2023年01月

2023年01月29日


フリーメイソン、イルミナティ、最近だとディープ・ステイト…
世界を牛耳ってると噂される「秘密組織」はいろいろあります。
その中に『スカル・アンド・ボーンズ』というのがあるのをご存じでしょうか?
例えば↓こんな本が出ています。

『ロックフェラー・ロスチャイルドを超える 闇の超世界権力 スカル&ボーンズ 』(クリス・ミレガン&アントニー・サットン 徳間書店 邦訳2004年)

…トンデモ本を出させたら安定の徳間書店。
内容は、Amazonの商品説明によれば↓こう。

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名門エール大学の最上級生の選ばれし15人のメンバーたちで構成されスカル&ボーンズの歴史は200年にも及ぶ。非公開の組織名簿には、かつての大統領タフトから現在のブッシュ・ジュニア、そしてロックフェラーやロスチャイルド家に至るまで、綺羅星のごとくエスタブリッシュメントたちが並ぶ。彼らこそ、世界で唯一の超大国となったアメリカの社会機構のすべてを牛耳り、さらに世界を我が手にしようと目論む秘密結社の理想の担い手たちなのだ!
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…しかしスカル・アンド・ボーンズを理解するには、アメリカのフラタニティ・ソロリティ文化を知らなければなりません。
簡単に言うと「フラタニティ」は大学の男子寮、「ソロリティ」は女性寮のこと。
「社交クラブ」と訳される場合もあります。
寮と言っても日本の大学のむさくるしいやつではなく、セレブ御用達のゴージャスなやつ。


そのステレオタイプなイメージは、

◉豪華な寮があり、選ばれた金持ちの子女だけが入寮を許される
◉寮には「ファイ・ベータ・カッパ寮」など、ギリシャ文字3文字の名前が付いている
◉入ればステイタスが上昇する
◉入寮の儀式があり、秘密結社めいたオカルティックな雰囲気で脅したり、大きな危険や痛み・恐怖・羞恥を伴う試練を課される
◉頻繁に豪華なパーティーが開かれる
◉内部では先輩後輩やステイタスによる上下関係が厳しい
◉一年生の時は地獄だが、上級生になると天国なので我慢する


…といった感じ。
陽キャの金持ちクラブですね。


そして入寮時の儀式は、

◉オカルトっぽいイメージで新入生をビビらす
◉徹底した秘密主義で、洒落にならないパワハラ・セクハラ・暴力の数々を世間から隠す
◉恥ずかしいことをさせたり告白させ、新入生の秘密を握って頭が上がらない様にする
◉厳しい通過儀礼を乗り越えることで集団への帰属意識を高め、仲間同士の結束を高める


…といった効果があるのでしょう。


詳しくは↓この辺を参照。

【ウィキペディア】
『フラタニティとソロリティ』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E3%81%A8%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3


ではこのフラタニティ・ソロリティ文化、映画などではどう扱われてるかというと…

◉『キューティ・バニー』
◉『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』
◉『ハッピー・デス・デイ』
◉ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』


などで描かれています。

『キューティ・バニー』はプレイボーイ・ハウスのバニーガールが没落したソロリティの寮母に転身。
イケてない女子学生たちをイケイケに変身させていく、というコメディー。
「異業種から寮母になって寮生を人気者にしていく」とか、最近のドラマ『君の花になる』にそっくりやな…

注目すべきはパーティーのシーン。
「海神に処女を生贄として捧げる」というくだりがあるのですが、字で書くとオカルティックでおどろおどろしいのに、実態は…
きわどい水着を来た美人(元陰キャ)がキャッキャ言いながら柱の大道具に縛られ、それを陽キャのマッチョたちが「生贄にしちゃうぞ~!」と柱を傾け遊んでるだけ。
双方おもくそ楽しんでます。

アメリカのパーティーってしばしば「テーマ」が設定されるものなんよね…
プロム(高校の卒業パーティー)だと「忘れられない夜」とか「海底パーティー」とか。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも「魅惑の深海パーティー」だったよね。
『キューティ・バニー』も海テーマのパーティーなので、プールサイドに海底神殿風の装飾を作って生贄ごっこ。
平和だな~…


『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』は実話ベースで、ワンダーウーマン原作者・マーストン教授の性へのチャレンジャーっぷりを描いてます。
教授がソロリティの入寮儀式をこっそり覗き見するシーンがあるのですが…
新入生女子が全員、オムツ着用で赤ちゃんの恰好をさせられる羞恥プレイ。
キレて「こんなの平気だもん!」とか言ってる子もいたりして、教授も大満足。業が深い。


『ハッピー・デス・デイ』はループものホラー。
主人公がソロリティで生活しており、マウント取ってくる女子とか出てきます。


『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は女子刑務所ものドラマ。
刑務所を運営する民間会社の女性重役…
その過去話にソロリティでの生活が描かれています。
ソロリティを引っ張る中心メンバーが羽目を外しすぎ、パーティーで泥酔したままトイレに行こうとして真冬の屋外に出てそのまま凍死(ココ爆笑)。
意気消沈するメンバーを鼓舞してソロリティの実権を掌握した子が後の女性重役。
やっぱ気が強い人が出世するんだな~。

ちなみにこのドラマはアメリカ社会のあらゆる問題を描いているので是非。
そのわりにコメディー・タッチで面白いです。



「フラタニティ」という言葉はもともとキリスト教の大衆的でゆるゆるな組織のことで、「友愛会」くらいの意味でした。
ちなみに鳩山由紀夫の「友愛」も「fraternity」を訳したものです。
フリーメイソン関連団体や東方聖堂騎士団もこの本来の意味での「フラタニティ」の一種…
と言うとおどろおどろしいですが、そもそもこの辺の組織はライオンズクラブやロータリークラブみたいなもの
というかライオンズクラブやロータリークラブもフラタニティの一種だし。普通に慈善団体。


【ウィキペディア】
『フラタニティ』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3




でも「宗教組織! フリーメイソン! 東方聖堂騎士団! 左翼政党!」と、中二魂を揺さぶるわくわくワードに溢れてるから、陰謀論者は「やはり…!」と確信を深めちゃうんだろうなぁ…。



ではフラタニティ・ソロリティ文化を理解したところで、『スカル・アンド・ボーンズ』について。

「スカル・アンド・ボーンズは秘密結社だ」って言うけど、それって上記で解説した様に、フラタニティに神秘性をまとわせるための「こけおどし」なのでは…

そもそもシンボルからして↓コレ。
FullSizeRender
組織名とシンボルが「ドクロとぶっちがいにした骨」とかベタ中のベタな海賊旗と同じでわかりやすすぎるやん…。
「すごい秘密組織、作ったろ!」という時にこんなデザイン、選ぶ…?
普通はもうちょっと難解で意図がバレにくい図案にしないですか?

それに「秘密結社」と言っても、結局はバカ騒ぎが好きな大学寮の話。
権謀術策に長けた老獪な陰謀家でも、子供の頃はお漏らしもするし、大学生の頃は普通にキャッキャ遊んでたやろ…

Wikipedia『スカル・アンド・ボーンズ』の項にはこうあります。
『なお、イェール大学には、他に、「スクロール&キー」「ベルセリウス」「ブック&スネーク」「ウルフズヘッド」と呼ばれる結社が存在している』
…他にもいっぱいあるやん。
しかもどれも中二魂全開なネーミング。

「秘密結社」というのは「叶恭子と叶美香は超リッチな姉妹」というのと同じで、あくまで「そういうギミック(設定)」だと捉えた方が良いのでは…。
ちなみに叶姉妹はさほどリッチでもなさげな上に、姉妹ですらありません。

あとアメリカでは子供の頃に友達何人かで「秘密結社」を作るのが遊びの定番です。
このあたりの事情はドラマ『ビッグバン☆セオリー ギークなボクらの恋愛法則』でも描かれてました~。



Wikipediaにはこうあります。

【Wikipedia】
『スカル・アンド・ボーンズ』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA


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アメリカの大学に複数ある排他的結社の一つで、入会に関する一切が不明であり、ただ大学の「新入生の中から15人選出される」ことのみが判明している。

入会式に関しては、「新入生がドロレスをする」「棺桶に入り、初体験などを告白する」と言われる。入会者へは高価な振り子時計が送られ、卒業の際には1万6000ドルが送られるという。

322という数字に意味を付けている。「新入生には、322のナンバープレートを盗ませる」「入会に際し、頭蓋骨と322が描かれ、リボンがかけられた黒い封筒が送られる」「デモステネスの没年である紀元前322年を基本とし、会員(ボーンズマンと呼ばれる)は同年を紀元1年とするカレンダーを使う」などと言われている。

これに関し、スカル・アンド・ボーンズは元来ドイツの大学の学友会で、W・H・ラッセルが、在学中ドイツへ留学したおり、当地の学生と深い親交を結び、帰国後フラタニティの名前を「322番目の」学生結社とした、という説がある[4]。 

真偽は定かではないが、「ジェロニモの墓を暴いて頭蓋骨を持ち帰った」「パンチョ・ビリャの頭蓋骨も所有している」という伝説がある。これはいわゆる「学生なりのジョーク」の可能性が高い。

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…あれ?
最初に紹介した本では
『最上級生の選ばれし15人のメンバーたちで構成され』
と、スカボンには15名しかいないみたいな書き方でしたが…
Wikipediaだと、入会は『新入生の中から15人選出される』とされ、グッとハードルが下がってますね。

あと本の方には『非公開の組織名簿』とありましたが、ウィキペでは『会員名簿は公開されている』となっています。

そして、

◉「新入生がドロレスをする」
◉「棺桶に入り、初体験などを告白する」
◉「新入生には、322のナンバープレートを盗ませる」


…普通にフラタニティの入会儀式ですよね。
完全に悪ノリ大学生やん…

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真偽は定かではないが、「ジェロニモの墓を暴いて頭蓋骨を持ち帰った」「パンチョ・ビリャの頭蓋骨も所有している」という伝説がある。これはいわゆる「学生なりのジョーク」の可能性が高い
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ホラ話&ジョーク。
やっぱり学生ノリ。

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これに関し、スカル・アンド・ボーンズは元来ドイツの大学の学友会で、W・H・ラッセルが、在学中ドイツへ留学したおり、当地の学生と深い親交を結び、帰国後フラタニティの名前を「322番目の」学生結社とした、という説がある[4]。
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…普通に「学友会」「フラタニティ」て書いてあるやん…。


あとウィキペには
『構成員同士が協力し合いアメリカで経済的・社会的に成功することを目的としている』
とあるのですが…
そら同じ寮の出身者同士で助け合うのって、普通にあるやろ…

ヒトは同じコミュニティー出身というだけで、甲子園で地元チームを応援したり、「〇〇県人会」とか作って盛り上がったりするもの。
日本でも善悪は別として、学閥に支配された企業とか普通にあるし、就職活動でコネを頼ってOB訪問したりするやん。
あと富裕層同士が金持ちしか入れない場所(飛行機のファーストクラスとか富裕層向けサロンとか)で知り合い、仲良くなって情報交換したり商談に発展したり、とかってよくある話でしょ。
そうやって富裕層同士が助け合い、ますます裕福になっていくのです。

そして富裕層というのはお金には冷徹で欲深なもの。
中学や高校で皆がロマンティックな恋愛を夢見る中、クラスに一人くらいは「私はとにかくお金持ちと結婚したい」とか言い出す、経済観念全振りの子っていたじゃないですか。
ああいう人を集めたのが富裕層な訳で、そら若い頃から
「将来の儲けのためになんとかしてコネを作りまくって、いずれは楽してがっぽがっぽ稼ぎてぇ」
とか考えててもおかしくないし、そのための団体が結成されててもおかしくないでしょ…。

という訳で、『スカル・アンド・ボーンズ』にまつわる話には特にオカルトじみたところはなく、また彼らが世界を牛耳っていそうな気配はありません。
大体、『スカル・アンド・ボーンズ』がこれまでに何をしたというのでしょうか?
「ジョージ・W・ブッシュを輩出した」というのが最大の功績の様ですが…
息子ブッシュって歴代大統領中、ぶっちぎりでアレだったじゃん!(トランプ出現までは)



あとついでに言うとフラタニティ・ソロリティ文化、日本ではあまり馴染みがありませんが…
ひとつひとつの要素で考えれば、似たよーなものは日本でもそこかしこに見出すことが出来ます。
先述の

◉同じコミュニティー出身というだけで、甲子園で地元チーム応援したり、「〇〇県人会」とか作って盛り上がったり
◉学閥によって支配された企業(就職活動でコネを頼ってOB訪問したり)
◉富裕層同士が金持ちしか入れない場所(飛行機のファーストクラスとか富裕層向けサロンとか)で知り合い、仲良くなって情報交換したり商談に発展したり


もそうですし、他にも

◉子供の頃の秘密結社ごっこならぬ秘密基地ごっこ
◉何故か生徒会が絶大な権力持ってる系の漫画
◉難関だがハイソへの登竜門である宝塚音楽学校への入学
◉体育会系のシゴキと後輩いじめ
◉学校側が介入できない大学自治寮での集団生活


とかいろいろあったり。
ヒトのやることなんて大体いつでも同じなのです。
スカボンの人たちだって普通の人間。
「経済観念が発達した金持ちのボンボン」でしかない彼らから見ても、「世界を牛耳ってる」とかの非現実的なイメージを投影されちゃうのは荷が重いのでは…?





《追記》

書き終えてから↓こんなの発見。
陰謀論者によるスカボンの解説。

【矢口壹琅 の ONE LOVE】
『スカル&ボーンズの秘密』

http://blog.livedoor.jp/yaguchi16/archives/53071254.html







(23:51)

2023年01月22日



説教する時に「君のために言ってるんだ!」とか恩着せがましく言い訳してくる人っていますよね。
そういうのは大抵「いやいや、それ自分の都合を押し付けてきてるだけやん」としか思えませんが。

こういう「相手のこと考えてる振りしてるけど、自分の為やろ?」という言説はそこかしこに見つけることが出来ます。


例えばしばしば男性が女性に言う「君を守る」
これをロマンチックだと思う女性もいる様ですが…
一体何から、誰のために守るのやら。
今どき肉食獣に襲われる様なことはあまりありませんし、事故や犯罪は常に傍にいても必ず守れる訳でもなく、病気は医師でも無理な時は無理。
そうなるとコレ、「悪い虫が付かない様に守る」という、性的ライバルの排除でしかなくね?
男性側の都合やん。

コレについては『こっち向いてよ向井くん』という漫画でのっけから描かれてます。

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【[20話無料]こっち向いてよ向井くん】
https://dokusho-ojikan.jp/serial/detail/t179242



あと「会社が潰れたら路頭に迷うんだぞ」と脅してくるブラック企業。
さらに「会社が儲かればいずれ賃金に反映されるから」となだめすかしてくる、というのもよくある手。
それって風が吹けば桶屋が儲かるシステムやん。

「景気が良くなれば経済が回るから景気刺激策や」
とか
「上が潤えば下に滴り落ちてくるから、とにかく税金を大企業にジャブジャブ投入したらええんや」
というトリクルダウンも
「回り回ってやがて個人に返ってくる」
という、同様の主張ですが…
アベノミクスで我々が景気を実感できてますか?

この辺は
「パイ全体が大きくなれば、パイの一切れも大きくなる」
という『パイの理論』というやつですね。
しかし実際にパイが大きくなった時、それに応じて労働者が受け取るパイの一切れが大きくなるトコなんか見たことない。
給料は何かと理由を付けてはカットされやすく、上げるべき理由があっても一向に上がりません。
この「賃金の上方への硬直化・下方への弾性化」というやつは私は中学か高校で公民の授業で習いました。
もうそのレベルでダメ確定のやつ。

ちなみに大企業の多くは不景気でも莫大な利益を出していますが、「なんかあった時は経営体力が大事やからな!」と言い張ってそれらを社内留保に回してしまっており、労働者には還元しません。
これを批判する日共に対し、古谷経衡が『左翼も右翼もウソばかり』という本で「共産党は経済オンチだ」と反論。
ほうほう、そう言うからにはさぞ深みのある経済学的な話を聞かせてくれるのか…?
と思って読み進めたら、「なんかあった時は経営体力が大事やからな!」という企業側の言い訳がそのまま書いてあってずっこけました。
そんな古谷経衡ですがその後、れいわ新選組党首選に立候補&落選。
れいわの方が経済政策を支持できたんか…?



そしてこの手の怪しい言説の最たるものが「国益」です。
国益とやらになる選択をしたとして、それが個人の幸福にどうつながるのでしょうか?
つながらないなら、個人がそれを行うインセンティブはないよね?

「国益」とか「全体の利益」は大抵、それを叫ぶ者が受益者だったりするものです。
オリンピックとかそうだったでしょ。
『愛国心はならず者の最後の拠り所』という言葉もあります。
そういえば戦争を推進した人が戦場で死んだ例ってあまり聞きませんよね。
彼らは「全体のために」個人に犠牲を強いますが、自分がその犠牲を払うことはまずないのです。
体の良いフリーライダー(ただ乗り屋)やんけ!


そして「会社が潰れたら路頭に迷うんだぞ」式ロジックの延長にあるのが「国が滅べば我々も生きられないんだぞ」というやつ。
え、そうぉ?
民族浄化でもされない限り、国家の看板が掛け変わるだけで、国民は平気じゃね?
実際、太平洋戦争の頃は「鬼畜米英に負けたら男は皆殺しにされ、女は犯される!」と信じてた人もいたけど、敗戦してみたら『大日本帝国』が『日本国』になっただけ
アメリカは皆殺し&レイプどころか、自由や民主主義までくれたじゃないですか。

ましてや市民までもがリアルタイムで全てをネット中継できる現在、どんな悪辣な国家でもそうそう無茶なことは出来ませんよね?


この様に、誰かが「こうするべきだ」と叫んだ時、我々は立ち止まって
「それは誰にとって『そうすべき』なのか? それは誰にとっての『善』なのか?」
と問い直してみるべきです。


そもそもそんなに国益や全体の利益が大事なら、まず提案者が率先して自己犠牲を行うべきでは…

あと個人に犠牲を強いるより、企業を「利潤より公益を優先」にさせる方が簡単で効率的ですよ?

思えば企業って凄いですよね。
だってその存在理由が「利潤の追求」なんやで?
個人が「私は己の利益ファーストで生きてます!」とか言い出したらドン引きですやん。
ところが企業は話が逆。
むしろ利潤に反するコトしたら、それは背任です。
「お客様第一主義」とか耳当たりの良いこと言ってても、それはそうすることが信用を高めて利潤につながるからに過ぎません。
「お客様二の次主義」の方が儲かるなら彼らはそうするでしょう。【註1】
実際、様々な形での消費者への裏切りは枚挙に暇がありませんよね。
セ〇ンイレンの詐欺的なあれやこれやとか。


ちなみに学生の頃、クラスに一人くらいは「とにかく成り上がりたい」とか「愛よりお金でしょ」という、上昇志向が強火の人がいましたよね。
彼らはクラスでは浮いてる存在でしたが、経済界や富裕層は基本的にそういった人たちの集まりです。
だってそういう人でないと経済的な成功は難しいし。
あんなヘンコや奇キャラばかりが経済界を動かしてるのかと思うと怖い。
こういうバイアスが存在することに気付くことは重要です。


脱線してきたので話を戻しまして。
こういった発想は実のところ、進化論と非常に親和性が高いんですよね。

進化論はヒトの行動を説明します。
勿論、ヒトは遺伝子の命令だけを聞く訳ではなく、文化からも影響を受けますが、文化的行動は「遺伝子の文化版」であるミームで説明することができます。
特に「利己的な実体の利益の対立」とか進化論の得意技。
その辺を利用して経済学に援用されたりしてますね。『進化経済学』という分野まであるし。
あと数学のゲーム理論を取り込んだり、実に学際的。
それだけ進化論的発想には普遍性があるのです。



進化論絡みで言うと、本ブログではしょっちゅう群選択批判をしています。
大事なことなので、もっかい説明しておくと…(何度でも説明する)

生物は自然選択によって進化します。
しかし実際に選択される「モノ」とは何なのでしょうか?
ダーウィンは「個体やで」と考えました。
しかしその後の学者たちは「種全体」だと考えました。
これが群選択です。
「オオカミ見てみ?
あのえげつない牙で仲間同士でガチでやりやったら死んでまうやろ。
そうなると『種の存続』が危ういから、儀式だけにしとる」
「大事なのは『種全体の利益』や」
「個体は種のため・全体のために自己犠牲を行うんや」

という訳ですね。
これは一見、説得力があります。

しかしさらにその後、学者たちは気付きました。
「おかしくね?
そら『自己犠牲的な個体の群』は強いやろ。
でもそういう群に『自分は一切自己犠牲をしない、利己的な個体』が出てきたり流れ込んだらどうなる?
コスト支払わずに得だけしよるし、ビチビチ増えるやん。
そしたらその群はもう『自己犠牲的な個体の群』やなくなるで」

…というわけで個体選択が正しく、生物は個体レベルで争っているのです。

「ええっ、ウサギはキツネに捕まらない様に走るやん。
争ってるのは『ウサギという種』と『キツネという種』じゃないの?」

と思われるかもしれません。
確かにウサギとキツネの間には進化的な『軍拡競争』があります。

それでも競争は個体間で起きるのです。
こんなジョークがあります。

◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

2人の登山客が山の中で突然、熊に襲われた。
1人は慌てて逃げ出したが、もう1人はリュックサックからスニーカーを取り出そうとしている。
先に逃げた方は
「一体何をしているんだ!?
それを履いたからといって、クマより速く走れるわけじゃないんだぞ!」
と叫んだ。
もう1人の男は悠然とスニーカーを履きながらこう言った。
「でも君よりは早く走れる様になるからね」


◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


より正確に言えば、本当に選択されるのは個体ではなく遺伝子です。
しかし通常、遺伝子と個体は利害が一致するので、「遺伝子が選択される」の近似として「個体が選択される」と表現しても、結果はほぼ変わりません。
…が、一致しないときは遺伝子の利益が優先されます。


社会を「利己的な実体が協調しあう集合体」と考えるなら、基本的に下位レベル──国家ではなく個人の利益が優先されるでしょう。
個人には身を犠牲にして国家のために尽くすインセンティブなどないからです。
上位レベル──つまり国家のためには、下位レベル──つまり国民を犠牲にしても当然だ、という発想は幻想に過ぎません。


我々の脳は時に体の一部を犠牲にすることも出来ます。
例えば手術による手足の切除──あるいは脳それ自体の一部の切除にさえも──に同意する、といった様に。
しかし手足は文句を言いません。
これと同じ様に、国家が国民に犠牲を強いることを正当化できそうな場合もありそうにも思えます。

しかし、手足が脳の命令に逆らわないのは、遺伝的な未来を共有しているからです。
脳も手足も同じ精子や卵子に乗った遺伝子を通じて次の世代で再生産されます。
手足を切除することで他の部分が生き残り、子孫を残す時、手足も遺伝子の形で生き残るので、手足は切除されても無駄死にではないのです。
つまり脳と手足の間には利益の衝突が起きないんですね。
これは個体と遺伝子の間だけでなく、ハチのコロニー等にも当て嵌まります。
ハチのコロニーは「超個体」とも呼ばれますが、これはコロニーの存続を通してしか個体も再生産されないため(※例外あり)、コロニーと個体の間に利益の衝突が起きないからです。

しかし国民と国家はそうではありません。
国家が国民を犠牲にして生き残った場合、国民は丸損です。



そんなこんなで、進化論を学ぶことは政治についてホント勉強になるのです。
当ブログでも時どき解説エントリを書いてますので是非。


http://wsogmm.livedoor.blog/archives/16462756.html

http://wsogmm.livedoor.blog/archives/16462696.html

http://wsogmm.livedoor.blog/archives/17563356.html


進化論からは、
◉「個体」の様なまとまりのある単位は自らの利益を追求し、自らの存続と最大化を目指す
◉「集団と個体」の様に、異なるレベル・単位の間で利害が対立することがある
◉下位のレベル・単位の利益を確保せずに、上位の利益だけを追求するのは無理がある
◉何かが「利益になる」「役立つ」「ためになる」と言う場合、「その真の受益者はどの単位なのか」を考えることが重要

といったことを学べます。

これらを政治の問題に置き換えるなら、
◉個人も国もそれぞれに自分の利益を追求する
◉個人の利益と国家の利益は対立することがある(例:個人は節税したいが国はしてほしくない)
◉個人の利益を大事にせずに国のために犠牲を強いるのは無理がある
◉「国益を優先すべき」とか言う場合、その国益は自分にとっても利益になるのか、そう主張する者が私腹を肥やすだけではないのか、考えよう

…ということになるでしょう。

国家は個人の上に君臨するものではなく、個人の幸福のための便利な道具に過ぎません。
「国益を優先すべき」といった言説には十分に注意すべきでしょう。

しかし「国益ガ―!」を口にする人は実際には受益者というより、「自分は受益者でもないのに、やたらと受益者の肩を持つ人々」である様に思えます。

「肉屋を支持する豚」という言葉がありますが、受益者でもないのに「国益優先」を叫ぶ個人とはまさに「自分たちの生命よりも肉屋の利益だ!」と頑なに信じている豚のようなものでは…。【註2】

大切なのは「正しい答」を探すことよりも「正しい問い」を発すること。
「その選択は国益にかなうか」の答を考えることも大事かもしれませんが、「そもそもその国益とやらの実際の受益者は誰なのか」という疑問を持つことの方が有益なのではないでしょうか。



例えばこのエントリにしても、筆者は何の益があって書いたのか…。
進化論系エントリの読者を最大化するために書いたのかもよ?











【註1:「お客様二の次主義」の方が儲かるなら彼らはそうするでしょう】

究極的には個人も「自分の利益になることしかしない」とも言えます。
我々は適応度を最大化する様に進化してきたのだし、いかなる行動も快楽原則に基づくのだと考えれば「気持ち良いからやってる」に過ぎないからです。
それでも個人にはまだモラルが期待できますが、企業には見込み薄なんだよなぁ…。



【註2:頑なに信じている豚の様なもの】


敵対者をゴキブリなどの嫌悪感を催す動物になぞらえる、という手法はネトウヨさんの得意技。
こういうのは悪魔化や誹謗中傷なので感心しません。
…が、ここではそういった意味合いで侮蔑的に豚を引き合いに出している訳ではありません。
むしろ誤解を招きそうなので出来れば避けたかった…
しかし「肉屋を支持する豚」は一種の成句なので。
言いたかったことは「自らの足元を掘り崩す様なことはやめなよ」的なことに過ぎません。
それを分かりやすく伝えるには他に例えを思い付きませんでした。
それに豚は実際には清潔好きで愛すべき生き物ですよ?





(23:50)

2023年01月12日


当ブログを読んでいる奇特な人はとっくにお気づきの通り、私の話はその多くが
「○○の構造って××と同じだよね」 
という類似性やアナロジーを扱ったものである。 

この手の話のキモは「どれだけかけ離れたものを持ってきて喩えに使うか」、これに尽きる。 
ヒトが「面白い!」と思うのは意外性に満ち、着地点が予想できない話だ。 
だから予想の斜め上をいく、オチの読めない話を用意した方が良い。 

科学の世界でも、似たもの同士にしか通用しない理論よりは、全く違ったものを統一的に記述できる理論の方が好ましいとされる。 
ニュートンは林檎と蜜柑という「似たもの」のふるまいを同時に説明したのではなく、林檎と地球のふるまいという「違うもの」を統一的に記述した点が偉大なのだ。 
林檎と地球は全く違って見えるが、どちらも重力を持って他の物体を引っ張っているという点では同じである、という風に(まぁあの林檎の話はあくまで伝説だろうが)。 


そして私のアナロジーの大半はセックスにまつわるものである。 
まぁこれはフロイト以来の伝統とも言える(フロイトの精神分析は反証可能性がない疑似科学なので信じていないが)。 



という訳でセックスをめぐるアナロジーについてはさんざん述べてきた私だが、まだ使っていないネタが山ほどあるので一気に放出してみたい。 
あまりに長大な日記は敬遠されるのでこういうのは小出しにした方が良いのは分かっているのだが、たまに力みすぎの日記を書きたくなっちゃうんである。 
アナロジーをいっぺんに並べることによって話がどんどん複雑化していき、「分からんもんを説明するのに余計に分からんもんで例える」という最悪な状況を楽しんでいただければ幸いである。 


かつて友人とラーメンを食べに行った時、その店はカウンターに様々な調味料や薬味が並んでいて取り放題だったのだが、彼があまりにもいろんなものをブチ込みまくってたので「それ却って不味くなってない?」と尋ねたところ、彼はこう答えた。 
「ええねん、ウマいマズいよりも入れることが楽しいねん」 
…まぁ本人が分かった上でやってるならそれもまた良し。 

…みたいなことですよ(そしてこれもまたひとつのアナロジー)。 



数ヶ月前にiPhoneを買い換えた。 
真新しいぴかぴかのiPhoneに傷をつけたくなかったので、無理してめちゃめちゃ高価なiPhoneカバーも購入した。 
2メートルからの落下にも耐え、水中に落としても30分は大丈夫と言う優れものだ。 
ただ充電はカバーを外して行わなければいけない。 

ところが先日、充電のためにカバーを外す時の勢いでうっかり床に落としてしまい、特大の傷がついてしまった。 
損傷を回避するためのカバーをしていたがために落下させて損傷させるとは本末転倒もいいところである。 

だが世の中にはこういうことが結構ある。 


(※これからこの現象をアナロジーを通じてセックスと結びつけていく訳だが、話がスゲェ長大になり、その間にいくつも別のアナロジーを挟むことになるので読む方も大変だとは思うが、頑張っていただきたい) 



私は常々「性感染症って怖ぇ~!」と思っている。 

性が何のためにあるのかは完全には解明されていない。 
しかし仮説は山ほどあり、その中のどれか(もしくはいくつかの組み合わせ)が正解なのだろう。 
その中でも有力なものに「パラサイト仮説」(赤の女王仮説)というものがある。 

感染症を引き起こすのは細菌やウィルスなどの寄生者である。 
彼らは我々の体の脆弱性に付け込み、体内に侵入しようと狙っている。 
どんな強力なプロテクトでも、充分な時間をかければ突破することは可能であろう。 
パラサイト仮説は「セックスは遺伝子の組み合わせを毎世代変えることで寄生者に対抗するための仕組みなのだ」という説だ。 

遺伝子の組み合わせが違えば、寄生者が狙いを定めるべきウィークポイントも違ってくる。 
世代ごとに組み合わせを変えれば、寄生者はその変化の速度についてくるのが難しくなるのだ。 
これは我々が時どきコンピュータのパスワードを変更するのに似ている。 

ちなみに「赤の女王」は『鏡の国のアリス』に登場するキャラクター。 
彼女の国では、「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」のだという。 
寄生者に対抗するために進化し続けたところで、相手も進化するので特別有利になるわけではなく、せいぜい現状維持が精一杯──そんな皮肉な状況を表したネーミングだ。 


ところでラーメン業界に「春木屋理論」なるものがあるのをご存知だろうか。 
これは荻窪の名店「春木屋」の店主・今村五男が着想し、TVチャンピオンラーメン王選手権第2代ラーメン王に輝いた武内伸が普及した理論である。【註1】 

その理論的核心を武内自身の言葉から引用しよう。 

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「『春木屋の味は、いつもかわらない』と言われるが、『変わらない』と言われるためには、常に味を向上させなければならない」 
ご主人のこうした理念にも感銘を受けた。 
終戦後の昭和23年に店を開き、食糧事情がどんどんよくなるなかで、同じものを出していたら、味が落ちたと言われてしまう。ベースになる味は変えず、客の舌の一歩上の味を出しつづけることが、「変わらない」と言われる秘訣だという。 
この言葉は、どんな授業よりもインパクトがあり、リアリティがあった。私はこれを「春木屋理論」と命名し、座右の銘とした。 

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武内伸『ラーメン王国の歩き方』より 


同じ立ち位置に居続けるためには変化を続けなければならない──
これめっちゃ「赤の女王」やん! 


ちなみにこう言うと「変化に最も対応できる生き物が生き残る」というダーウィンの有名な言葉を思い出す人がいるかもしれないが、実はダーウィンそんなこと言ってない。 
この件については下記のエントリを参照。 


【自民党がダーウィンを誤解した件】
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/9619231.html


この「赤の女王」はセックスだけでなく、軍拡競争的な進化ではしばしば見られる。 

例えば樹木の幹。 
植物は葉に日光を受けることで光合成を行う。 
つまり葉とはエネルギー生産プラントなのだ ←プラント(植物)をプラント(工場)で例えてしもてるやん…【註2】 

そのため、葉は日当たりが良い様に高く持ち上げた方が良い。 
こうして幹を持つ樹木が生まれた。 
だがその結果、日当たりが良くなったかというと、そんなことはない。 
他の樹木も幹を持ち、葉を持ち上げたからだ。 

幹を作るには莫大なコストがかかる。 
だがそれを支払ったところで有利にはならず、結果は幹なしでやっていた頃とあまり変わらないのだ。 
それでも一度始まった軍拡競争は止められず、森林の幹はしばしば数十mという馬鹿馬鹿しいまでの高さになる。 
もし樹木に意思があったとして、「全員、一律10mずつ幹を省略」という協定でもあれば全ての樹木が得をする筈だが、もしその協定を破ればその木は太陽光を独占できてしまう。 
そうなると誰もが協定を破りたがるだろうし、むしろ自分だけ協定を守ると不利な日陰に追いやられるのでこの協定は決して守られない。【註3】 

樹木は樹幹・幹・根など多様な生息環境を生み出し、他の生物に餌や棲家を提供していると思われがちだが、実際には自身のためにのみ成長し、それを他の生物がこれまた自身のために利用しているだけのことである。 

この幹とそっくりの事情を抱えているのが店の看板だ。 
看板というのは他店より目立とうとするための競争が起きやすく、しばしば過剰に華美になるものだ。 
周囲が派手こくしているのに自分だけが地味にしてしまうとにぎやかさに埋没してしまう。 
だがコストをかけて派手にしたところで特別有利になるわけではなく、せいぜいがどんぐりの背くらべだ。 
派手さは派手さを呼び、誰もそのサイクルから抜けられなくなる。 
植物の幹がより高くなる方向に進化する様に。 

京都は観光都市なので「景観条例」というのがあり、派手な看板を取り付けることが制限されている。 
マクドナルドでさえ、京都では地味なえび茶色…だったのを通り越して、最近はモノトーンの店舗も。 
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コンビニも。 
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バニラカーですらセピア色。【註4】 
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(上の画像はいずれも拾い物) 

近年になって急に取り締まりがキツくなり、あちこちの店が看板の照明を消す様に指導されたり、撤去を求められたりしている。 
そのせいで使えなくなった看板にもコストがかかっている訳だし、撤去にも費用がかかるので業者の側からはおおむね評判が悪い。 
他にも広告業界の食い扶持とかその波及効果による経済の活性化とかいろいろあろうし、それらの事情もまぁわかるのだが… 
広告に規制が入ることによって長期的に見ればどの業者も過剰な広告コストがカットされ、それでも各店の相対的な有利・不利は特に変わらず、結果的には全員が得をするのではないだろうか。 
少なくとも大阪・道頓堀の巨大看板・立体看板群の様な奇怪なものに発展することはない。【註5】 

つまり景観条例は看板の設置費という無駄な「幹」を全員一致で節約する「協定」となりうる様に思えるのだ。 

京都における景観問題は80年代に観光地・嵐山にタレントショップが林立し、わけても鼻毛をとび出させた寛平ちゃんのド派手な看板が「京都に似つかわしくない」と問題視されたことでクローズアップされた。 
思えばあの寛平ちゃんこそが規制導入を考えさせる契機となった、広告業界におけるとりわけ馬鹿馬鹿しいほど背の高い「幹」だったのではないだろうか。 


…あまりピンとこない? 
ではさらに身近な例を挙げてみよう。 

それは女子のメイクだ。 
「顔をメイクする」という行為に「看板を派手にする」という行為とごく近いものがあることは誰しも理解できることと思う。 
いや、顔を「メイク」、すなわち「作る」のだから看板以上のものだ。 

大抵の女子はメイクをし、それは彼女たちを実際に美しくする。 
だが誰もがメイクという「下駄」を履いている訳で、全員がすっぴんの場合に比べると著しく有利になる訳ではなく、相対的な順位は殆ど変らない。 
全員がメイクをやめるという「協定」があればメイクにかかる手間や費用が省け、全員が明らかに得をする。 
仮に協定が作られても、それを破って自分だけメイクすれば圧倒的に有利なので、協定は常に裏切りの誘惑に晒される。 
また、みんながメイクをしている中で自分だけがメイクをしなければおそろしく不利になる。 
こうしてメイクがすさまじい徒労と浪費であることを自覚してなお、誰もメイクをやめることができなくなる。【註6】 


話を戻すと、どうやらセックスとは寄生者対策のために存在するらしい。 
ところが、寄生者を振り切ろうとして行うセックスを利用して増殖する寄生者がいる。 
それが性感染症を引き起こす細菌やウィルスだ。 

寄生者対策の防衛機構を利用する寄生者! 
なんとも恐ろしく、美しい。 

この赤の女王的なレースはこの先も永遠に続く。 
あたかも軍拡競争の様に。 

「それは血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」【註7】 

…と、寄生者を軍拡競争のアナロジーで説明し、軍拡競争をウルトラセブンの名台詞で説明。 


何かから保護するための対策を講じると、そのための仕組みに乗じて別の脅威が襲いかかってくる。 
その点においてiPhoneカバーとセックスは、非常に似ていると思うのだ。 


…という訳でようやく最初のアナロジーであるスマホカバーと性感染症のアナロジーについての説明が終わった訳だが、話はまだ終わらない。 
この「防御のせいで却ってつけこむ隙が生じる」というパラドキシカルな現象について、さらなる別の例を見つけたので紹介する。 


街中では自動車用の駐車場はそれなりにあるが、原付やバイクのための駐輪場はほとんど存在しないと言って良い。 
だが先日、繁華街の路地の奥にかなり大きな駐輪場がオープンしているのを発見した。 
以来、大変便利に使わせてもらっている。 

この駐輪場はバイクに自分の手でワイヤーをかけてロックし、出庫時に300円を投入してそのロックを外すというシステムである。 
見張っている人はおらず、ワイヤーをかけずに利用することも可能。 
つまりきちんとお金を払って利用するかどうかはそれぞれの良心に任されているのだ。 
当然かなりの割合でお金を払わないフリーライダー(ただ乗り屋)が発生する。 
ワイヤーを全くかけずに堂々と駐輪する者、ロックをかけた様に見せかけているが実際にはかけていない者など様々である。【註】 

ところでこの駐輪場の入り口付近にはなぜかちょっとした空きスペースがある。 
そこにもワイヤーロックを設置し、駐輪スペースとして使えば収入も上がるはずなのに、なぜこんな無駄なスペースがあるのだろうと不思議に思っていた。 

だが何度か使っているうちに謎は解けた。 
どうやら運営サイドは日に何度か、無料使用しているフリーライダーのバイクにワイヤーロックをかけるため、自動車で巡回している様なのだ。 
その際の駐車用スペースとしてあえて入り口付近に自動車をなんとか1台停められるだけのスペースを空けてあるという訳だ。 
そしてこの「無料利用を防止するための見回りのために設けられた空きスペース」を利用して無料で駐輪する輩がもちろん存在する。 

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フリーライダー排除のための見回りスペースを利用するフリーライダー。 
これ寄生者対策であるセックスの瞬間を狙ってくる性感染症と全く同じですよ! 

運営サイドはその後、駐車スペースにチェーンを張った。 


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だがそれでもロックのない隙間に駐輪するフリーライダーは消えず、さらに運営サイドは違反者のバイクをロックするという強硬策に。 
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まさに軍拡競争! 


さて、卑近な話と進化論のアナロジーを語り、進化論と別の卑近な話のアナロジーを語るという実に無駄なことをしてきたわけだが、ここでもう一つ「赤の女王」についてもアナロジカルな話をしたい。 


多くの生物は有性生殖を行う。 
だが何事にも例外はある。 
生物界には無性生殖を行う者も少数ながらいるのだ【註9】。 

そもそも有性生殖は効率が悪い。 
有性生殖の生物は大抵の場合、雄と雌の二型に分かれ、その性比は1:1となる【註10】 

一匹の雌が10匹の子を成すとしよう。 
有性生殖の生物が10匹いたとすると、雌は半分の5匹。 
5匹が10匹ずつ生むので二世代目は50匹。 
その半分を占める25匹の雌が10匹ずつ生み、3世代目は250匹、子を生める雌だけだと125匹。 

ところが無性生殖なら10匹の雌が二世代目には100匹、三世代目には1000匹に殖える。 
しかもその全員が子供を生める雌だ。 

つまり有性生殖は高くつくのだ。 
これを「有性生殖の二倍のコスト」、あるいは「雄のためのコスト」と呼ぶ。 
雄は自分では子を生まない、不要としか思えない存在だからだ。【註11】 

では何故、性は存在するのか? 
こんなにも不合理なのに?【註12】 

有性生殖から二次的に無性生殖に以降した生物にはいくつかのパターンがある。 
まず、遠く離れた系統にぽつりぽつりと散発的に出現していること。 
過酷ではあるが、安定した環境であること。 

つまり無性生殖の系統は長くは続かず、長期的に繁栄することはほぼないらしい。 
そして過酷な環境ではそもそも周囲にあまり生物がいないので敵も少なく、また安定した環境では新たに登場する敵はあまりいないし、急な変動に対応する必要もない… 
こういった状態では子孫にバリエーションをつけて敵の出現や環境の急変に備える必要がないため、効率の良い無性生殖が有利となる。 
だが長期的には敵の進化や環境変化は避けがたいため、絶滅してしまう。 
過酷な環境というのは高濃度の塩分や強アルカリ、乾燥と湿潤の繰り返し、貧栄養や高い水圧など。 
安定的な環境には上記の環境がずっと続く塩湖やソーダ湖、定期的に干上がる湖、深海なども含まれる。 
不死身で有名なクマムシ【註13】や、5000万年に渡りセックス抜きで生き延びてきたヒルガタワムシは体内の水分をほぼ出し切ってクリプトビオシスと呼ばれる乾眠に入る。 

塩や乾燥が菌などの外敵を寄せ付けにくいのは鮭フレークが意外と日持ちすることからも理解できるよね。 






【付記】 

今回、織り込めなかったアナロジーの小ネタがいくつかあった。 
外に使いどころもなさそうなのでメモだけ残しておく。 

◉ランナウェイ:意味が無くても正のフィードバックで浸透 → 台風コロッケみたいなもん 

◉遺伝子優良説(指標説)とハンディキャップ仮説の違い 
・具の多いおにぎりは上部に具を見せびらかすことが可能 
・ハンディキャップ仮説 :具が少ないおにぎりでも上部見せびらかしはできるけど、そのぶん中身スカスカになっちゃう 




《註釈》 

註釈の中にいくつか嘘が混じっているが気にしてはいけない。 


【註1:今村五男・武内伸】 

今村五男:春木屋の先代終身在職店主。「春木屋理論」は今村の着想を武内が定式化した。 
武内伸(Ph.D. 1960 - 2008):TVチャンピオンラーメン王選手権ラーメン王の座は「ラーメン界のフィールズ賞」とも呼ばれる。 
(鬼嘘)


【註2:プラント(植物)をプラント(工場)で例えてしもてる】 

このネタはあちこちで言ってるがウケた試しがない。 


【註3:協定は決して守られない】 

このあたりの事情は「共有地の悲劇」や「囚人のジレンマ」に通じるものがある。 
「共有地の悲劇」については近く当ブログで解説する予定。
「囚人のジレンマ」についてもいつかは扱いたいのだが、良いオチを思いつかない。 


【註4:バニラ】 

バニラは「鞘」の意であり、バニラビーンズが長い鞘に収まっていることに由来する。 
これは鞘状の器官である膣を学術用語であるラテン語で「vagina」と起源を同じくする。 
他にも関節の滑液鞘は「Vagina synovialis」(英語では「Synovial sheath」)。 
したがって風俗求人広告が「バニラ」であることはひどく暗示的。 


【註5:大阪・道頓堀の巨大看板・立体看板群】 

「大阪・道頓堀の巨大看板・立体看板群とその景観」はユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録。 
ただし、「大阪・道頓堀の巨大看板・立体看板群とその景観および大阪人」として自然遺産も兼ねた複合遺産に移行させる動きもある。 
また「負の世界遺産」にすべきとの意見もある。 
(鬼嘘)


【註6:メイク】 

たまにいるノーメイク女子は…あえて日当たり競争から降りた陰性植物の様なものかもしれない。 
植物が燦々と降り注ぐ日光を諦め、森の下生えとして木漏れ日でほそぼそとやっていく戦略を選ぶなら、競争から外れて高い幹を伸ばす必要はなくなる。 
ちなみに私はいわゆる美人への興味が薄く、ノーメイクは特に気にならない。 


【註7:「それは血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」】 

断片的知識から引用したものの、この手の話題に詳しいわけでは全くないので悪しからず。 
私は幼少時、熱烈な恐竜ファンだったので「荒唐無稽な怪獣ドラマのせいで恐竜の地位が不当に幼稚なものとして扱われている」という理由から怪獣には一切の興味を示さなかった。 
後におたく化し、模型雑誌やガレージキット等を通じて怪獣に関する知識に触れたが、原体験を欠いたままなのであまり詳しくはない。 


【註8:フリーライダー】 

仲良し女子はこういう輩がゆるせないらしく、わざわざ手間暇かけてそういうバイクを探してはロックし、「成敗」している。 
しかも駐輪場のオーナーに声をかけて許可まで得て。 
まぁ「駐輪場が赤字になってビルが建ったりすれば自分が停める場所がなくなって困るから」という説明もあるが、それにはコストがかかり過ぎている。 
これは「ヒトは何故コストを度外視してまで熱心にフリーライダーを罰しようとするのか」という興味深い問題であるがここでは扱わない。 


【註9:無性生殖を行う者】 

複雑な生物(いわゆる高等生物)の大半は有性生殖を行うが、単純な生物はそうではない。 
彼らのことを無視したり「下等生物」と呼ぶのは偏見だとは思うが、そのことはここでは一旦棚上げしておく。 
…などというセルフ突っ込み注釈を付けるのって士郎正宗みたいよな。 


【註10:有性生殖の生物は大抵の場合、雄と雌の二型に分かれ、その性比は1:1】 

その理由は下記エントリを参照。 

【性差の起源】
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/16462696.html


【註11:雄は不要としか思えない存在】 

養蜂家にとって雄蜂は労働も産卵もしない無駄な存在だった。 
「ドローン」は本来、雄蜂を指す言葉で、転じて「不活発な活動体」を指す様になった。 
昨今はドローン技術の発達により、不活発とは言えなくなってきたが…。 


【註12:性は不合理】 

この問題の泰斗であるジョン・メイナード=スミスは「Why sex?」という、非常に重要な疑問を6文字で表した。 
ちなみに私はメイナード=スミスとその妻(こちらも研究者)の髪の毛を持っている。 
「史上初めて『Why sex?』という疑問を持った人物」「そのセックスパートナー」のもの、という超貴重品。 


【註13:クマムシ】 

乾燥や放射線や真空に耐えるのは乾眠している時のみだし、爪の先でぷちっと押せば潰れるのでさほど不死身ではない。




(00:09)

2023年01月02日




『自由・平等・博愛(同胞愛)』とか『真・善・美』とか『衣・食・住』とか、「良いもの3つを並べてくくった言葉」ってあるじゃないですか。
たったの3つで覚えやすいし、リズムも良くてキャッチ―。
3つにまで絞り込んでいるので、どれも本当に大切で否定のし様のない、確かなことばかりですね。

しかしこのスタイルはちょいちょい危ないのです。
その3つにさりげなく、自分自身を紛れ込ませて利益を得ようとする不届きものが結構いるのですね。

例えば…
仏教には『三宝』という概念があります。
『仏・法・僧』の3つを指し、三宝に帰依することが仏教徒となるための条件です。
『仏』は釈迦、『法』は仏の教え、『僧』は仏弟子である僧侶のこと…【註1】


…で、そう語ってるのは誰かというと、もちろん僧侶よな?
何そのお手盛りっぷり。
自分で自分を「三つの宝」に組み込むとか、どんだけ厚顔無恥やねん。


同様のものは日常の中にも潜んでいます。

https://www.youtube.com/watch?v=hWMdREBsca4



「♪ばあちゃんの口癖 うがい 手洗い にんにく卵黄…」のアレ。

発言者をばあちゃんとすることで「古来の知恵」っぽい雰囲気を醸し出してますが、コレってカプセルタイプというものごっつ近代的なサプリメントやん。【註2】

おまけに「うがい」「手洗い」と並べることで健康に良いことをアピールしていますが、よく考えれば普通の食材であるにんにくや卵にそれ以上の力などあるはずもなく。

それをよくもこれだけぬけぬけと連呼できたものだと感心。
まったくもって「ばあちゃんにゃかなわない」ですな。

この辺は3つのうち、最後にしれっと自分を混ぜてくるだけですが…


アメリカの保守派にとって大切なものといえば『神・国家・家族』
『神』はそもそも存在するという証拠すらないやん…
『国家』は大切ではあるけれど、それは個人の「忠誠の対象」というよりはむしろ各個人に対して「尽くすべき奉仕者」としてでしょ…。
国のために国民がいるのではなく、国民のために国家が存在してるんだし。


『自由』や『家族』に替えはないけど、『国家』はそうではありません。
国民の生活や権利が守られて文化が継承されるなら、国家の看板は掛け変わっても別に困りません。
この国だってちょっと前に「大日本帝国」から「日本」に変わったけど別に困ってないし。
という訳で、まともなのは実質1つだけ。


しかし世の中にはこれよりも恥知らずな物件が存在するのでした。

2011年、リビアが揺れてた頃…
軍やラジオ局の一部が国民側につきだしてるけど、TV局はまだカダフィ側が掌握していたタイミングで、連日プロパガンダ番組を流していました。
「偉大なるカダフィ大佐、私たちはあなたを守ります」みたいな歌とか。
もはや根拠ゼロのイメージ操作くらいしかできることがなかったのでしょう。

そしてTV画面には常に「国民の皆さんはアラーの神とカダフィとリビアのことだけを考えて下さい」というテロップが表示されてた模様。
国家が国民に思考停止を指示ですか。
神・独裁者・国家。
ひとっつもいらん…実質ゼロ。
















【註1:僧】

僧はもともとは個人ではなく「修行者の集まり・教団」の意味で、後に「出家者」という意味にも使われる様になった模様。
さらに時代が下って僧侶個人を指すのが一般的に。
しかしいずれにせよ、その構成員は僧侶と考えて良いでしょう。



【註2:カプセル】

「健康家族」のライバル「やずや」の黒酢もCMだけ見るとスゲェ美味そうな中国伝統黒酢っぽいですが、実際の商品はカプセルで味はしない模様。
なんじゃそりゃ。



【付記】

この手の自分で自分を持ち上げる連中には気をつけた方が良いでしょう。
彼らのメッセージは結局のところ、自らへ利益を誘導するものに過ぎません。

しかしもっと気をつけるべきは、メッセージそれ自体がそのメッセージのコピーを指示している場合です。
この場合、最大化されるのは発信者の利益ですらなく、メッセージの複製効率です。

こういった「コピー・ミー・コード」として具体的にはチェーンメール、コンピュータ・ウィルス、本物のウィルス、マルチ商法、宗教が挙げられます。
いずれも社会にとって破壊的な効果をもたらすものばかり…。

誰一人得しなくても、メッセージだけが独り歩きして静かに増殖していく…
まるでウィルスの様に。
実に怖ろしいビジョンです。


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ドーキンスは、こんな内容の本を想像するように我々に言った。〈この本を信じなさい。そしてあなたの子供たちにも信じさせなさい。さもないと、あなたが死んだ時、きっと地獄と呼ばれるとても不快な所へ行くことになりましょうぞ…〉。「こういうのが、非常に有効な自己複製暗号(copy-me code)の一例だ。もちろん、指令をすぐ受け入れるほど馬鹿な奴はどこにもいない。『これを信じて、あなたの子供たちに信じるように言いなさい』なんて。もう少しさりげなく、もっとうまい方法で装いを凝らす必要がある。もちろん、私が何について話しているかお解かりでしょう」。もちろん。すべての宗教のように、キリスト教も、特に成功した連鎖手紙の例なのだ。他に何と言えるのか?
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   (ジョン・ホーガン「科学の終焉」より)

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