2009年頃、親戚が妙な本を送りつけてきました。 
とっても感動的なので読んでほしい、ということだったのですが…
この人は急にカトリックへの信仰に目覚めたちょっとイタイ人なのですが、送られてきた本は… 


『約束―般若心経は「愛の詩」』 



FullSizeRender



なぜに仏教…。 
帯には

『心の目と心の耳で読んでみると
……あっ、そうなのか!
DNAとデジタルから「空」がわかった!
「空」とは、いつかのいい日のための「約束」!』

との惹句が。

…うわぁ……。 
いろいろ絶句。 

著者は山元加津子、通称「かっこちゃん」という養護学校教員(当時)。 
結構な数の著作があり、講演や映画製作も行っている一部では有名な人っぽい。

パラパラめくると風景写真と寝言ポエムをゆったり配した、スカスカな作り。 
ゆる~いスピリチュアル本によくあるアレですね。
脳に負担がかからない、ユーザーフレンドリーな仕様。


で、斜め読みしたところ…もの凄い本でしたー! 

ちなみに「斜め読み」つってもざっくり袈裟懸けに視線を走らせただけで内容は把握できるレベルなので、結果的にはちゃんと読んでます。


この人はつねづね「すべてのことは、いつかのいい日のためにある」というのをキーワードにしていて、この風邪を引きそうな生ぬる~い考えに首まで浸かっている模様。【註1】 

そこまでは別に良いです。 
そういう人は佃煮にするほどいますし。 
彼女が凄まじいのはここから。 

かっこちゃんは般若心経のことはほとんど知らない、と自分で書いてます。
般若心経といえば「色即是空」くらいしか知らないのだとか。
ちなみに「色」はこの世にある全ての認識できるもの、という意味なので、色即是空とは「この世界は全て空なのだ」という意味。

で、かっこちゃんは↓こんな感じのことを考えます。
 

デジタル機器のメモリースティックってすごくちっちゃいし、DNAなんか目に見えない。 
そこに詰まっている膨大な量の情報それ自体には重さがないんだなぁ…。 
おお、これぞ色即是空。 



…「デジタルもDNAも、般若心経でわかる」というのはただそれだけの意味だった模様。
この後、デジタルだのDNAだのは一切出てきませんええー…驚愕。

これで色即是空とかデジタルとかDNAについて何事かを「理解した」などと言えるんですかね…?【註2】 
まぁこれを一人で思いついたこと自体は「良かったね」と誉めてあげたいです。 
でもちょっと気の効いた人なら誰でも考え付くレベルの話だし、わざわざ出版してまで他者に吹聴するというのは尋常ではないよーな。
そうするだけの価値があると何故思っちゃったのか。

ちなみに私がかっこちゃんの主張を要約しすぎたり、ごく一部を取り出した結果おかしなことになっているのではないかと思われるかもしれませんが、彼女の言っていることは本当にこのレベルなのです。


かっこちゃんの暴走はまだ続きます。
彼女は 

「般若心経はとってもありがたいお経なのだから、私が一番大事だと思う『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』というメッセージもどこかに出てくるに違いない」 

と考えた模様。
そして般若心経を読んでみたところ、それらしき部分をあちこちに発見。 

ちょっと待ってー! 
それって要するに、般若心経から何かを学ぶのではなく、「自分の主張にあてはまる部分を探してるだけ」ってこと…?

しかもかっこちゃんが「般若心経と合致する」と主張する部分が、私にはあまりそうは見えなかったり

で、かっこちゃんは般若心経全文を引用するのですが…
彼女が「うわぁ、私の考えと同じだー」と勝手に認定した部分だけを濃く、それ以外の部分を薄く印刷。
で、大半を占める薄い部分は最後まで完全スルーで「なかった」ことに。
うわぁ、こんな斬新な般若心経の本、見たことないよ! 

自分の主張と関係ない部分には一切興味なし…! 
かっこちゃんは割り切りっぷりが凄いのです。 


さらにかっこちゃんは 

「般若心経には意味が深すぎて偉いお坊さんにも理解できない箇所【註3】があるんだって。それこそが一番大事なことのはず…
ということは、そこにはきっと…
『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』
って書いてあるに違いない!」(意訳) 

といきなり断定(根拠ゼロ)。 

もう何ていうか、「言った者勝ち」とはこのことだなー、と痛感。 
どうせ誰にも解らないんだから、何を言っても証明の必要はない、というわけですね。【註4】 

私はお釈迦さんを崇めたりはしませんが、それでも「自分の主義主張が仏様の最重要メッセージと一致する」などという妄想は尊大にも程があるだろ、と思うです。 
相当自分に自信がないと出来ない芸当よな。
自分は釈尊と同レベルだと思ってるのかかっこちゃん…シンクロ率400%。

『すべてのことは、いつかのいい日のためにある』を唯一にして至高の言葉と思い込む…
その安易で軽薄な態度には驚かされっぱなし。
少なくともゴータマ・シッダールタさんはもっともっと考え抜き、誠実に悩んだよね。

…いや、ブッダも「悟ったどー!」と自ら吹聴する厚顔無恥っぷりを発揮していたんだっけ。 
そういう意味ではかっこちゃんこそが大日如来の衣鉢を継ぐに値する人物なのかも。

この本に内容がないのも「色即是空」の実践だったりして。



そんなかっこちゃんですが、2年前にたまたま街で見かけたポスターで久しぶりに名前を拝見。


FullSizeRender


…村上和雄と接近してる〜!?

この村上和雄という人はトンデモ界隈の有名人でですね。
当ブログでも以前にちょろりと取り上げたことがあります。


『チコちゃんに叱られろ:前編』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835660.html



↑ココで私は↓こう書いてます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ちなみに村上和雄というトンデモさんがいるのですが、この人も同様の発言をしてました。 
たしか『ナイトサイエンス教室〈1〉生命の意味』という著作だったと思うのですが、「僕は利他的な遺伝子というのもあると思う。それについてドーキンスとやりあってもいい」みたいなコト言って「この人、分かってNEEEEE!」感を醸し出してましたな。 

なお、この人は著者紹介で「ノーベル賞に一番近いとされる科学者」と書かれてたりするのですが…
それってソースは何ですか? 

村上和雄は遺伝子にオンオフのスイッチがあるという事実から『君のやる気スイッチをオンにする遺伝子の話』とか『スイッチ・オンの生き方』などという、タイトルの時点で乱暴かつ安易な本を書いてみたりもしています。 

が、村上和雄を語る上で最も重要なキーワードは「サムシンググレート」 でしょう。 
これは「生命は進化論では説明できない。なんかもっとこう、偉大な何か(サムシンググレート)があると思うんだよね~」的な、超絶ぼんやりした考え方です。 
それって神やん。 

そして「神とは言わないけど、偉大な何かが…」的な言い逃れを繰り出すのって、どっかで見たことあるよね? 
これってアメリカで
「いやいや、神とは言ってないですよ?
神とは言ってないけど、『知性あるデザイナー』が生命を作ったという科学的な仮説も成り立つので、生徒には公平に進化論と知性あるデザイナー説の両方を教えましょう!」
とか言って科学教育に宗教を持ち込もうとしてる『ID理論』と同じやんけ!

しかも村上和雄は天理教の信者で、著書でサムシング・グレートを「あれは親神様のことです」と認めちゃってるんだよな~… 

まぁこの人は自著のタイトルが 『どうせ生きるなら「バカ」がいい』とか『アホは神の望み』とかなので、親神様の望み通りに生きたら良いと思います。 
でもそれを科学や教育の世界に持ち込むのは勘弁な!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


そんな村上和雄ですが、何故かサムシング・グレート云々の宗教ポエムが中学社会の検定済み教科書に堂々と載ってたり。


【ブルーバックス】
『子どもたちの教育に「ニセ科学」が忍び込んでいる事実をご存知か』
https://gendai.media/articles/-/57203?page=1&imp=0



教科書の発行元は育鵬社。
フジサンケイグループの扶桑社の子会社で、「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂した「教科書改善の会」の版元として作られたネトウヨ出版社ですね。

Wikipedia「育鵬社」の項にはこの教科書について↓こうあります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
モンタナ州立大学文化人類学フェミニズム学者の山口智美は、育鵬社版の中学公民教科書『中学社会新しいみんなの公民』は、東日本大震災の被災地で黙祷する天皇皇后の写真を掲載し「日本の歴史には、天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して、国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました」と記述したり、「自分を犠牲に住民守った公務員」について掲載するなど国家への自己犠牲やナショナリズムを煽る内容で、また、改憲を推進する内容や、領土問題については日本の立場のみが詳細に示されていると批判した[11]。山口は、この教科書は、安倍晋三内閣総理大臣の写真を多用し、「安倍晋三ファンブック」であると述べている[11]。他にも、反進化論(インテリジェント・デザイン)の立場に近いサムシング・グレート [注 1]や江戸しぐさ[注 2]を紹介していると指摘されている[11]。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


…江戸しぐさ!
なんでこういうことになってるかというと、高橋史朗という「つくる会」副会長やら日本会議役員やらを歴任してきたオッサンが、「親学」なるトンデモ物件を立ち上げて、疑似科学的主張を行ってるからです。
その「親学」の根拠として江戸しぐさやサムシング・グレートやトンデモ脳科学を持ち出してるのですね。



ちなみに高橋史郎や日本会議事務総長の椛島有三らは新宗教「生長の家」出身です。
生長の家はかつて政治運動をやっていた時期があり、現在では撤退しているのですが、その残滓が彼らと言えるでしょう。
右翼について調べていくとこれら「生長の家」人脈に何度も行き当たります。


ちなみに「親学 サムシンググレート」でぐぐると、最初にヒットするのが↓コレ。


【第三文明】
『「江戸しぐさ」と『親学』ーーオカルト化する日本の教育』
https://www.d3b.jp/media/8422


「江戸しぐさ」批判の第一人者、原田実が親学をばっさり批判。


掲載がなぜか『第三文明』という創価学会系雑誌という謎。

カルト宗教同士、生長の家系とは仲が悪いんですかね?
生長の家系である日本会議は自民の支持母体。
創価学会を支持母体とする公明党は自民の連立相手。
どっちも自民党を支える団体なのに。呉越同舟。
あと「生長の家系」と書くとラーメン感が出ること判明。

ついでに言えば原田実も、今でこそと学会・ASIOS所属のしごできですが…

元はムーのライターだったり、トンデモ学者の助手だったり、元「作る会」会員だったりと闇が深い。
それなのにちゃんと親学批判できてえらい!



原田実については↓ココを参照。




『原田実の微妙なポジション』
https://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835457.html



そしてかっこちゃんと村上和雄には共著もある模様。


IMG_5172


IMG_5171

内容は、

『かっこちゃんがファンタジーで伝える「サムシング・グレート」の世界。』

なのだそう。
わざわざファンタジーで伝えなくても、サムシング・グレート、つまりは神サマの話というだけで充分にファンタジー

おまけに帯に
『新型コロナウィルスの流行は「サムシング・グレート」からの大切なメッセージ』
って大書してあるやん。

あーそうですか。
志村けんはサムシング・グレートからのメッセージを伝えるために死を与えられたんですか。
そりゃおめでたいですね(かっこちゃんの頭が)。

災厄の度に誰かがこの手のコト言って炎上してるのに。
東日本大震災の時に「天罰」言うてた石原慎太郎とか。
なお、石原慎太郎は後にこの件を振り返ってますが無反省。


【日経ビジネス】
『追悼 石原慎太郎氏、震災から7年後に明かした「天罰発言」の真意』

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/020100334/



さらにかっこちゃん、Instagramで↓こんな発言も。



FullSizeRender
FullSizeRender

うわぁ、村上和雄から衣鉢を託されてるー!


カトリックなのに般若心経の本(でもないけど)を送り付けてくる親戚。
般若心経の本書いてたのに天理教の村上和雄に接近するかっこちゃん。
そして村上和雄を利用する親学・日本会議は生長の家系。
なんかいろいろ超党派。

そういやうちの職場にもカトリックなのに
でも一番大事なのはミキプルーン』と公言してるおばちゃんいたなぁ…。マルチ商法。
健康食品より下に置かれるとはイエスさんも草葉の陰でブチ切れ案件。


般若心経については↓この本が読みやすくお薦め。

IMG_4377

妹君に貸したらめちゃ気に入られ、枕頭の一冊に。
そのままプレゼントしときました。



…と思ってたら、笑い飯哲夫がネトウヨ化。


【posfie】
『笑い飯・哲夫「国民のみなさん、日本はもう二度と謝らないことを覚えておいてください」』
https://togetter.com/li/918658


【5ちゃんねる ニュー速(嫌儲)】
【悲報】笑い飯・哲夫「死んだ安倍さんを批判する人は日本人とは思えない。外国人かな?」
https://itest.5ch.net/greta/test/read.cgi/poverty/1664690139/


【5ちゃんねる ニュー速(嫌儲)】
『笑い飯哲夫「宗教2世の辛さだと?甘えるな!宗教2世でもしっかり生きてる人山ほどいる」』https://itest.5ch.net/greta/test/read.cgi/poverty/1660218103/153


 【笑い飯 哲夫のあちこち恢々】『アメリカ人もびっくり憲法「ヨミニクイヨ」』
https://www.sankei.com/article/20160724-FOUATYAG6JPJNCBTIEPCJLQN24/2/


…仏教を学べばネトウヨさんにはならない、というものでもないみたいですね。
論理と平等の人だったお釈迦さんが知ったらどう思うのやら。









【おまけ】 

『宇宙(そら)の約束』
(「般若心経」山元加津子心訳) 

http://itijikurin.web.fc2.com/kyoku/hannya.html 

これがかっこちゃん流の俺般若心経…「かっこちゃん心経」だ! 
一読すれば解る様に、般若心経の原型を全くとどめてません。

「心訳」というのは「超訳」もびっくりの勝手な解釈をしてみたよ、という意味なんですかね…?




【おことわり】 

今回のエントリを書くにあたってかっこちゃんの本を参照しようとしましたが、すでにおかんの手によって廃棄されていたため、できませんでしたー。
記憶のみに頼って書いたので、不正確な部分があればお詫びします。
でもホントに大体こなかじ。




【註1:生ぬる〜い考え】 

そりゃ生きていれば良いこともあるでしょ。
目の前に自殺志願者がいれば私だってそれくらいは言います、
でも、「いいこと」があるのはあくまで結果に過ぎないですよね。

あらかじめ良いことが用意されていて、現在がその「ために」ある、などというのは欺瞞もいいところでは…

↑これは私の深読みで、かっこちゃんはそこまでの主張はしておらず、単に「きっと良い日もあるよ、だから大丈夫」程度のことしか言っていないという可能性もあります。
でももしそうだとしたら、ますますぬるくなったこの言葉を特別視する理由はなおさらないんじゃ…。



【註2:色即是空とかデジタルとかDNAとか】 

情報そのものには質量がない、なんて当たり前と言えばあまりにも当たり前。 
「色即是空」はもっと奥が深い言葉です。

我々が認識する世界は全て感覚器官から入ってきて脳内で処理された「情報」に過ぎません。
つまり我々にとっての世界は、全て実体のないもの。

人間が認識する世界、つまりインナーワールドだけではなくて、実際の世界・アウターワールドだって「色即是空」に近いものが。

原子論(現代科学で言うところの素粒子論)なんかモロにそう。 
全ての物資は分割不可能な基本的粒子の組み合わせだけで出来ていて、しかも粒子はお互いに遠く離れ、その間の広大な空間には何もなくてスカスカ。

素粒子(基本粒子)は大きさを持たない点であるという説もあるし、超弦理論では全ての素粒子は有限な大きさを持つ超弦の振動状態であるとされ、ますます「世界はからっぽですぞ~」という感じ。 

ただし、この手の後付けのアナロジーにあまり翻弄されるべきではないでしょう。
仏教はこれらの科学的事実を踏まえて教義を作ったわけではないし。
「でたらめに言ったことがたまたま当たっていた」とか、「後世の人間が都合よく解釈してくれた」という方が近い気が。

ちなみに↓この仏教学者の言葉が素晴らしいです。

IMG_2006



【註3:偉いお坊さんにも理解できない箇所】 

2箇所ある、サンスクリット語をそのまま漢字で音写した部分のことと思われ。
簡単には訳せないので音写した模様。

「ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー」のあたりとか。



【註4:証明の必要はない】 

科学のルールではそういう反証不能(否定する方法がない)な主張は議論の俎上には乗せられないので棄却するしかありません。