さて前回、
◉ネトウヨさんの持ち出す『韓国起源説』は話盛りすぎ
◉無茶な『日本起源説』もいっぱいあるよ
…という話をしました。
『ネトウヨさん「韓国人は何でも韓国が起源だと主張する!」←は?』
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/17493887.html
今回は『日本起源説』の極北とも言うべき書籍を紹介したいと思います。
それは↓コレ。
『実証 人類および全脊椎動物誕生の地──日本』
(岡村長之助/著 岡村化石研究所/発行 1983年)
岡村化石研究所の所在地は名古屋…竹内久美子生誕の地や!
本書の内容を思いっきり要約すると、
岩手県の長岩山で採った、3億年前の石灰岩を顕微鏡で観察したろ!
↓
いろんな化石が見えたやで!
そしたらびっくりや。
ワイは全長数㎜の、いろんな魚や鳥や獣のミニミニ化石を発見したんや。
恐竜や竜までおったで、もちろん数㎜や。
4㎜の人類も発見したし、「長岩ミニ人」て名付けたやで。
この岩は3億年より前の化石も出るから、ホンマは4億年は経ってるとワイはにらんどる。
全ての脊椎動物や人類は、4億年前の日本で誕生したんや!
ええ~…何やその壮大すぎる日本起源説。
では実際にこの本に載っている写真や図を見ていきましょう。
◉長岩ミニ人類第一号の頭骨化石
…言うほど頭骨か?
◉ミニ人
ほぼ心霊写真。
◉ミニ婦人のプロフィール
◉頭骨の比較
◉生き生きとしたミニ人のご様子
◉原ミニ人の成長変態の段階
なんか「首だけオタマジャクシ」みたいなのから変態するらしい。
発生様式が独特~!
◉狐竜・提灯竜・あざらし竜・細吻竜
オリジナリティー溢れるネーミングセンス。
◉日本始祖鴨の化石
岡村長之助にはこの様に見えたらしいです。
◉絶滅両生類マストドンザウルス(ミニ)の化石
「サウルス」をドイツ語風に「ザウルス」と表記するあたりがレトロ〜。
相当古い資料しか参照してないな長之助。
ちなみに科学ライターの故・金子隆一は岡村長之助のミニ化石群に対し、「それ有孔虫とか放散虫とかの石灰プランクトンやろ」的なツッコミを入れてます。
それらがランダムに入り乱れたトコを切片にして研磨してるので、断面にいろんな模様が見えてるだけ…
要するに多くの心霊写真と同じく、「たまたま顔に見えちゃった」というシミュラクラに過ぎません。
…それがこんないろいろなものに見えちゃうとは、ものすごい視力というか妄想力。
昔、精子を顕微鏡で見てたらうっかりミニ人間が出てくるのが見えちゃった人とかいましたが、それよりもヤバげ。
◉【参考】「精子の中にミニ人間がいる」という『前成説』に基づく精子の図
…その人はこんな感じのモンが見えちゃったんでしょうか?
もちろん、こんなんが学界から認められる筈もなく。
…が、岡村長之助は学会発表も行っていた模様。
「えっソレって凄いじゃん、認められたってコトやろ?」と思うかもしれませんが…
通常、学会は会費さえ払えば誰でも入れるし、学会員であれば誰でも発表はできるのです。
そして岡村長之助みたいなトンデモさんは最終日の朝イチとか、誰も来ない時間を割り当てられたりする模様。
あと岡村長之助は論文をあちこちの大学等に送り付けていたため、それを見つけた学生が話のネタにしている様です。
mixiに岡村長之助コミュがあって、「研究室で見た」という人が何人かいました。
私は昔、NTTの番号案内に聞いて岡村宅に直接電話し、通販でこの本を入手。
「岡村化石研究所」での登録はなかったのですが、「岡村長之助」だと見つかり、(自宅が研究所という、トンデモさんあるあるなのかも)、電話するとご家族らしき方が出て、
「もう本当にあと少しで認められるんです!」
的なことを熱心に語っておられました~。
家族から理解があるのは素敵なことですね。
私も岩石の断面にミニ人がいないか探してみました〜。
お分かりいただけただろうか…職場のトイレの花崗岩に…
アニメ風美少女が!
おちょぼ口やまつ毛までくっきりと保存。
なぜ火成岩に…!?
高温の星から来た宇宙人なのかもしれません。火成人。
【岡村長之助に言及のある資料集】
◉『別冊歴史読本 特別増刊《これ1冊で丸ごとわかる》シリーズ⑩ 禁断の超「歴史」「科学」』
(新人物往来社 1994年)
「現代日本スーパーセオリー① 当世恐竜ギョーカイ事情」科学ライター:金子隆一
志水一夫・原田実・山本弘・永瀬唯といった「と学会」系メンバーも多数寄稿。
◉『新恐竜伝説―最古恐竜エオラプトルから恐竜人類まで、恐竜学の最先端! 』
(金子隆一 早川書房 1993年)
こちらは該当部分が↓ココで読めます。
【地球資源論研究室】
《金子(1993)による〔『新恐竜伝説』(57-68p)から〕》
http://earthresources.sakura.ne.jp/er/ES_K_KK_S1.html
書店で普通に手に入った書籍で、岡村長之助について詳しく取り上げているのは、私の知る限りではこの2冊のみ…
あとは「と学会」系の本で藤倉珊だったが「この本を出版社から出そうと尽力したがかなわなかった」みたいな話をしていた程度かと。
上記で紹介した
【地球資源論研究室】
《金子(1993)による〔『新恐竜伝説』(57-68p)から〕》
より、リンク切れに備えて該当部分を以下に保存しておきます。
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●夢の「恐竜完全カタログ」
恐竜学の世界の奥深さを知り、自分のまだ知らない属名や種名が山のようにある、ということに気づいたとき、誰もが必ず一度は夢見るのが、恐竜の完全リストがどこかにないだろうか、ということである。
これまでに世に知られたすべての恐竜を、属名も種名も合わせて全部知りたい、そんなリストがあるものならぜひ入手したいと思うのは、まあマニアの本能のようなものだが、これがじつは意外と難しい。ある特定の時点(1988年)までに発表されたすべての公式な記載論文についてまとめたリスト、といったものなら「A Bibliography of Dinosauria」という本がアメリカで市販されているのだが、これはあくまでも記載論文およびその他の情報がいつ、何に発表されたかというリストであり、これ自体が恐竜そのもののリストというわけではない。貝や昆虫のように、標本を集めるコレクターや研究者が大勢いる分野なら、その種のリストはそれこそ各国、各州や県ごとにあるのだが、恐竜の場合、なかなかそういうことに手を染める奇特なご仁はこれまでいなかったのである。
だが、さすがにそこは恐竜研究の最先進国にして、カタログ文化の長い伝統を誇るアメリカである。ついに、1991年、長らく待ち望まれていた、夢の「恐竜完全カタログ」がアメリカで刊行された。「Mesozoic Meanderings #2」『中生代そぞろ歩き 第二版』と題されたこのカタログは、体裁こそコンピューターのプリントアウトをルーズリーフで綴じただけの簡単なものだが、1991年までに公式、非公式に発表された、ワニを除く祖竜上目、すなわち槽歯目、翼竜および恐竜のすべての名前を、そのつづり間違いまで含めて完璧に網羅した、労作などという生やさしい言葉で表現できるものではない前代未聞の刊行物である。これぞまさに恐竜研究史上の一大エポック・メーカー、奇跡の書、と呼んでもいいだろう。
著者のジョージ・オルシェフシキーは、現在サンディエゴで「パブリケーションズ・リクワイアリング・リサーチ」というデータ・サービス会社を経営しつつ、全世界の恐竜業界にネットワークを張りめぐらして、膨大な研究情報を収集することにその全情熱を傾けている人物である。1988年には、世界で初の恐竜情報のニューズ・レター「Archosaurian Articulations」を月刊で発足させたが、残念ながらこれは、諸般の事情により、第1巻を刊行し終えないうちに中断されている。
『中生代そぞろ歩き』は、1978年に第1版が刊行されたが、これは今では業界でも幻の本と化しており、むろん私も見たことはない。だが、それから13年の時を経て、新たに記載または命名された恐竜の属はおそらく50近くに達し、さらに多くの種が登場し、一方で多数の名前が抹消された。また、祖竜上目の系統発生の研究が進展するにつれ、これまで誰一人夢にも思わなかった新たな系統仮説が続々と登場し、新しいタクサ(分類群)の名称が洪水のようにあふれ出した。かくして、満を持したオルシェフスキーにより、この間の新たな研究成果のすべてをカバーする第2版が刊行の運びとなったのである。
さて、このカタログのなかにはどれだけの恐竜がリストアップされているのだろうか?
オルシェフスキー自身の系統仮説にもとづく「祖竜下綱・恐竜類(たぶん並列下綱)」のなかの3大グループをそれぞれ集計すると、
獣脚形態上目 162属 (うち不確実なもの46属) 224種
(うち不確実なもの85種)
竜脚形態上目 98属 ( 〃 19属) 154種
( 〃 41種)
鳥盤上目 188属 ( 〃 50属) 287種
( 〃 89種)
合計
448属 665種
これが、1991年の時点でともかくも名前のついた恐竜のすべてということになる。むろん、1993年現在、すでにこのリストの後ろにはもう何属、何種かの新しい名前が付け加えられているはずだ。
およそ恐竜好きな人間にとって、これほど読んで楽しい本などこの世にまたとあり得るものだろうか。全編びっしり活字で埋まった、無味乾燥な名前の羅列。どこにも、一点の図版も入ってはいない。にも関わらず、この本は読む者の魂をして、無窮の情報宇宙に解き放つ魔力を秘めている。文字どおりのトリップである。
その道に踏みこんだ以上は、対象のすべてをわが手のうちにおさめたい、知られているかぎりの全種類をリストアップし、整理し、分類し、体系化し、コレクションしてやりたいという、アマチュア生物学者なら対象がチョウであれ恐竜であれナンキンムシであれ、等しく抱き続けているはずのあの根源的衝動、真の「完璧」を指向する狂おしいまでの欲望を、オルシェフスキーは徹底的に具象化して見せた。身もフタもないとはこのことだ。ある意味で彼は、多くの人々の、「いつか自分こそ」という遥かなあこがれ、見果てぬ夢を完膚なきまでにぶっ潰してくれた、とも言えなくはない。
これが大げさに聞こえるだろうか?
だとしたら、それは単にあなたがこの本の真価を知らないからである。今、試みにこの本のページをランダムに開いてみると、奇しくもティラノサウルス科のリストのページが出てきた。ティラノサウルス科は10属(うち1つは不確実)、14種(うち2つが不確実)を含むと書いてある。
10属? そんなにあったっけ? と、思いつつページをたどると、「属名:マレーエフォサウルス・カーペンター 1992」などという名前が出てくる。
そんな属名を聞くのさえ初めてなのに、その後ろにはシノニム(別名)として、ゴルゴサウルス・ノヴォジロヴィ、アルバートサウルス・ノヴォジロヴィ、オーブリソドン・ノヴォジロヴィ、デイノドン・ノヴォジロヴィ、タルボサウルス・ノヴォジロヴィ、などといくつもの名が続き、最後にこんな注記がついている。曰く-「この属名は、その正式な記載の数年前、すでにカナダのロイヤル・ティレル博物館のスウェット・シャツに現われていた」
いったいこの人の情報網はどんな仕組みになっているのだろうか?
どんな分野のものであれ、情報という奴は、ある程度以上集まって、そのことが人に知られるようになると、雪だるまと同じく、加速度的に集積速度が上がってゆくものだ。誰もが、自分の耳にした最新情報を自発的に送ってくるようになるのである。おそらくオルシェフスキー氏の場合、個人としては世界でいちばん早くそのようなポジションを確立し、みんながその情報網の末端につながることを自ら望むような立場につくことができたのだろう。もっとも、なかには、本当にトンデモない情報も寄せられてくることもあるが。
たとえば、リストのいちばん終わり、「除外された分類群」のコーナーには、一度は祖竜下綱に分類されたものの、その後除外された動物たちの属や種がリストアップされている。そして、さらにそのいちばん最後には、「スペシャル・ノート」として短い付記がついている。
日本の研究者、オカムラ・チョーノスケは、日本の古生代の岩のなかに、より大型でわれわれにはおなじみの脊椎動物、すなわち?ドラゴン?、恐竜、鳥、哺乳類、さらには人間などの顕微鏡的同類を発見したと主張しており、そのなかには体長1ミリの?角竜?、体長2ミリの?カミナリ竜?が含まれる。(中略)私は、このリストが完璧であることを期すため、オカムラの新分類名をここにリストアップする-(中略)-カスモサウルス・ミニオリエンタリス、ケラトサウルス・ナシコルニス・ミニオリエンタリス、そしてブロントサウルス・エクセルスス・ミニオリエンタリス……
これを見たときには、正直絶句した。いくらオタク的に完璧なリストを目指すからって、こんなものまで-いやいや、この岡村長之助氏は、まがりなりにも日本の古生物学会で発表までしてしまったという話だからな。
名古屋で岡村化石研究所という個人研究所を主宰するこの人物は、岩手県大船渡市長岩山産の古生代の石灰岩-聞くところによると、試料そのものは畳一枚分の大きさもないというが-を細かく切って磨き、その表面を顕微鏡で観察することにより、そこに、体長数ミリ以下のハリモグラやツチブタやヘラジカやゾウやツチノコやトノサマガエル、はたまた無顎類ドレパナスピスや迷歯類ベントスクス、新設の「竜科」に属する提灯竜やグレーハウンド竜やあざらし竜、さらには「毛皮の帽子を被り衣服をまとい小走りに走行中のミニ女性」、「大地震に当たり、幼児を抱いて海中に転落し、安全地帯を求めて浅い処を徒渉中、追討の土砂に瞬時に埋没、そのまま死亡して後化石となったミニ父子」といった驚天動地の化石を続々と発見、すべての脊椎動物は古生代の日本に起源を持つとの説を唱える研究者である。(引用は、『実証 人類および全脊椎動物誕生の地-日本』〔岡村長之助著、岡村化石研究所〕より。ちなみにこの本も、渋谷の飲み屋の二階で密かに受け渡されたものである)
別に、私はその主張に対してどんな論評も加える意図はない。日本の古脊椎動物学の大御所、故鹿間時夫横浜国立大教授が、古生物学会の講演会になぜかまぎれこんで発表されてしまったこの新理論を聞いて激怒し、それが教授の死期を早めた、などといううわさも、単なるうわさであると思う。私はただ、このような情報までも収集し得るオルシェフスキーのすさまじい情報収集力、完璧なリストをめざすその執念に敬服するのみである。
ただ、このことを最後に書かねばならないのは非常に残念なのだが、『中生代そぞろ歩き 第2版』は、限定200部しか作られず、そのすべてはわずか2週間で売り切れてしまったということである。もちろん、今後注文が集まれば、オルシェフスキーが増刷に踏み切ってくれる可能性は小さくはない。しかしそれよりも、今は彼が約束する『中生代そぞろ歩き 第3版』の刊行を待つほうがおそらくは賢明であろう。
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