2022年05月05日


新型コロナの流行に伴い、もうひとつ蔓延したものがあります。 
そう、アマビエです。 

その人気は厚労省までがキャラクターに起用するほど。 
ちなみに厚労省のマーク自体も「正面から見たアマビエ」もしくは「使徒トトロ」って感じ。 
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アマビエの様な、「異界から変な奴がやってきて予言をする」系の怪異を「予言獣」と呼びます。 
ちなみに「異界から変な奴がやってきて家に居座る」系の怪異は「藤子・F・不二雄作品」です。 

予言獣には件(クダン)とか神社姫とかアマビコとかヨゲンノトリとかいろいろいるのですが、全般的に漂うマイナー感。 

そんなくすぶり妖怪の中でも特に日陰の身だったのがアマビエ。 
なにしろ記録が1件しかない上、デザインにツッコみどころしかありません。 

しかーし! 
そのゆるキャラ然とした微笑ましいたたずまいと、「疫病を予言した」という実績を買われ、今や予言獣界一の出世頭に。 
まぁ冷静に考えたら「アマビエの疫病予言が当たった」という記録はなかった気がしますが。 


予言獣界隈は調べていくといろいろオモチロイ(水木しげる調)。 
わりとトンデモさん(私も何度か取り上げました)の湯本豪一が意外にええ仕事をしてたり。 
ていうか「予言獣」という言葉自体、豪一メイドだし。 
あと『病と妖怪 ―予言獣アマビエの正体』という本を書いてるのが名作『定吉七番』シリーズの東郷隆だったり。 


しかしこの予言獣たち、実はちょっと危険な存在かもしれません。 

そもそも予言獣ブームの背景となった新型コロナを含むウィルスとは、どの辺が脅威なのでしょうか? 
生物は代謝を行い、そのために必要ないろんな物質を外部から取り込んだり、細胞内にある自前の化学工場で生産しています。 
しかしウィルスは違います。普段は代謝すらしてません。これでは「生きている」とは言えない感じ。 
細胞が化学工場を含む巨大都市の様に複雑であるのに対し、ウィルスは一通の手紙の様なもの。 
エンベロープ(封筒)の中に設計図が入ってるだけ。超シンプル。 
しかしコレが細胞内に感染し、化学工場に設計図を押し込むと、工場側は「あれ? こんな部品あったけ? まぁいいや、図面通りに作って納品しとこ」となるのです。 
しかも、そうやって細胞を乗っ取って作られるのが「人類を喰い殺す禍々しい姿のエイリアン」とかならまだ分かるのですが… 
実際に作られるのは、大量のウィルスのコピー。つまり設計図に「この設計図を100枚コピーせよ」とか書いてある状態。超シンプル。 
つまりこれ、「不幸の手紙」とか「幸福の手紙」とかのチェーンレターとかと同じ仕組みです。 

ただ「『このメッセージをコピーせよ』というメッセージ」が広がるだけ。 
誰も得しない。メッセージを信じて送った人も得しない。 
ただこのメッセージ自体が世に広まっていく、それだけ。 

擬人化して言えば、「得をするのはメッセージそれ自体」と言うことも出来ます。 
しかし実際には、メッセージ自体はただの情報体で、広がろうといった意思すら持っていません。 
それと同様に、ウィルスも別に「広がったろ!」とか「ヒトを苦しめたろ!」といった思考能力はない、ただの物質です。 
しかし、増殖のためにウィルスや細菌が勝手なことをした結果、人体側が機能不全を起こすことがあります。 
これが感染症です(ちなみに細菌もウィルスと同じく寄生者ですが、自前の細胞を持っています)。 

あるいは…症状の一部は、より多くのコピーをばらまくためにウィルスや細菌が起こしているのかもしれません。 
例えば咳やくしゃみは基本的には体が異物を排除するための仕組みですが、寄生者がより効率的に次の宿主に感染するために咳やくしゃみを誘発しているのかも…。 
そうなるとあなたの咳やくしゃみは「あなたの行動」なのか「ウィルスの行動」なのかもはや分かりませんね。 
勿論、ウィルスが意図を持っている訳ではなく、「たまたまそういう結果をもたらすウィルスは広まりやすい」というのを擬人的に表現しただけですが。 


ともあれ、ウィルスはチェーンレターに似ています。 

◉ウィルス:「この設計図をコピーしてばらまきなさい」 
◉チェーンレター:「この手紙を写して知り合いに送りなさい」 

…同じですね。 
そして予言獣は… 

◉アマビエ:「私の姿を写して人々に見せよ」 

…新型コロナと同じ仕組みやん。 
「敵と同じ力で対抗する」とか使徒 vs エヴァみたいでカッコイイですね。 
しかもアマビエ、「私の姿を写して人々に見せよ」とは言ったけど、「そしたら病気を免れるよ!」とか「病気が平癒するよ!」とか1㎜も言ってない。ヤバい。 

さらにアマビエは別の面でもチェーンレターに似てます。 
昔、「不幸の手紙」の「不幸」の部分が筆記による書き写しを重ねるうちに二文字が合体して「棒」になり、「棒の手紙」になってしまった、という珍事がありました。 
まぁ昔、紅茶キノコが人から人へと株分けされていくうちに本来の紅茶キノコは消え失せて雑菌の塊だけが伝達されていった、みたいなものでしょうか(よー分からんモンを余計に分からんモンで例える)。 
アマビエも「アマビコ」の筆写ミスでは、と言われてます(コレを指摘したのが湯本豪一)。 
ちなみに山の妖怪アマビコから海の妖怪アマビエへ変化する、中間種というか移行化石みたいな図も発見されてます。生物進化みたいで興味深い。  
この「コピーミスや中間型が見つかる」というあたりもチェーンレターやウィルスそっくりですね。 

変化と言えば…原図ではお世辞にも可愛いと言い難いアマビエが、流行るに伴い可愛くアレンジされていく様子は興味深かったです。 
一般流通商品は開発に時間もかかるし、失敗できないのであまり思い切ったデザインにはなりにくいのですが、メルカリとかで売ってるハンドメイドのアマビエグッズはかなりフリーダム。 
あっと言う間にベビーシェマ(幼児図形:可愛く感じやすい顔のパターン)に沿って可愛く変化を遂げていく様は圧巻でした。 

進化生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドは進化論エッセイ「ミッキーマウスに生物学的敬意を」(『パンダの親指』所収)に於いて、ミッキーマウスのデザインが急速に可愛く変化していく様子を論じています(テディ・ベアでも同様の話をしてたり)。 
アマビエも、民俗学あたりの研究者がメルカリの商品画像とか保存して論文化してくれたら面白いのに。 
なお、私はいずれ博物館は「コロナ禍の時代にしきりに売買されていたアマビエグッズ」を収蔵するべきだと思っているので、それに備えてハンドメイドアマビエグッズをかなり蒐集しています。 


話が逸れましたが、こういったチェーンメール式の「自己複製だけに特化した」情報体を『コピー・ミー・コード』と呼びます。 
どういったものが含まれるかというと…ミーム学で合意の取れているものとしては、こんなところでしょうか。 

◉ウィルス 
◉コンピュータウィルス 
◉宗教 
◉チェーンレター 
◉ネズミ講・マルチ商法 
◉自己啓発セミナー 

といったところでしょうか。 
ちなみに自己啓発セミナーというのはあまりピンと来ないかもしれませんが、カリキュラムの中に『エンロール』という「セミナーへの勧誘」が組み込まれているのが常です。 

いずれも「その情報を受け入れること」がそのまま「その情報自体の複製・再生産」に直結してますね。 
そしてどれも社会害悪をもたらすものばかり…そりゃそうだ、コイツら「社会のため」ではなく「自己の複製と最大化のため」だけに存在してるんだもん。 



ジョン・ホーガンはその著作『科学の終焉』において進化生物学者のリチャード・ドーキンスにインタビューを行い、こう描写しています。 

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ドーキンスは、こんな内容の本を想像するように我々に言った。〈この本を信じなさい。そしてあなたの子供たちにも信じさせなさい。さもないと、あなたが死んだ時、きっと地獄と呼ばれるとても不快な所へ行くことになりましょうぞ…〉。「こういうのが、非常に有効な自己複製暗号(copy-me code)の一例だ。もちろん、指令をすぐ受け入れるほど馬鹿な奴はどこにもいない。『これを信じて、あなたの子供たちに信じるように言いなさい』なんて。もう少しさりげなく、もっとうまい方法で装いを凝らす必要がある。もちろん、私が何について話しているかお解かりでしょう」。もちろん。すべての宗教のように、キリスト教も、特に成功した連鎖手紙の例なのだ。他に何と言えるのか? 
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あとこれらはチェーンレターの中に含まれるでしょうが、以下の3つも『コピー・ミー・コード』であると指摘しておきましょう。 

◉SNSで行われるバトン 
◉Twitterのリツイート機能 
◉予言獣 

…宗教批判で知られるドーキンスがTwitterに無批判どころか活用してるというのは、なかなかに不思議。 



という訳で、アマビエは「疫病を鎮めるため」ではなく、「アマビエそれ自体の繁栄のため」に存在し、ウィルスと同じ仕組みで人々の脳から脳へと感染していく、恐るべき存在━━文化のウィルスなのです。 

実際スペイン風邪が流行した当時、予言獣の絵を売り歩く人々に対して当時の政府は「人々を科学的治療の足を引っ張る迷信だ」的な扱いという塩対応。 

◉大正時代の政府「クダンを写した絵で不幸を免れられる? 誰やそんなアコギな商売してんのは!」 
◉令和の政府「アマビエ? いいじゃんいいじゃん、厚労省のサイトから図像をダウンロードできる様にしといたからどんどんコピってや!」 

 な ぜ な の か 

今や日本はアマビエ天国。 















【付記】 

まぁ私も予言獣大好きだけどさ。 
コロナ禍なのに「クダンのミイラ」と「アマビエの刷り物」の現物を見に姫路で行われた特別展『驚異と怪異-モンスターたちは告げる-』にも駆け付けたし。 
それ以外の展示は大阪の国立民族学博物館で開催された『驚異と怪異――想像界の生きものたち』とほぼ変わらないのに。 
我ながらご苦労なこっちゃ…しかし大満足。 
ちなみにクダンのミイラは主催者サイドの「伝承通り、似姿を写真に撮って拡散してね!」的な方針により撮影可。 
もちろん撮りまくった。 



【オマケ】 

アランジアロンゾのアマビエが西原理恵子が描いた様にしか見えないのは私だけでしょうか? 



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【関連するエントリ】

《ウィルス》

ウィルスの存在理由
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835555.html

「ウィルスは悪者ではない」という言説
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/12835597.html


《アマビエ》


「アマビエのミイラ」の正体http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13905891.html


《湯本豪一》

戦慄の猫鬼研究会
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13906195.html猫鬼研究会 アペンディックス
http://wsogmm.livedoor.blog/archives/13907119.html






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