それなのに何故『一族を単位に』しようとするのか?
どうもコレ、「竹内久美子がこの辺の問題をまるで理解してないから」としか思えないんですが。
遺伝子選択論者を自認しながら、「自然選択の単位が何か」を深く考えることなくテキトーなコト言い散らかした結果、しばしば群選択っぽい発言をしちゃうのでは?


ちなみに太田述正という防衛庁のキャリア出身の評論家がいるのですが、この人が何故かブログにマルチレベル選択の話を書いてて、めちゃめちゃちゃんと理解してるのに驚愕。
竹内久美子にはこの人の爪の垢でも煮出しまくってガブ飲みしてほしいです。


【防衛省OB太田述正】
『ドーキンス・ウィルソン論争』
https://blog.ohtan.net/archives/52150812.html



…はい、ややこしい話はここまで。
先ほどお約束した、↓目印の画像でーす。

IMG_5686
(※画像は
より引用)



そしていよいよ本書の締めとなる、この部分。
ちなみにココの小見出しは『女たちよ、国家のために立ち上がろう』です。

​竹内久美子は先ほどの「日本人ってほんとバカ。だって究極のK戦略者だもん」話に続けてこう主張し、本書を終えます。


(p.246)
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 このようなお人好し国家である日本は、幕末や第二次世界大戦までは対外的な危機を武士や、武士道精神を持った者たちによって乗り越えてきたように思う。いわゆるノブレス・オブリージュだ。
ノブレス・オブリージュは決して人に無理を強いるのではなく、個人の本能をくすぐる非常に優れたシステムだ。戦闘のときにはまっ先に戦わなければならないが、普段は優遇される。特に繁殖の際に得をする。繁殖における有利さと戦闘における不利。どちらを取るかだが、繁殖における有利さは、この上なく魅力的だ。これが戦闘における勇敢さを導き出す原動力になるのだろう。
今の日本の社会にはノブレス・オブリュージュはないに等しい。
しかし私は繁殖という、個々の人間が何より重要視する問題が突破口になるのではないかと考えるようになった。このままでいくと繁殖が奪われるかもしれないという恐れ。その恐れによって国家の危機が救われるとしたら……。
 その際、ポイントとなるのは女だ。繁殖の主導権は女にあるのだから。女が国家のために立ち上がった時、日本が救われるはじめの一歩となるはずだ。そうであることを期待している。
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ヤバい。何言ってるのか1ミリもわからん。

幕末って軍事力を背景に開国を迫られてあっさり従ってたよね?
第二次世界大戦では赤紙一枚で徴兵し、学徒まで出陣させたけど、普通に敗戦。
どこも乗り越えてないし、いっこもノブレス・オブリージュちゃうやろ。
ソレがどうして『対外的な危機を武士や、武士道精神を持った者たちによって乗り越えてきた』​ことになっちゃうんですか?

あと軍人って言うほど繁殖に有利か…?
市民から敬意を持たれたり、「赤紙きたから慌てて入籍(子作りタイムほぼなし)」とかはあったにせよ、いつ死んでもおかしくない身なのに特別に引く手あまたでMMK(古い)とか、子沢山だったとかいう話は寡聞にして存じませんが。
それに当時はお年頃になればほぼ誰でも結婚できた時代… 仮に軍人がモテモテだったとしても、男性の大半が同様に妻帯してる状況では、モテることによる繁殖上の有利点はあまり無いのでは。

そして『繁殖が奪われるかもしれないという恐れ​』って何やねん。
一体誰が、どうやって日本人の繁殖を奪おうとしてるというのやら。
この部分の直前は前述の様に、「日本は中国にやられっぱなしや!」という話(ソースは門田隆将の本)があって、そこから「日本人ってほんとバカ」につながるのですが…
中国(竹内久美子風に言うなら「C国」)が日本人の繁殖を奪うんでしょうか?
わざわざそんなコトせんでも日本人の出生率は右肩下がりですよね。


そして竹内久美子といえばどんなコトでも進化論で説明しちゃう芸風の人…
例えば先ほどは日本人の気質までK戦略という進化の結果だと勝手に認定してましたよね?

それが『国家のため』という、個人の利益を無視した「集団の利益」のための行動について語る…?
それって(またしても)群選択やん。

いや、もちろんヒトの行動は文化の影響を受けるので、ホントは「国家のための行動、イコール 群選択」にはならないですよ?
でも竹内久美子はそういうごく最近出現した行動にまで進化論を無理くり当て嵌めて何でもかんでも「説明」してきたじゃないですか。
それがココに来て急にコレ。

もうね、何がしたいのか自分で分かってなくない?
これまでも竹内久美子は科学よりイデオロギー優先の発言が目立ちましたが‥
もはや「自分発信のトンデモ科学」よりネトウヨさんイデオロギーを取ってるやん。

しかも一旦は「繁殖を奪われたら生物として終わるから、さすがに立ち上がるやろ」と一見、生物学っぽい話をしておきながら、結局はどこからともなく「女が国家のために立ち上がる」という、生物学とは何の関係もないウヨい話が湧いてきて話がすり替わってるし。

あと『繁殖という、個々の人間が何より重要視する問題』って何やねん。
我々は個々の幸福を追求して生きていきますが、それが繁殖である必要は全然なく、知識の追求とか社会貢献とかでも良い訳で。

この人、「利己的な遺伝子」という概念を(間違った形で)日本に広めた立役者の筈なんですが…
ヒトは必ずしも遺伝子の奴隷ではなく、文化(ミーム)の力によって遺伝子の専制に歯向かえるよって『利己的な遺伝子』の結びに書いてあるのを読んでないんですかね…?


そんなこんなで最初から最後まで、トンデモの煮こごりみたいな本でした。
一年がかりで批判してるうちに次の著書まで出ちゃったよ…!