2023年07月

2023年07月29日


『月刊WiLL』2023年7月号別冊が『もう陰謀論とは言わせない』という香ばしすぎるタイトルで一部の話題になってます。


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おおむねWiLLの過去記事の中から不必要にトガったものを再録して作った模様。


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中でもアレなのはやはり「中国が恐竜を復活、兵器化を狙っている」という浜田和幸の記事でしょう。
新進気鋭の陰謀論批判者・雨宮純もこの別冊について
『「中国が恐竜を復活、兵器化を狙っている」が気になります』
とツイート。

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コレに関しては以前に当ブログで取り上げてますので、↓以下のエントリをご参照くださ~い。

『WiLL『中国が恐竜を復活、兵器化を狙っている』→「タイトルだけ大袈裟なやつやろ?」→結果…』
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/16739980.html


こんなトンデモ本を全て読むのもナニなので、興味を惹かれた記事を何本か読んでいき、順次ご紹介していきたいと思います。
今回は↓コレ。


『コロナ・ワクチン・昆虫食・ LGBT問題…「陰謀」が明るみに出る時代になった』


馬淵睦夫と渡辺惣樹の対談で、この別冊の冒頭記事であり、コレのみ再録ではなく新規記事の様です。


馬渕睦夫は元駐ウクライナ大使。
新著のタイトルは『ディープステート』だそうです。うわぁ…
出版は『WiLL』と同じくワック
他の著書もワックとかトンデモ本出版の雄・徳間書店とかですね。


もう一方の渡辺惣樹は日米近現代史研究家…
「研究者」ではなく「研究家」というところがポイントですね。
『日米衝突の萌芽1898-1918』(草思社)で第22回山本七平賞奨励賞受賞だそうです。

ちなみに山本七平といえば日本人なのにユダヤ人と称し、イザヤ・ベンダサン名義でインチキ本をヒットさせたことで有名な人ですね。


草思社は進化論系の良い本も出すのですが…
著者に高額な費用負担をさせて自費出版本とか出す文芸社の子会社だったり。
そして文芸社は実質、親会社が「たま出版」…
たま出版は年末のオカルトバトルで有名な韮沢さんが社長を務める、オカルト本ばかり出してるトコです。

あとこの人も著書の出版元がワックだらけ。


そんなお2人はこう主張します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━馬渕 コロナ人工説、ワクチン有害説、昆虫食、LGBT問題……などを「陰謀論」として片付けることは自ら思考放棄していることを意味します。しかし陰謀論は議論を封じ込めるレッテル張りですが、陰謀存在します。陰謀を企むものは、その陰謀を隠そうとする。
渡辺 そうです。だからこそ「陰謀論」の一言で思考停止に追い込もうとする政治家や評論家、学者などを信用してはなりません。
馬渕 「陰謀論」と裏腹の関係にあるのが「リビジョニスト(歴史修正主義者)」と言う誹謗中傷語です。事実に基づいた正しい歴史を探求することを封じるために「リビジョニスト」と言うレッテル張りをするわけです。
渡辺 ですから、私は自ら「リビジョニストの歴史家です」と名乗るようにしました(笑)。その方が文句を言われませんからね。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

いやいやいや。
「陰謀論」というのはレッテル張りではありません。
陰謀が存在するというなら信用するに値するだけの根拠を持ってくれば良いだけなのに、それすら出来ない粗雑な主張を合理性をもって「陰謀論」と呼んでるだけですよ?
自分たちの説得力不足を人のせいにするのはやめていただきたいものです。

どちらかと言えば

「コロナ人工説、ワクチン有害説、昆虫食、LGBT問題……などの「陰謀論」に飛びついて理解した気になることは自ら思考放棄していることを意味します。しかし陰謀は根拠のない妄想ですが、陰謀論存在します。陰謀論を唱えるものは、その妄想を事実扱いしようとする。
だからこそ「陰謀」の一言で思考停止に追い込もうとする政治家や評論家、学者などを信用してはなりません。」

といった方が正確な気がしますが。
ちなみにこの対談で肯定されている主張は、

◉新型コロナは人工ウイルス
◉ワクチンには危険物質が混入
◉昆虫食は陰謀
◉LGBT理解増進は人口削減計画の一環
◉安倍元首相暗殺陰謀論
◉米大統領選挙不正陰謀論


…と割と満艦飾。
これらも「もう陰謀論とは言わさない」つもりでしょうか。
あとLGBTを認めると「俺もそうなったろ!」という人が増えて出生率が下がったりするんですかね?

ある陰謀論を信じる人はしばしば別の陰謀論も信じます。
陰謀論者は「すでに判断をミスった人」なので、別の罠にもハマりやすい…当たり前のことですよね。
おまけに陰謀論を説明するために別の陰謀論を持ち出せば、検証に耐える証拠もいらず楽ちんです。
最近ではいくつもの陰謀論同士が複雑に絡み合った『超陰謀論』をまるっと信じてる人も多いですしね。
これらはお互いを補強してる…様に見えるけど、よく考えると根無し草が絡み合ってるみたいなもんで根拠がどこにもない、という。

どんなトンデモな主張でも、ごく低い確率で当たってる可能性は常にあります。
でもこんなん、ひとつだけでも蓋然性がめっちゃ低いのに、これらがことごとく事実である蓋然性はどんどん目減りしますやん…
例えば確率0.1%の事象なら「万に一つ」よりはずっとマシだし、ワンチャンありえなくはない気がしますが、そんなんが3つ一度に起きる確率は10億分の1、6つ一緒なら100京分の1…もうこれほぼゼロやろ。
なので蓋然性の低い主張は、重ねれば重ねるほどどんどん不利になるですよ…?


そしてこの対談はさんざん民主主義をディスったあと、不思議な結論で終わります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
馬淵 世界の変化の潮流の中にあって、リーダー的役割を担うべき国が日本に他なりません。日本は高天原の時代から、話し合い主義で進めてきました。皆で寄り集い、議論を重ねて決める。決めたものは天照大神が裁可される。だから、憲法や法律は必要ありません。「自由」「平等」という概念などなくても、皆が平等の立場で自由に議論を交わし、結論を出していたのが、日本のやり方です。ところが、GHQが敷いた「戦後民主主義」と言う欺瞞に洗脳され、日本の伝統的な考えが希釈化されてしまった。日本の伝統的価値を破壊しようと企む陰謀を見抜き、今一度、日本精神を取り戻さなければなりません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

へ〜…
戦国時代の合戦とかも話し合いで決めてたんですか?
フリースタイルバトル。

そして皆が平等の立場で自由に議論を交わしてるのに、「自由」「平等」という概念は不要。
議論を重ねて決めてるのに、民主主義は否定。
いろいろ不可解ですね。




以上、この記事のざっくりまとめでした。
実際にはもうちょっと細かいアレコレについても書かれているのですが、そちらの方は上記で紹介した以上に怪しい話のオンパレード。
例として昆虫食の話だけ取り上げると、↓こんな具合です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コオロギ太郎なんて呼び名も

馬渕 昆虫食もふって湧いたように推奨されています。何か背景があると疑ってかかる必要があります。
渡辺 河野太郎消費者担当省大臣はコオロギ食を食べるなどパフォーマンスしている──一部ではコオロギ太郎と揶揄されています。河野氏は「陰謀論者がコオロギの話を拡散している。でっち上げの投稿が多数見られ、それを見た一部の消費者から不安の声が上がっているのでは」と反論しており、要するに健康には無害だと言うわけですが、それでもコオロギを食べるなんておかしい。
馬渕 昆虫食といえば、日本ではイナゴは、昔から食用として嗜まれてきましたね。なぜ、コオロギなのか。日本の事情を無視して推奨する以上、何か邪悪な意図が隠されているはず。
渡辺 漢方では、コオロギは妊婦に悪影響を及ぼすとみられています。実際に、甲殻類の一種ですから、じんま疹や呼吸困難など甲殻類アレルギーを起こす人もいます。
馬渕 便所コオロギという言葉もあるように、人間の汚物を食べている場合もあります。
渡辺 そんなコオロギを食用にするには、有害物質除去のために大量の化学物質を使用しなければなりません。どんな化学物質を使用しているのか、明示してもらいたい。
馬渕 そもそも昆虫食を食べなければいけないほど、食糧難なのでしょうか。突然、食糧難と言われること自体、不可解です。

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…イナゴがOKでコオロギがダメな理由って何ですか?
どっちもバッタ目(直翅目)やん。

そして「妊婦に悪影響」のソースが近代医学でもなく「漢方」て。

あと昆虫は甲殻類ちゃうやろ…
同じ節足動物門ではありますが、甲殻亜門(いわゆる甲殻類)ではなく、六脚亜門昆虫綱です。
めちゃめちゃ上位の分類階級レベルで別モノ。

アレルギー云々を持ち出すならエビやカニも食べられません。

「便所コオロギ」はコオロギではなくカマドウマのことです。
大体、食用コオロギは養殖なので餌や清潔はコントロールできるやろ。

たったコレだけの文章にツッコみどころがありすぎる…。
まぁこういう調子なので、細部の話はこれ以上は取り上げません。



で、これらのどこにこれまでとは一線を画す、「もう陰謀論とは言わせない」だけの根拠があったんですかね?



(01:42)

2023年07月20日


竹内久美子といえばメディア登場時から立派なトンデモさんで、その後ネトウヨさん化して保守系論壇から引っ張りだこになり、さらに武漢の研究所爆発デマを信じてみたり、トランプを「親分」と呼んだりしてどこに出しても恥ずかしいJアノンさんになったお方。
それが最近、さらに暇アノンさん化していたことが判明しましたー。



ソースはネトウヨさん雑誌『月刊WiLL』2023年8月号の
『ジャニーズ、猿之助 性のドロドロ診断』
という、ゴシップ誌みたいなタイトルの記事。

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竹内久美子と精神科医・和田秀樹による対談です。
和田秀樹はWiLLの発行元であるワックから『私の保守宣言』という本を出してる模様。



記事前半はジャニー喜多川をめぐる事件の数々について。
レイプによるPTSD等の話をし、批判しています。

さらにメディアの忖度についても。
竹内久美子は↓こう言います。

『というのも、BBCも大手メディアですから、メディアを牛耳る勢力の下にあり、今、ジャニーズにスポットライトを当てたのはただの偶然ではなく、何らかの意図がある。もしかするとジャニーズを利用して日本を落としめたいのかもしれない。』

…メディア不信と、偶然を信じず全てに巨大勢力の意図を見出すという陰謀論しぐさ

WiLLだってフジサンケイグループという大手メディアに属しているのですから、今、性のドロドロにスポットライトを当てたのはただの偶然ではなく、何らかの意図があるのではないかと疑うことも出来る筈なのに、そうはしないというミステリー。


一方、和田秀樹は

『そうですね。ただ法制化も重要です。残念なことに性加害問題をめぐる法改正が見送りとなりました。LG BT理解増進法よりよっぽど重要だと思いますけど。』

と発言。
LGBT理解を軽視する精神科医とかなかなか香ばしいですね。


そして話は猿之助の事件へ。
竹内久美子はこう言います。

『いじめによる精神疾患の影響は大きい。米国では宗教的な問題も絡みますから、LGBTの人たちが行きづらいのは確かです。しかし、極端な教育が進められているのはいかがなものか。例えば、同性愛者の1人称について「he」「she」とは言わず、「they / them」にしろと言う。小さなころからそんな教育を受けたら、一体どうなるのでしょう。』

… 別に何も起きないと思いますが。
この人は一体どんな理由でどんな事態が引き起こされると思ってるんでしょうか?
さっぱり分からない。


そして竹内久美子は猿之助のセクハラ・パワハラ疑惑や自殺幇助に関していろいろ考察はするものの、その責任については一切言及しません
なんで?
この記事、ジャニー喜多川による性被害疑惑についてはわざわざ被害者証言リストまで掲載してるのに。
竹内久美子が歌舞伎ファンであることと関係あるのでしょうか?

さらに竹内久美子は猿之助の事件は『高齢者問題の歪み』とし、いつもの話題↓につなげます。


『動物行動学の分野では「人間はなぜ閉経するのか」も大きな研究テーマです。というのも哺乳類のメスは生涯にわたって後見つけるのが普通ですから。ところが、人間とシャチ、ゾウなどの場合は生殖能力を失っても、その後、何十年と生きる。しかし、最近の研究で「おばあさん効果」と言って、自分が直接繁殖するよりも、孫の面倒を見る方が自分の遺伝子がよく残る。だから、あえて閉経するようになったと考えられています。
一方で、男性はどうか。そういう効果は残念ながらありません。ただ、村の長老や、ある分野で影響力を持っている人だと、自ら繁殖能力がなくても、子や孫の繁殖に寄与できるから存在価値があります。』



…おばあさん効果は「生殖機能が衰えた後も生き続ける理由」を説明するもので、「生殖能力をあえて積極的に失って閉経する」と説明するものではないと思いますが。

あと
一方で、男性はどうか。そういう効果は残念ながらありません。』
って何やねん…
そもそも
男性は生涯、生殖能力を失わない
というのが標準的な見解ですけどね…。
なので、『おばあさん効果』の様な説明を持ち出して「生殖能力を失った後も生き続けるのは何故か?」という疑問に答える必要はもともと無いんですけど。

それはともかく、男性の高齢者も普通に血縁者の役に立ちうるやろ…
特に高齢の男性は高い地位に就く傾向があり、権力方面から近縁者を助けることは割とデフォでは…
それをわざわざ「稀な例外」みたいに扱う理由が分かりません。

だって女性について
『閉経後の存在価値は残念ながらありません。ただ、孫の世話ができたり、生活に役立つ知識を持っている人だと、自ら繁殖能力がなくても、子や孫の繁殖に寄与できるから存在価値があります』
みたいな言い方はしないでしょ…。


ちなみにちょっと脱線しますが、SF作家で化学者でもあったアイザック・アシモフは『アシモフの科学エッセイ』シリーズのひとつで「魔女」の起源についておおむねこう論じています。

男性は歳を取ると権力が強まるが、女性はそうではない。
そのため、老後に共同体の外れで一人暮らしし、薬草や民間療法の知識を活かして生活する高齢の女性達がいた。
彼女たちは高齢で歯を失い顎が薄くなるため、鼻の頭と顎の先の距離が近くなる。
また孤独で視力も落ちているので整容ができない。
これが「垂れた鷲鼻にしゃくれた顎、毛の生えたイボを持つ醜悪な老女」という魔女のイメージを生んだ。
一方、男性も歳を取ると顎は薄くなるが、髭で見えない。

…竹内久美子の胡散臭いトンデモ説よりずっとリアリティーがありますね。



記事は竹内久美子の↓こんな発言で締められます。

『また、このような性的スキャンダルの裏側で、ジャニーズファンを装い、ジャニーズの性加害を明らかにせよと署名活動まで行っている会の賛同者たちは、仁藤夢乃氏(Colabo代表)や辛淑玉氏(のりこえネット共同代表)など、お馴染みの顔ぶれです。またまた公金を吸い取ろうとしているのではないか、そんな動きがあることも忘れてはなりません。』


…暇アノン化しておられる〜!

ついでに言えば、
『またまた公金を吸い取ろうとしているのではないか』
というのは「多重質問」という誤謬です。
コレ、「はい」と答えようが「いいえ」と返そうが、「以前に公金を吸い取ってた」ことにされてまうやん。

例えば、「君はもう万引きはやめたのかい?」という質問は、「はい / いいえ」どっちで返そうが、「かつて万引きしていた」という前提を認めることになってしまいますよね。
ここでは被質問者が「はい」と答えたくなる質問と、質問者が「はい」と答えさせたい質問、つまり別の問題を同時にぶつけてしまっている訳です。
しかしその人が実際に「かつて万引きしていたこと」は自明ではないのに、いきなり前提にされても困るよね。
こういうのが「多重質問」です。

竹内久美子は
『またまた公金を吸い取ろうとしているのではないか』
と問うことで、「仁藤夢乃氏や辛淑玉氏は以前に公金を吸い取っていた」という、自明でも何でもないことを前提にしている訳ですね。
悪質〜!


有名な言葉でこの「多重質問」に当たるのは↓コレでしょう。


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「はい / いいえ」、どっちで答えても「ウソついてた」ことにされてしまいますね。




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