『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(秦正樹 中公新書)
という本が出たので読んでみました~。

本書の特徴は、ちゃんと実験をして統計を取っている点にあります。
しかも統計にバイアスが入り込みにくい様に巧みな実験デザインが行われていて面白いです。

まぁ世の中には↓こういう認識の人もいるので~。

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本書をざっくり要約すると↓こんな感じ。

【冒頭】
◉日本人でも少なくない人が陰謀論的信念を持っている。
人は自分の「信念に沿う」陰謀論に弱いので、「陰謀論にハマるのは誰か」と問われれば、「誰もが」というのが答えである
◉「動機づけられた推論」により、人は持論に都合よく解釈する
◉そのため、支持政党によって受け入れやすい陰謀論とそうでない陰謀論がある。
自民支持者は自民に有利な陰謀論を、リベラル野党支持者はリベラル野党に有利な陰謀論を好む

【メディア・ネット・SNSと陰謀論】
◉NHKや新聞をよく見る人は、陰謀論的信念を持ちにくい
◉ヤフコメをよく見る人は陰謀論的信念を持ちやすい
◉Twitterをよく利用する人は意外にも陰謀論的思考に陥りにくい
◉特に若年層はTwitterを主にリア友との交流に使っているため、陰謀論と接触する場にはなりにくい。
◉にもかかわらずTwitter悪玉論があるのは「自分は大丈夫だけど多くの人は陰謀論に騙されやすい」と考える『第三者効果』のせい

【右派の陰謀論】
◉自分自身を「普通」だと考えている人々は韓国やリベラル政党に否定的でネット右翼やオンライン排外主義者の陰謀論を受け入れやすい。
◉「自分は普通の日本人」という認識を持つ人々こそが日本人の平均とは言えない意見を持ち、陰謀論の温床となっている

【左派の陰謀論】
◉一般的に陰謀論は右派の方が信じやすいが、左派も「動機づけられた推論」によって反政府・反自民的な陰謀論に飛びつきやすい
◉右派の陰謀論は倫理・規範を直撃しててわかりやすいが、左派の陰謀論は正当な政治的主張と区別しにくい
◉左派は野党が一本化されずに分裂しているため、国政選挙で敗北続き。
自分たちの意見が政治に反映されない状態が続いているため、選挙制度など「政府の正当性そのもの」に疑念を持ちがち

◉海外研究では、選挙に敗けた側は不正があったと考えたり陰謀論を唱えやすくなる

【政治知識は陰謀論の防波堤になるか?】
◉政治に詳しい方が怪しい情報をブロックできそうなものだが、実際には政治に関心や知識がある方が陰謀論に接触しやすくなるため、ハマっちゃう
◉政治に無関心で社会的・公的な話題よりプライベートな話題を好む人の方が陰謀論を信じにくい

【まとめ】
◉陰謀論は自分の信念や認識の正しさを肯定してくれる「良き友人」となり得る店こそ問題
◉陰謀論が人々に擦り寄ってくるというよりも、人々が好んで陰謀論にすり寄っていく
◉「自分の考えと同じ」噂話には要注意
◉政治家が陰謀論に陥って発信したりしないことが重要。
だが彼らの行動原理は「再選欲求」だと考えると、「政治家は再選のために常に陰謀論を発信するインセンティブを持つ」と言える
◉マスメディアはとりあえずは信頼できる。
問題点もあるが 、BPOや競合他社からの批判という自浄作用があるのが強み。
どこの誰かも分からない人の主張よりは信用できる
◉好奇心は大事だが、政治の話や自分の「正しさ」にはのめり込み過ぎず、「ほどほどのお付き合い」で〜




そして、本書で陰謀論・フェイクニュースとして取り上げられるものは↓こんな。

◉コロナウィルス・コロナワクチン陰謀論
◉Qアノン・大統領選不正選挙陰謀論
◉トランプ就任式に建国史上最多の聴衆が参加(オルタナ真実)
◉マケドニアのフェイクニュース工場が量産するデマ
◉左派による「日米合同委員会」陰謀論
◉福井県議の陰謀論がっちょり冊子
◉自民党元幹事長・甘利明が「中国の千人計画と学術会議がつながってる」という陰謀論を拡散



左右ともちゃんと批判している点も評価できます。
世界的に「右派の方が陰謀論に弱い」傾向がありますが…
一方で「トンデモに左右はない」ので、左派も引っかかる時は引っかかるのです。
いつぞやの日経サイエンス(サイエンティフィック・アメリカン日本版)の「アンチグラビティ―」というコラム欄でも
「保守は全方向の陰謀論に弱いが、リベラルも健康関係の陰謀論には弱い」
みたいなコトが書かれてたなぁ…。
日本だといわゆる『放射脳』がそうですね。

こういった自分たちの弱みを直視し、批判していく自浄作用…これだいじ!