最近、Twitterに「家族が陰謀論でおかしくなった」系のアカウントが急増している。 
皆さんそれぞれ、情報収集したり、グチる場にしたり、同じ境遇の人とつながったり。 

実を言うと私にも陰謀論にハマった従姉がいたので、その話を書く。 
出来過ぎててネタっぽく思うかもしれないが実話だ。 



従姉のK子ねぇとは昔から仲が良くて、彼女は私にとっては姉の様な存在だった。 
歳は10ほどお姉さん。
細身で美人で、話が面白くてよくモテる。 
K子ねぇの家は裕福で、彼女は若い頃から海外によく行き、外国人との交流も多かった。 

20年ほど前だろうか、K子ねぇの父(私の義理の伯父)に癌が見つかった。 
最悪の癌で進行がおそろしく早く、それからたったの3ヶ月で亡くなった。 
それからというもの、一家は健康にやたら気遣う様になった。 

それ自体は良いことだ。 
だが人の好いK子ねぇの母(私の伯母)は当時まだ一般には浸透していなかったマイナスイオンの座布団を売るマルチに引っかかり、「健康に良いから」と親戚中に送りつけた。 

ネットで調べてみたら、そのマルチの元締めは以前にもアコギな商売をして問題を起こした人物だった。 
それを伯母に忠告すると、伯母は元締めのところに直接乗り込み、それは本当かと詰め寄った。 
元締めはあっさり旧悪を認め、今は反省して社会貢献のためにコレを売っているのだ、と涙ながらに訴えたらしい。 
伯母はコロリと丸め込まれ、「こんなに良い人はいない」と信じることにしたという…全然ダメじゃん。 


そんな伯母とK子ねぇは東日本大震災以降、「放射脳」になった。 
一緒に食事してると、2人とも椎茸を残す。 
放射性物質が蓄積してるからだという。 


うちの親戚はおおむね左翼だ。 
というのは、私の母が親戚中に 
「女に教育はいらん。女が大学なんぞに行くとアカになる」 
と言われたのを振り切って大学に行き、きっちり左翼になって帰ってきて、親戚中をオルグったからだ。 

そんな訳でK子ねぇも若い頃から強火の左翼だった。 
だから「放射脳」になるのはまぁわからなくはない。 
右翼は全方向でデマに弱いが、左翼も健康デマには弱いものだ。 

K子ねぇはいつも最新のニュースについて海外の友人と語り、 
「外国人の友達は皆◯◯って言ってるよ」 
と言うのが口癖で、その内容も「どこそこの国の抑圧的政策が許せない」といったリベラルなものだった。 

それがいつからか変質していった。 
「アポロは月に行ってない」 
「ユダヤ資本ガー!」 
「HAARPガー!」 
などと陰謀論を語り、マスコミを否定して「ネットde真実」に目覚め、トランプ支持に回るというゴールデンコース。 


K子ねぇは知的なのに決定的に生活力に欠けていた。 
朝が弱いのでまともにお勤め出来ず、家が裕福なのも手伝って、のらりくらりと働かずに暮らす、という高等遊民。 
家庭に収まる堅実な奥さまタイプではなく、蠱惑的な愛人タイプなので、2回結婚したが2回とも破綻。

暇してるのでちょくちょく昼間にウチに電話をかけてくる。 

それをたまたま仕事が休みの私が取ると、陰謀論トーク1時間コースに突入。

だがやがて私も忙しくてなかなか家に帰れなくなり、いつしか電話で話す機会も減っていった。 


そして数年後…
突然に伯母から連絡が来た。 
K子ねぇが末期癌だという。 
もともと何年も前から胸にしこりがあったらしい(その時は良性だったのだろう)。 
それが大きくなってきたので医療機関を受診したが、「放射脳」なのでX線検査を嫌がり、おまけに医者がカルテに書いてることを横からチラ見してブチギレ。
そこには「放射線恐怖症」「顔つき悪い」と書かれていたという。
K子ねぇは顔のことまでディスられたと思ったらしいのだが…
医師の使う「顔つき悪い」は「腫瘍が悪性っぽい」的な意味なんですけど。 

そんなこんなでK子ねぇは近代医療に不審を抱き、代替療法のみで治そうとしたらしい。 
勿論それで好転する筈もなく、ついには拝み屋まで頼ったという。 
そして結局、手遅れになってから近代医療に泣きつくという、スティーブ・ジョブズの轍を踏んでやがった。 
その頃にはもはや立つこともできなくなってたという。 

ねぇ、バカなの? 死ぬの? 

…本当に死ぬんだよ。 
非合理的な判断は簡単に人を殺す。

最期に逢いに行きたかったが、「病気で変わり果てた顔を見せたくない」というあちらの意向でお見舞いには行けなかった。 
亡くなる直前にうちの母だけ呼ばれたが、自宅療養してるK子ねぇの介護ベッドの横には、200万円したという謎の代替医療機器が置いてあったという。 

結局は乳癌の一種で、腫瘍が体表に露出する「花咲癌」だったらしい。 
葬儀で対面したK子ねぇのご遺体は別人のようにやせ細り、腫瘍のせいだろう、死んだヤドカリの匂いがした。 
花咲癌なのに代替医療に頼って死亡、って小林麻央と同じやん…。 

あまりのやりきれなさに、涙は一滴も出なかった。 

葬儀の席で 
「故人に最後の言葉をおかけ下さい。聴覚は最期まで保たれ、今なら確実に聴こえると言われています」 
という謎アナウンスが流れる。 
いや、臨死体験した人から「耳は聞こえてた」という報告はあるけどさ… 
腐敗防止のドライアイスで凍りかけてるご遺体には無理っしょ。 

死者とは二度と話せない。 
だからこそ、代替医療や陰謀論などの非合理的アイデアに身を任せ、命を奪われる様なことがあってはならないのだ。 

だがそれらは私の様に強火の批判者のすぐ傍にまで容易に入り込む。 
そして大事な人を奪っていく。 
私はそれらを絶対に許さない。 
まぁこの件が無くても許さないけど。 


葬儀にはK子ねぇの彼氏も来ていた。 
長らく付き合ってる、Sというイギリス人。 
伯母はSに乞われて2000万円ほど貸してるらしい…さすが富裕層。 
だがSは返済を求められても「今はレートが悪いから」とずるずる先延ばし… 
ようやく払う素振りを見せたかと思うと、今度は「雇ってる弁護士が来日したけど、書類を忘れてきた」とかありえないことを言い出す。 
「宿題はやったけど持ってくるのを忘れました」と主張する小学生かよ。 
それでも伯母はSを疑っていない様だ。 
…この人、チョロ過ぎん…? 

この大変に怪しいSの仕事はよく分からない…が、昔は戦闘機に乗っていたと自称している。
イギリス空軍のトーネードに乗ってたという。

女性から金を引っ張っていく自称戦闘機乗り…ほぼクヒオ大佐やん。